勇者様と魔界の姫 ②
前回までのあらすじ
魔界に
勇者が
やって来た
「はぁー・・・・・・」
先日とは違う悩みからため息をつく私・・・。
皆様お久しぶりです、魔王の娘のディアーナと申します。
今回は冒頭からさらっと自己紹介してみました。
“魔王”の娘なんて凄い肩書きを持っていますが私自身は至って平凡です。
平和主義者で事なかれ主義です。
こんなに地味~に暮らしていたというのに先日のあの一件以来、ため息をつく回数が格段に増えた気がします。
・・・それもこれも、異世界から召還されたという勇者様のせいなのですよ!!
おかげで前々から私に対して異常なまでに過保護だった側近がグレードアップしましたよ・・・。
「は【コンコッバーン!】っ!?」
幾度目かのため息をつきそうになった時、勢いよく扉が開かれました。
「お嬢様ぁっ!その悩ましげな吐息、32回目ですよ!エルザは・・・エルザはもう黙って見ていられません・・・!!」
侍女のエルザが主人の返事も聞かずにもの凄い早さで入室して来ました。
何時ものことですが、彼女のアクションは派手です。
「私、お嬢様の憂い姿に胸が引き裂かれそうです・・・!
いっそ原因の胸を引き裂いてきてもよろしいですか?」
「エルザ凄く怖い!!!」
エルザは私の侍女なのですが、元々は人間界の聖女様だったそうです。
幼い頃から“恐ろしい場所”として聞かされていたはずの魔界に憧れ、
周囲に反対されながらも「私は魔界へゆきます・・・!」と強引に一人旅に出たところ、
“世界を救うために御旅立ちになったのだ”と誤解された事に気がつかぬままに私の侍女に。
エルザもエルザですが、何処の人間ともしれぬ相手を娘の侍女にしてしまうお父様もなかなかの肝っ玉です。さすが魔王。
「奇遇ですね、エルザ。私もそろそろあの勇者とかいうくそがk・・・ごほんっ
・・・青年には制裁が必要だと思っておりました。」
ちゃちゃっと行ってきましょうか?
などと言いながら何処ぞへと向かおうとする二人を全力で止める。
血なまぐさい・・・!血なまぐさすぎるよ二人とも!!
「私の事を心配してくれるのは嬉しいんだけどね?別に危害を加えられたわけではないのだし、物騒な事を言うのはやめてちょうだい?・・・ね?」
「しかし・・・あのくそ・・・げほんっ勇者、私たちが正体を偽っているのを良いことに魔界の住人のふりまでして何度も訪れているではないですか。いい加減にめざわ・・・見苦し・・・うぅむ・・・」
「ルードヴィヒ・・・色々取り繕えてないよ・・・。」
「ただ魔界に紛れ込むのなら放っておくのですが、毎回お嬢様を捜し回られるのは・・・奴はストーカーですか?ストーカーですよね?はい、殺って来ますね」
「ルードヴィヒもやっぱり怖い!」
そう・・・あの“目と目があった日”以来定期的に勇者がやってくるようになったのです。
―数ヶ月前―
「こんにちは」
「えっと・・・こん、にちは・・・?」
(勇者が普通に話しかけてきたっ!後ろに見える剣士は顔面蒼白だし、魔法使いは何処見てるのかわからないし・・・どっ、どうすれば・・・っ)
「あの・・・な、何かご用でも?」
「はじめまして、俺、リヒト・クロサ「ク、クリス君ちょっと待とうかぁ!」」
後ろであたふたしていた剣士が勇者をつれて離れていく。
・・・そのまま速やかに帰ってくれないかな~何て思っていたら、だだ漏れのひそひそ話が聞こえてきました。
「何、チャラ男」
「酷い!・・・そ、それより、真名を言うのは魔界では御法度って話、くれぐれも忘れないようにって言ったよね!?今の君の名前はクリスって決めたでしょう!!」
「俺は彼女に自分を偽りたくないんだ・・・」
「何!?今さっきの間に何が起こったの!すぐ帰るって言ってたよね!?」
「俺の全てを知って欲しいし、出来れば彼女の事ももっと知りたい」
「」
ああ・・・剣士さんが言葉もなくしている。
こちらもルードヴィヒがそろそろ動き出しそうなので、ご退場願いたい・・・。
「お嬢様、もうこんな茶番に付き合うことはないでしょう?速やかに帰りましょう」
「そ、そうね・・・こちらから意識がそれている間に退散しましょう」
そそくさと帰路につこうとした・・・のですが。
「待って下さいっ」
右肩をがっしりと掴まれてます!何コレ怖い!
「ひいっ!」
「突然すみません、でも俺・・・どうしてもまた貴方に会いたいんです・・・」
「えっ(迷惑っ!)」
「少しで良いんです、またこうやって会って話をするだけで・・・」
「あのっ」
「もし・・・この願いが叶わないなら・・・自分でも何をしてしまうかわからない」
最後の方小声だったけど聞こえてますよ!
これは・・・脅迫ですか!
さすが勇者、末恐ろしい・・・!
よくわからない勇者の恐怖に震えつつもその後何とか次の約束をするに留め、
勇者一行には帰って頂きました。
私としてはあわよくばこの約束もうやむやに出来ないものかと思っていたのですが、
それどころか勇者はあの後・・・かなり頻繁に魔界にやって来ています。
恐らく強制的にお供をしている剣士さんが来るたびにげっそりしていっているのが痛々しい限りです。
・・・今度魔界で評判の胃薬でもプレゼントしようかしら?
現実逃避をしていると、近頃では感じ馴れた勇者一行の気配が。
「・・・お嬢様、いらしたようです」
「そうね。・・・行きましょうか」
魔界の平和を守るため、今日も勇者様を迎えに行きます。
・・・そろそろ本当に疲れてきたので、だれか助けてくれないかしら・・・?