17.頑固帰る!
「じゃあ、そろそろ帰ります」
会計を済まそうと思って、席を立ち、レジに向かった。すると、呼び止められた。
「待ってよ頑固くん。楓のことをおいていく気⁉」
「だから、今の僕はやる気が無いんですって」
おいていく気も、おいていかない気も無いんです。そもそもやる気が無いんですから。
やる気が無いから、楓という言葉に無関心だった。まさか、済崩さんが楓だったなんて、まだわかっていなかった。とんでもないやる気の無さだ。
「あの居間で見た、幽霊のことを知りたくないの?」
僕はピタッと歩む足を止めた。
いや、知りたいけど…。
「頑固くんは、幽霊じゃないし!楓も幽霊じゃないんだよ!頑固くんは勘違いしかしていないんだよ!頭を使えよ!頑固くんは何も考えてないんだね!」
何も考えてないことはないんだけど…。
そもそも何も考えてなかったら、人間ではないような気がする…。「考えてる状態」の判断基準が曖昧だし、あなたは僕の脳内情報がわかるのですか?と問いたくなってくる。
誤解を生みそうな発言はつつしんでほしいのだが…。
「じゃあ、ぜひ聞かせてくださいよ。あの居間で見た幽霊が何者なのかを」
「わかった。だから、椅子に座れ。でないと、話し辛いだろうが」
なかなか強気な済崩さんだった。
••••••
「はい、座りましたけど⁉」
僕は少し不機嫌になっていた。
頭を使えよ!頑固くんは何も考えてないんだね!という言葉が脳裏をよぎる。
先ほどの人を馬鹿にした言い方はよろしくないと思う。
って僕は人ではなく幽霊だったなと、やる気の無い頭で思い出した。まあ、どっちでもいいや。
「ふん。じゃあまず始めにきみの性別を教えてくれ」
「嫌です」
やる気の無い僕でも、黙秘権はあるだろう。僕は男だ。たぶん。
「プ。まあ、いいけど」と彼女はいった。そして、おもむろに左手を差し出してきた。
なんの仕草だ。と思ったが時すでに遅し、僕の左手はガッチリ頑なに固定されたていた。再び左手が握力計にされてしまったようである。
要するに、半強制的に握手している状態になった。
つなぎ服の瑠璃色が発光していた。まるでパワーストーンのようになにか力が湧いてくるような、異様さだ。まぶしくて、見ていられなくなる。
嘘だ。
まぶしいのは彼女の笑顔である。
その屈託のない表情をみて、記憶が一致した。
「かえで…な、の?」
彼女が「楓」であることに、やっと僕は気づいた。
「え。気づいてなかったんだ。さすがは頑固くんだね」
僕は褒められた。