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月日頑固の幽霊なショートショート  作者: 内気でロバ顔
幽霊編
30/31

30.頑なに固まったエンド②

「あ。いたぜ!」


先ほどの店員。つまり哲学楓がレジ前に立っていた。受付けの仕事をしているようだ。


まあくんは先ほどまで頭にかぶっていたハット帽を、右手にもっている。


僕は席についたまま、彼の行動を観察していた。


いったい何をするのだろう?


まあくんが、楓に話しをしているようだ。


「お客様。どうかなさいましたか?」


「ボクのこと、覚えていなくても、わかるだろ? ほら、よく見てくれ」


まあくんは身体を見せびらかすように、両腕を広げた。目立つような仕草を、お店の中でやってほしくないのだけど…。


楓は唖然(あぜん)とした顔をしている。


「…あの時の」


あの時とは、中学の時という意味なのだろうか?


「ああ。そうだぜ。あの時のボクだ。久しぶりでよくわからなかっただろう?」


「あの時は…どうも。まさか、また会えるなんて…」


「そうだな。また会えるとは、ボクも思っていなかった。これも、あいつのおかげなんだぜ」


まあくんは僕の方を向いた。


「想像力を捻出(ねんしゅつ)して頑固ちゃんがボクを、()くりだしたんだから、な。どうだ?スナフキンに似ているだろ?」


「…」


「ん。どうした?」


「全然スナフキンに似てない」


まあくんは驚愕…というか、なんだか絶句したような顔になっていた。


「そ、そんなことは無いはずだぜ?だってボクは頑固ちゃんが貼った掲示物そのものであって、スナフキンでないとおかしいんだから」


「その掲示物っていうのがよくわからないけど…」


それを聞いて納得した。きっと僕の作った掲示物の絵は、下手くそだったんだ。だから、まあくんがスナフキンに見えなかったのだろう。


十年前の中学三年生の時に僕は、廊下のあの掲示板にスナフキンの絵を張るという「行為」をした。それが無念にも楓に見られることの無く、終わってしまったから。だから想像を実体化させ、まあくんを作り出した。あの絵に似ている彼を。


「頑固ちゃんはなあ、中学の楓の不登校を(おもんばか)ってあるサプライズを目論(もくろ)んだんだ。それは、僕、スナフキンの絵を学校の掲示物として貼ることだった」


「…」


「でも、不登校のまま楓は学校に一度も登校しなかった。彼は卒業の日まで待ち望んでいたんだぜ?楓があの絵を見て喜ぶ姿を想像しながら、ずっと、ずっと希望的観測にふけっていたんだ」


「知らないわよ」


「そりゃあ、そうさ。知らない。これは、頑固ちゃんの自己満足でしかない。まさか、ボクを具現化して、楓に憑かせるなんて、尋常な人間のすることじゃないな」


「月日頑固くん…」


「ふっふっふ。それは、まあ、あいつにぴったりの名前だよな。あいつは煩悩(ぼんのう)を超越した存在なんだよ。「楓が幸せでありますように」って(おが)むあいつは、(さと)りを開いているかのようだったぜ。これが人間が彼岸に達する行為だと知らずに、毎日、欠かさずやっていた。やる気が無いとか言って、自分がやりたいことをやっているわけだから笑えるぜ。………(つき) 彼岸子(ひがんこ) まさにこの名はあいつにぴったり当てはまる」


まあくんは、シニカルな笑みを浮かべてそういった。死んだ幽霊ではなく僕が創り出したまあくんは、そもそも、僕の創作だ。あの知名度の高いスナフキンになど、似ていない(そもそも僕は絵を書くのが苦手だ)。でも、僕は十年後しに再びまあくんを憑くり、楓に見てもらうことができた。それだけでじゅうぶんだった。


やる気はないのに。


それだけで、僕の口元を緩み、嬉しい気持ちになった。


十年越しの悲願を叶えてくれて、ありがとう。まあくん。


••••••


会計をすました僕は一人で喫茶店を出た。外はもう真っ暗だ。車に乗り込もうと、ドアを開けようとした時


「あの、ちょといいですか?」


背後から声がした。

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