表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月日頑固の幽霊なショートショート  作者: 内気でロバ顔
幽霊編
7/31

7.幽霊はさみしいので頑固に憑く①

僕は怖い話しをした。僕にとって怖い話だったから、たぶん相手も怖がってくれるだろう。


相手とは済崩さんのことで、今、耳をこちらに向けて準備万端(じゅんびばんたん)の様子だった。僕のしゃべる声量が小さいからだろう。耳の周りを手のひらで半分ほど(かこ)って聞こえやすいようにしている。


ブツブツと物語を話した。相手の顔を見るのが恥ずかしいので下を向いて、(かた)りだした。


相手の横顔が綺麗でおもわず、見惚(みと)れてしまうのは毎度のことだった。いえ見てません。床の木目しか見ていませんから。許してください。僕は誰の横顔も見てません。このことを話したあとは、死にたくなる衝動にかられるでしょう。


うう、恥ずかしすぎて生きるのがつらい。




 •••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••





「やっぱり、この味だね!」


 そこには美味しそうにソーダ味のガリガリくんを食べる彼がいる。そしてその隣には僕がいる。美味しそうにガリガリくんをこれみよがしに見せつけられても、腹がたたなかった。それは彼に罪の意識を感じているためだろう。つまり僕はここにいてもいいのかということを、彼の隣にいると不意に想像してしまうのだ。こんなことを考えている僕に対して彼も心の中では居心地が悪いと感じているのではないだろうか。


 小学生を卒業し、お互い中学生になった。中1になっても、ちょくちょく僕に遊びの電話をくれた。


 ••••••


 二年後、そんな彼が行方不明になった。


 夏休みに入り、三年生の僕は高校入試に向けて一生懸命に勉強をやるはめになった。


 夕飯を食べ終わって一息ついた頃のこと。


「ピンポーン」


 玄関から呼び出し音がする。スライド式の引き戸をガラガラと開けてみた。しかし誰もいない。玄関前の砂利の上にユリの花束がおかれていた。それはこれまで見たことの無い色をした赤色のユリである。外の薄暗い雰囲気と濃い赤が実に馴染んでいて、背景の黒に溶け込む妖花のような異彩を(はな)っていた。


「だれかいないですかー」


 一応、大きな声を出すものの、誰の気配も感じない。仕方ないので(あず)かっておくことにした。


 ユリが好きなことを親以外の人が知るよしもないのに、こんな形でなぜ、誰がおいたのだろう。食事がのどを通らないほど、不思議な落とし物について考えていた。


 しかし、それはほんの少し脳に(もや)がかかったぐらいのことで、お笑い番組を見終わった深夜にはすっかり忘れてしまった。つまり僕は不安から逃げるのが得意な現実逃避野郎である。


 そのユリを勝手に生け花にして寝室におくことにした。眠る前に、花の香りで(やす)らぎの空間をもたらしてくれるだろうとの期待からその場所にした。


 だが今夜は寝付けなかった。もちろん予想以上の花の臭いのキツさのせいで、若干(じゃっかん)めまいがした事も原因の一部分に入るだろうが、何かにとり()かれたような、過去に経験したことの無い感覚が全身をつつんでいったことが寝付けない一番の要因だった。


 どうやら体の各パーツを動かそうとしても、うまくいかないようである。手と足の先や、頭を痙攣(けいれん)を起こしたような震えた形でしか動かす事ができない。


「え…ぇぇ」


 言葉にするにも、口の周りの筋肉が(こわ)ばって正常に働いてくれない。どうすることもできない。助けを呼ぶこともできずに恐怖が襲う。(助けて!)心の中の叫びを(うった)えるが、伝えたい相手にとどかない。そんな(おび)えの声音が、悲しみの声音に変わろうとしている間に、地道ながら時計の針は動いていた。何モノかの気配を察知するも、息苦しい畏怖(いふ)の念をいだくだけでいいことはなにも無かった。


 ずっとこの状態なのがもどかしい…。

 もうどうなってもいいか…。

 あきらめてしまおう。


 つい口癖が脳内でかわされた。


 そんな時、ギシギシと一定のリズムでなにかが近づいてくる音がした。


 いったいなんだこんどはっ!


 極限を超えてしまいそうな緊張感で、うみだされた思考は奇抜な内容だった。


 というか怖過ぎて、お()らしを、してしまいそうだった。だから今の極限状態の彼に平常心を求めても無意味だったのかもしれない。


 もう、これ以上、僕をおどろかさないでくれっ!怖くて怖くて本当に漏らしそうだっ!そうか。わかったぞ。このわからない何かの意図が。そいつは僕にお漏らしをしてほしくて尿意いがいの神経を不随(ふずい)にしたのだ。どうやら、こいつはとんだフェチ野郎だ。なんてことだ。僕はお漏らしをしないと、この金縛(かなしば)り状態を()いてもらえないのか。なんてことだ。


 僕はどうやら、決断を(せま)られている⁉





 仕方が無い。


 またいつもの口癖がでてしまった。





 フ。これが人生の試練とやらか。


 僕は神経を一箇所に集中させた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