11.幽霊はさみしいので頑固に憑く③
息子のところを娘に変えました。
入力ミスです。すみません。
まだ話しは終わっていない。休憩は終わり、僕は喫茶店の椅子に腰かけたまま、意識を物語の中身に向けた。
えっとどんな内容だったっけ。やる気の無い頭をフルに回転させて、思い出す。ストローでカフェオレの液体を吸い込み、ああ、そういえばこんな怖い話しだったなあと、記憶を呼び戻す。まあ、僕が中学生の頃のことだから忘れているところや、思い込んでいる嘘があったかもしれないけれど。
早く、答えをだせ、と急かされるが、それはできない。
もうちょっと、内向的で独特な僕の感情と思考を相手に聞いてほしいからだ。
だから、答えはそう簡単にはいえない。
だって、そんなものだけを知ったからってあなたは受け入れることができるのですか?楓があんな姿で、僕の前に現れて、その「ありのまま」を受け入れることができるっていうんですか?
大丈夫だよ。あなたは私が受け入れるから、考えこむだけ有害なことは、考えちゃダメだよ。っていってあげられるっていうんですか?
正しさなんて、わからなくて、あなたもそうなんでしょう?
そんな主観的な世界だからこそ済崩葵さんにも一緒に考えてほしいな。幽霊のあるべき、正しさというものを。
「では、続きを話しましょう」
•••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••
僕は毎週のように置かれる赤いユリにうんざりしていた。もうここまで、執拗にこられると、怖いを通り越して、あきれてしまう。
なんだ。またか、と。
いつもの時間になると、居留守を使うことにした。
「ピンポーン」とインターホンの音が聞こえてきても、シカトをした。静寂の中、足音もせずに、あの呼び出し音が鳴ると、来た!と思いはするが、まあ、いつものことか。ふう。うるさいなあ、と鬱陶しがるだけの、日常的な感覚になっていたのである。
これはある意味、環境適応能力が高いともとれた。
いや、実際はただの現実逃避野郎かもしれない。
「わからないなにか」の恐ろしさというものを、思い出したくないから忘れているだけ、かもしれない。
••••••
夏が終わりに近づく8月の終わり頃、恐怖を再現させる出来事がおきた。忘れたい、視界にとらえたくないものを、無理やり見させられたのだ。そのせいで意識しないことができない、不本意な状態におちいったのである。
夜中に僕は自室へ向かい、見たくない物を見た。
それは赤いユリのオンパレードだった。
オンパレード?なんだ、オンパレードって?僕は知らない単語を無理やりに使ってしまうほど、精神状態が不安定だったのかもしれない。
My敷き布団が、哀れだ。
長方形の寝具が、赤いユリで敷き詰められていた。
少しめまいがしてきた。なんで、こんなに不気味なことをするんだよ。なんで、こんなに徹底して僕なんだ。僕じゃなくてもいいだろうに。
ん。
怪しげな色をした山盛りの花の中心に、紙がある。
ルーズリーフを乱雑にちぎったせいだろう。三角形になっていた。大きく堂々とした字でこう書いてあった。
「イマカラスグコイ 黒六暗六チュウガッコウコウモンマエ」
うわあ。すべてが気味悪い。見なければよかった。
翻訳すると、「黒六暗六中学校の校門前にすぐに来い」となる。うわあ。そのまんまだあ。
ひどい演出にもほどがあるよ。
ま。いっか。
やる気の低い僕は、メモに書かれてある命令に従った。流れに逆らわないこんな性格だから、従僕の素質があるかもしれない。
従僕…この単語は僕に、違和感があった。なにかがかみ合わない感じがする。この感覚もすぐに忘れてしまうのだろうな。都合よく自分勝手に。好き放題に改ざんして、あやふやに、
僕が従う…
僕はいいなりか…
じゃあ、いつか僕を変えないといけないね。
きっと、いつか。
••••••
ママチャリを立ち漕ぎした。ハアッハアッ!と息をきらしながら、目的の場所に着いた。
僕が毎朝、通過している校門。
校門前に蛍光灯が設置されており、そこに自転車を停めた。あたりは暗闇だったから、ここで待機していよう。自転車からおりて、時間を確認した。
22:00
中学生にしてはだいぶ、遅い時間帯だ。
補導されなければいいが…。もし警察に声をかけられたら、「すみません、今から帰るところなので…」とでもいっておこう。
