18.ガンみ
「本当に楓なの?」
まさか、楓は生きていたなんて。僕はいままで、ずっと、楓は死んだのだと思い込んでいた。あの夏、幽霊になって実家に現れたのだと、勝手に想像していた。
「だからそうだって、いってるじゃん。そして、私がここにいるのは必然だよ。頑固くんに会いにきたんだ」
「なんのために?僕に会いにくる理由なんてなんにも無いでしょう?」
「いったからだよ」
「いった?…って、誰が何を?」
「頑固くんがいったんだ、大好きって私に」
ああ、幼児の時の話か。たしかに言った記憶がある。
「それは、楓が「大好き」って僕に言ったから、それをそのまま返しただけだよ?あれが、そんなに意味のあるものだったとは思えないけど」
「それだけじゃない。きみは忘れてるんだよ。私にしてくれたことを」
僕が、忘れてる?たしかに、僕は過去におこった出来事を忘れるのが得意だ。学生時代のクラスメイトの名前と顔が思い出せないこともよくある。
でも、楓のことで忘れていることがあるなんて、ちょっと驚きだ。所詮、その程度の脳味噌だってことか。
「わかりませんね…。よく…思い出せませんよ」
僕が忘れているだけで、楓は覚えているというのだ。それを聞くと、なんだか、うしろめたい気持ちになるなあ。
もしかすると脳の海馬の部分に欠陥があるのかもしれない。
テーブルの下に視線をやる。
うう。うしろめた過ぎて床の木目になりたい。
「大丈夫だよ!思い出す気がおきないだけだよ。やる気が低いのはしかたない。昔っからそうだったし。だから、無理に思い出さなくていいんだよ」
違う。現在の月日頑固はやる気が低いのではない。そもそもやる気が無いのだ。そこは取り違えないでほしい。
どちらにしても、やる気が無いので思い出す気はまったく無かった。こういうのを結果オーライというのかもしれない。
「で、幽霊の正体は、なんなんですか?あれに見覚えがあったのは確かなんですが…。楓に似ていたような…」
「弟のことを あれ とかいうな」
別に弟の悪口を言ったわけじゃあないけど。
…ってあれ。
弟…。
「あの…弟って言葉が…なんで急にでてきたのでしょうか?」
…。
一拍、間をおいてこういった。
「弟、スナフキンみたいだったでしょ?」
はい。
はい?