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月日頑固の幽霊なショートショート  作者: 内気でロバ顔
幽霊編
5/31

5.対面した月日頑固

彼女はいった。

僕は「死んだ幽霊」だと。


まあ、そうかもしれないと思った。

自分も、「ああなる」かもしれないと思っていたから、そう思った。


あの青くなった冷えた体。あの感触は簡単に忘れられるものではない。もしかするとあれは「幽霊」では無かったかもしれない。怪物とかゾンビといった得体の知れないものかもしれない。


あれは暗闇の中、気配を消して突然現れた。だから、幽霊だった可能性は高い。


そもそも幽霊とは何だ?といった疑問をもってはいけない。そんなものわからない。なので、幽霊(わからない)と表記すべきかもしれない。


そんな理由はどうでもいい。僕は見た。あの幽霊(わからない)をこの目で見て、実感した。


あれは怖いものだ。畏怖(いふ)すべきものだ。


でも、僕は受け入れた。あの怖い化け物を受け入れて、許した。存在を与えてあげた。僕の前だけに現れる幽霊(わからない)にした。僕は彼女の幸せだけを祈り、毎夜、合掌をした。

顔面を慈愛で満たして、

「楓が幸せでありますように。ありがとう」

口にしたあとは、不思議な感覚になる。

僕は、あの頃からやる気の低い人間だった。

でも風呂場とか、人目の少ない個室で一言(ひとこと)

ありがとう。

それだけでなにかが、変化した。

なにが変わったのだろう。曖昧な推測をしよう。

これは、心が変わったのかもしれない。

これは、愛かもしれない。

••••••


は。

過去を思い出しながら妄想してしまった。今、目の前に済崩葵(なしくずしあおい)が座っている。ここは喫茶店。穏やかなメロディーがこの空間を包み込む。僕は飲食店のような人が密集する場所が苦手だった。大勢の目が僕を攻撃しているように感じるからだ。息苦しくなる。しかし、今は気が楽だった。なぜだろう。この人が持っているオーラが起因しているのだろうか。青いつなぎ服を着たままだから、青色のオーラが見えそうだ。


「あの、急に連れ出してなんなんですかね?僕は幽霊だから、自由気ままに時間を使いたいんです。用が無いんだったらもう帰ってもいいですか?」


僕にしては饒舌(じょうぜつ)だ。一回も噛まなかったし。

対して、


「ダメダメー。私が大事な話しをするんだから、勝手に帰ったら死刑だよ」


済崩(なしくずし)さんは、僕を脅迫した。殺されるのは嫌だったので、彼女のいうことに(したが)うことにした。


「なんなんですか、大事なことって?」


すると、数秒間をおいて彼女はいった。ギンギラに瞳が輝いていて、躍動感(やくどうかん)たっぷりにこういった。


「私の妹のことなんだけど…」


妹?なぜいきなり妹という単語が出現したのだ。僕はわけがわからない、という顔をした。ちょっと眉間(みけん)にシワをよせた。


苗字(みょうじ)が、結婚して済崩になったからわかんなかったよね。私の旧姓は哲学なんだ」


僕はパっと、ひらめいた。

あのマイペースな哲学楓(てつがくかえで)の姉。

なるほど、わからなくもない。

楓はもうこの世に人間として生きていないが。

(なつ)かしく思い出した。


彼女は座っている椅子から身を乗り出して、饒舌にしゃべりだした。


一方的な会話になるのも、楓にそっくりだった。

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