22:10
ザッザッ
時間を確認していたら、後ろのほうから、なにかが近づく気配がした。そして、耳を澄ますと、足音が聞こえてきた。
ザッザッ
ゆっくりと一定のリズムで、近寄ってくるのがわかった。
ようやく来る。首をひねり後方を視界に入れる。
だんだんと距離が縮まっていくにつれて音のほうから、人の形が浮き彫りになった。もっと近寄ってくるのかと思ったが、止まった。足音が聞こえなくなった。
その予想外の行動が、胸の鼓動を速くしていく。全身に緊張がはしった。
次は何をしてくるのだろう?固唾を飲んでそちらを見続けた。まだ、人の形がわかっているとはいえ、黒い影のようにしか見えない。男か女か判別できない状態だ。
「おい」
声がする。人影からだ。男のような野太い声質である。
「…」
「こんなところで、何をしている?」
ふう。やっぱり、きたか。しゃべる準備は整った。
「すみません。…待ち合わせをしていたのですけどなかなか来てくれなくて…、すぐ家に帰るので大丈夫です」
上手にいえたと思った。しかし、相手は黙ったまま。ずっと同じ距離を保ち、動かないままだ。
うう。返答が無い。
言葉のキャッチボールが出来ずに不安が増大した。なんか、こっちをずっと見てるよ…。顔の角度的に…。
不気味だ。
••••••
しばらくして声がかかった。
「あなたは…、もしかすると月日頑固という名前ではないか?」
え?なぜ僕の名前を知っている?
「はい。そうですが…。あなたは?」
「やはりそうか。わたしは楓の父親だ。少し前まで、遊んでくれていたらしいね。よく君のことを話していたよ」
「あ…。そうだったんですね。僕はてっきり、警察の方だとばかり…。すみません。失礼しました」
なんと、楓くんのお父さんだったとは予想外だ。安堵する一方、変な子と思われていないか心配になる。別の意味で緊張がはしった。
「君は聞いていた通り、口癖が治らないんだね。楓もそうだがね」
赤面した。コンプレックスの部分をグサリと刺された。うう。恥ずかしすぎる。暗闇という静けさが無ければ今すぐにでも全速力で、そこらへんの道端を走り暴れていただろう。
「仕方がないですよ。昔から直らないのですから」
かなりこの人に敵対心を抱いてしまった。ムスっとした表情をする。
対して、やわらかい笑みを自分に向けている楓の父親。どうやらこの人は、自分を貶めようという気は、なかったようだ。辛い経験をした人間が、獲得する、この世の全てに対する慈愛というものが、この父親にはあると錯覚させられた。
一瞬で、心を動かされた。
「あの、楓く…さんはまだ、帰っていないですよね?」
「ああ、帰ってないよ」
自分でわかっているくせに、変なことを聞いてしまった。やはり、自分は変な子か…。
これ以降、話す会話が見つからなくなった。幼馴染の楓は春休みの最中、どっかに行ったのだ。情報を残さず消えたため、手掛かりはつかめずに、警察は難儀しているという。
いつになったら戻ってくるのだろう。
幼いころ川辺で、一緒にエビやカニを捕まえた記憶がよみがえってくる。
楓は自分と性格が反対で、男勝りな一面があって、人前でも堂々としていて、思ったことはズバッとハッキリ口に出すタイプだ。それが、とてもまぶしくて直視できなかった。たまに、自分みたいな、根暗な底辺が楓の隣にいることが、場違いなんじゃないだろうか?と思うことが、頻繁にあった。
小さい頃こんなことを聞いた。
「楓ちゃんは、僕のことどう思ってるの?」
もじもじ、赤面しながら聞いてみたら、こう返事がきた。
「俺は大好きだよ」
赤い顔のままガンコもカエデに同じ言葉を返した。
僕はひたむきに突き進む青く照らす光を尊敬しながらも愛した。まだ、畏敬の念を示してしまうほど、心の距離はあるけれど、それもいつかは消えて無くなるだろうと、信じた。
••••••
「そういえば、さっき待ち合わせをしているって言っていたけど誰を待っていたの?」
沈黙を破るために、言ったのだろうと推測するが、この返答には困った。なんていえばいいのだろう。
仕方なく、今まで起こった全ての詳細を話すことにした。
「へー。ちょっと信じられないね」
ちっとも、信じていない様子だった。
「ユリね。そういえば、頑固ちゃんがユリを好きなことを、娘から聞いていたなあ」
独り言の中から、衝撃的な事実を知った。
楓は僕がユリを好きなことを知っていた⁉