20.ガン二度み
聞き上手な僕は冷静沈着だ。
ほほう。弟が幽霊とは。新しい展開だ。
というか、それどころではない。まずい。非常にまずいぞ。
トイレに行きたい。このままでは膀胱炎を発症してしまいそうだ。僕はわさわさと足を組み直したりして、合図をだしている。
合図。つまり、小便にいかせてくれアピールである。
まさか、(一方的な)会話がこんなに長引くとは思いもしなかった。小心者なので、ズケズケと「ちょっとお手洗いにいくね」とか言えないのである。
••••••(15分後)
もじもじアピールが功を奏したようだ。
「さっきから挙動が不信だよ。どうした?トイレにいきたいのか?」
…
「ぁ…はい、…そうです」
作戦は成功だ。トイレに小股の早足で駆け込んだ。後ろで「トイレにいっトイレ」と聞こえたような気がしたが、たぶん気のせいだ。楓がそんなダジャレを言うはずがない。
••••••
ふう。リラックスリラックス。
小便器と向かい合う。
どうやら、お隣さんも使用中のようだ。
慌てていたためぼやけた視界が、クリアになっていく。緊迫がゆるみ、平常心をとりもどしつつあるようだ。
お隣の便器から液状のなにかがぶつかる音がする。
僕も同じような格好で、ポージングしている。
おや。僕のほうが先に用が済んだようだ。チャックを閉めた。そして、手を洗いに向かった。
すると、お隣で引き続き用を足している方の顔が見えた。
…。
おい。嘘だろ。
僕は目に見えたものを疑った。
「あの時の幽霊が…こここんな」
こんなところでなにしてる。
反応があった。「んー?」と首をかしげてこちらを見た。
「ビックリだ。てめえは、頑固ちゃんじゃねーか」
‼‼‼
身体ごとこっち向くな。首だけでいい。用を足しているときに便器から、的を外すやつがあるか。
「まあくん。それ恥ずかしい行為だと認知したほうがいい」
「まあ。すまんすまん。思わぬ衝撃を受けて的を外してしまった」
まあくん。ハット帽かぶってるし。全身紺色の服装だし。あの時の光景と類似している。十年前のあの幽霊はきみだったのかな。そうなのだとしたら、とんだ勘違いをしてしまったことになる。楓は幽霊ではないんだ。それはとても、嬉しい。
「おやおや。頑固ちゃん、女の子なのに男子トイレ入っちゃ駄目だよー。可愛い顔立ちしてるんだから、自覚ある行動しないと、いつか痛い目にあうよ」
違う…。
僕は…。
「僕は女の子じゃない」