◇お姫様に必要なモノ。
キーワード:花・涙
膝から血を流してワンピースを泥だらけにした女の子。転んだんだって、一目でわかった。
レースのあしらわれたふんわりとした白色のワンピースは、チョコレートでフォンデュしたマシュマロのようにその純白さを隠されてしまっている。
声をあげて涙を滝のように流しているのは転んだからと言うだけではなさそうだ。そのワンピースは彼女のお気に入りだったのだろう。
「大丈夫?」
なんて軽率にこえをかけて後悔。
最近の子供は不審者にとても敏感なのだ。知らない人、ましてや高校生のおじさんが話しかけてきたら警戒……いや、警察を呼びかねない事態だろう。それに、向こうがそう助けを求めてしまったらその誤解を解こうとしたところで勝手に容疑を固められてしまう様子が目に浮かぶ。
幸か不幸か、少女にかけた声は彼女自身の泣き声によってかき消されてしまったみたいで、変わった様子は見られない。依然としてわんわん泣き喚く泥にまみれた女の子が立っているだけだ。
そういえば、ギリギリ小学生に見えるぐらいの女の子がなぜこんなところに一人でいるのだろうか。最近の母親は過保護だったりするから、こんな年端もいかない子供を一人で遊びにいかせたりさせないだろう。だからといって近所の子だったとしたら、なぜ親は迎えにこない?
やめだ、やめだ。
こんな事考えてもキリが無い。
そんな無駄な事を考える暇があるなら、この子を泣き止ませる手立てを考えるべきだ。
手っ取り早い方法として、笑わせればいい。
滑稽な事をすればいいのだが、それは少し……いや、かなりハードルが高い。特に、そういった方面の才能が欠落している人間にとっては。
ならば他の方法を試すしかない。
面白さの笑顔ではなく、喜びの笑顔。それならどうにかなりそうだ。
思いついた名案を実行に移すため、いそいそとしたくを始めた。
「はい、お姫様」
女の子の目線に合わせて屈み、笑みを浮かべる。即席で作ったお姫様になれる秘密の道具を、女の子の頭にふわりと飾った。それは、もくろみ通り彼女の頭にすっぽりと収まってくれた。
「おひめさま?」
女の子は頬を濡らしていた涙を引っ込めて、不思議そうに見つめてきた。
「そう、お姫様だよ」
そう言って頭に乗せたものを見せると、女の子は不思議そうに首をかしげた。もしかして、作った事が無いのだろうか。
「お花の冠だよ」
そう、それはシロツメクサで作った花かんむり。小さい頃母親に教わったものがこんな形で役に立つとは思っていなかった。
「頭の上に綺麗な冠があれば、女の子は誰だってお姫様になれるんだよ」
それが、花かんむりだったとしてもね。