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二話 共存確認


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 その男に出会ったのは、思いも掛けない場所だった。

 学校を出て、他愛無い雑談を岬としながら駅前のカフェに向かった。東京まで電車で一時間くらいの立地でありながら、私の住む町はどこか垢抜けていないというか、古き良き雰囲気を大事にしていると言えばいいのか。高層ビルなどはなく、高層マンションはいくつか点在しているが、それでも都会と言えるほど繁栄をしているわけではなく、言うなればなぁなぁな、中途半端な街だった。

 コンビニはある。電車の本数だって一時間に沢山ある。二十四時間営業の店だってあるし、本当に田舎に住んでいる人から見れば、十分都会的だと思われるだろう。何もこの街に不満があるわけじゃない。ただ、それでも都会と比べてしまえば、比較してしまえば、見劣りしてしまうのは事実だ。

 ただ、それだけだ。

それだけで、別に問題があるわけじゃない。

 都会に行きたいなら電車で簡単に行けるし、田舎の気分を味わいたいのなら街外れへ向かえば田畑が広がっている。ただ、中途半端なだけで、それだけだった。

 駅前のカフェは都会を中心に展開されているチェーン店であり、最近開店したのだが、新しい物と流行に都会の単語が組み合わされば学生が集まるのは必然だろう。こうして来てしまった私も、結局そのうちの一人なのだけれど。そのカフェは確かに今まで街にあったカフェと比べるとお洒落であり、ケーキなどを主体として販売しているので、女性向けの店だった。

 店員に案内され席に着き、辺りを見回しても時間帯のせいか同年代の学生が多く見受けられる。同性であるのだけれど、何故か居心地が悪かった。別段甘い物が好きというわけではないので、あまりこういった店に来る機会がないからかもしれない。

「みやちゃんこれだよこれ!」

 何となく身を縮こまらせていた私に、岬は相変わらず空気を読まないでメニューを見せてくる。指さしたのはこんがり美味しそうに焼かれたアップルパイ。その上にたっぷりの生クリームを乗せた、この店のオリジナル商品。見ているだけで胸焼けしそうなケーキだった。

「これが絶品なんだよ!」

「へー、そう。じゃあ私は、カフェオレで」

「なんでかな!? なんでそうなるのかな!?」

 なんでと言われても、教室でも言った通り私は甘い物があまり好きではない。女の子はみんな甘い物が好きと勘違いする男子みたいな間違いを、もはや定義としている節がある岬は驚愕の表情を交えながら、如何に美味しい物なのかを訴えてきた。

「せっかく来たんだからケーキ食べようよ! 勿体ないよ!」

「えー、じゃあさっぱりした物がいいんだけど……」

「じゃあこれだね! やっぱりこれだよね!?」

 そう言って先ほどと同じ生クリームがたっぷり乗ったアップルパイを勧めてくる。どう見てもさっぱりしているようには見えないのだが、岬は目をきらきらさせこれ以外に選択肢は存在しないと言外に伝えてくる。

「それ、凄い甘そうなんだけど……」

「そんな事ないよ! アップルパイだって美味しいんだから、大丈夫だよ!」

「アップルパイはさっぱりしてるの?」

「食べた事ないから解らないよ」

「ないのかよ」

 岬と一緒にいるといつもこんな感じだった。

 頑固とは違うかもしれないが、岬はこういう時なかなか折れない。執拗に生クリームが乗ったアップルパイを勧めて来るので、私は諦め、渋々了承した。

 私はカフェオレを止めてコーヒーを頼み、岬はロイヤルミルクティーを注文する。聞くとロイヤルミルクティーも甘いそうで、甘い物に甘い物の組み合わせでよく飲めるなと思った。

 注文を終えガールズトークを始める岬を尻目に、私は周囲のテーブルに視線を向ける。こういった店に来る機会はそうそうなく、物珍しげに店内を物色した。

甘ったるいケーキの香りが漂っている。空気に色でも付いている気がする。たばこの煙りのように立ち込めている気がした。胸焼けがしてくる。

 店にいるのは女の子ばかりで、中には近所のおば様方も優雅にティータイムを楽しんでいるのを見受けられるが、お客は女性が中心だった。

 よくは知らないけれど、男子はあまり甘い物が好きではない、好きだとしてもこういった女性ばかりの店に来るのには勇気がいるだろう。カップルならともかく、男一人や二人では悪いわけではないのだが浮いてしまう。

 そう、浮いてしまうのだ。

 その男は、明らかに浮いていた。

 店の中心にあるテーブルに鎮座している男。並ぶほどではないがそこそこ混んでいる店内。そんな環境の中、その男の周りには座っている人間は誰もいなかった。

浮いている、というより孤立している、が正しいかもしれない。

それはどこか、私に似ている、と思ってしまうほどに。

感傷的な感想を述べてしまったが、実際そこまで似ているわけではない。少なくとも男の周囲に誰も座っていないのは、ただ単に物珍しさと近寄りがたさがあるからだろう。男が一人でカフェに、しかも女性メインの店に来るだけで、こんな迫害もどきの対応を客だけではなく店員だってしないだろう。その原因は、やはり男自身にあると言って良かった。

原因は簡単だ、凄いのだ。

ケーキの量が、凄いのだ。

私の席から男は真横に映る。最初見た時は飾りか何かだと思ったテーブルに積み上げられている皿とケーキの山。まるでバイキングを彷彿とさせる光景だった。

「みやちゃんどうしたの?」

「ん。ああ、あれ……」

 ガールズトークを中断させ、話していたのは岬だけで聞き流していただけだが、私が男に気を取られているのを見て、岬が尋ねてきた。私は思わず男を指差し、凄いというか変な人がいると伝えようとした。

 その時、男が顔を上げる。顔を上げ、指を差す私と目が合った。

 虚ろな瞳に不健康な顔立ち。常に眠たげというよりも怠そうな顔が、こちらを向く。

 気味が悪い。第一印象はそれだった。

 心がざわつく、心落ち着かない、そんなイメージを植え付けられる男。横顔だけでは解らなかったが、こんな顔立ちでは周囲に誰も座りたがらないのは当然の話かもしれない。

そんな男に、私は指をしている。気味が悪いと思ったが恐怖はなく、小さな子供では夢に見てしまうホラーなシーンだったが、私はなんとなく、バツが悪いところを見られてしまった、程度の感想しか持っていなかった。

気味が悪いが、悪い奴には見えなかった。

 知り合いでもない相手に、珍しいからと指を差すのはこんな男相手でも失礼だろう。慌てて指を下ろすが、男はこちらを見たまま固まっている。壊れたマリオネットのように、ロボットとは違う、無機質にはない不気味な瞳孔を向け、ただただ見つめてくる。口の端に生クリームをつけ、間抜けとも取れる男は、こちらを見たまま、私に視線を向けたまま口を開けた。

「おい、お前」

 小声でありながら、響いているわけでもないのに、何故かその男の声はよく聞こえた。

 耳に入ってくる、というよりも、入り込んでくると表現した方がしっくりくる。そんな声だった。

 陰気な顔立ちに、勝手にヤクザといった裏というと笑われるかもしれないが、あまり好ましい仕事をしていない側の人間に見え、指を差した行為を咎められるのかと思ったが、違った。

 あまりにも違う、予想外のことを男は言い出した。

「お前、金を持ってないか……?」

 そんな、店員の目つきが鋭くなる、一気に警戒されるようなことを言ったのだった。


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