15.月日頑固の主観 どっちが無自覚?
楓が無自覚?
僕はそんなことを済崩さんに言ったのだろうか。よく覚えていない。
もしかしたら、回想にふけっている時に、思わず口に出てしまったのかもしれない。
僕の失態なら謝らなければなるまい。
「済崩さんの妹のことを無自覚と言ってごめんなさい」
すると、相手は、憤慨したように眉間にシワをよせた。「むー」と、うなったような声を出す。僕はその仕草の意味がよくわからなかった。
…それにしても、あの紺色の「何か」が楓ではないのだとしたら、いったいあの正体はなんなのだろう?
「見覚えはあったんだけどな」
僕が独り言をつぶやいていると、対面している方から、
「思い違いなんじゃないの?それは100%楓ではないよ。これは、私が保証する」
凄いな。100%って、どれだけ自信があるんだ…。まあ、楓が紺色を着ない人間だとしたら、その可能性は高いのかもしれないが…。そこまで、断言できる理由にならないような気がする。
済崩さんは、他にも知っていることがあるのでは?
「あの、一つ質問いいですか?」
「ん?ああ、いいよ。好きなようにすれば」
好きなように、質問していいそうだ。人に質問するなんて、下僕のように人の意向を受けいれ、されるがままの僕にとって、珍しいことだ。まあ、それぐらい聞きたいことだったのかもしれない。
「楓さんは、本当に済崩さんの妹なのでしょうか?」
…
いまの間は何だ。
握りしめていた僕の左手の圧縮が、解放された。彼女は自身の左手を頭の上にのせ、「あっちゃー」とつぶやいた。
あっちゃーとはなんだろう?そういえば昔やったポケモンのゲームでアチャモというキャラクターがいたが、まさか言い間違えたのだろうか?まあ、言い間違えることば誰にでも起こり得るミスだ。もしそうなのだとしたら、寛容な精神で受け入れよう。
「まあ、誰にでも、ミスはつきものです。さて、これからポケモンの話しでもしましょうか。僕の質問は忘れて下さい。今、振り返ると、少し失礼な内容だったと思うので」
…
だからこの間はなんだ。
彼女は口を開いてこういった。
「よくぞ、見破った」
…いや、僕はなにも、見破ってはいません。
青いつなぎの作業着の女性は、「ついに、ばれたか…」とつぶやいていたが、無視する事にした。
相手の言葉に、思慮をかたむけ続けるほど、僕は他人に興味がある人間ではない。とりあえず、聞き流そう。
たとえ相手が思い込みの激しい人間であろうと、なかろうと、きっと僕に責任はないだろう。
いや、だから、なんの責任だ。