プロローグその5
「ハァッ、ハァッ、ハァッ……!!」
不味いな、死にそうだ。
血は止まってるが痛みがひどい。
俺は今、帝都に近い小さな森の中を進んでいる。
こんな血まみれの格好で街なんか入れるわけねえ。
……服は無事なんだがな。
やつの魔剣、鉄壁も服も水みたいに通り抜けて俺だけ斬りやがった。
『どんな鎧を着てようとそれごと斬る』って噂の真相はこれかよ。
まぁ、とりあえず幾つかある隠れ家のひとつに移動中だ。
さっきも言ったようにこの服じゃ何かあったのが丸分かりだ。
着替えと、傷の手当てだ。痛み止めくらいならあったはず。
……こんなときに彼女が居てくれればな。
彼女なら水を治癒の水薬にしてくれんのに。
……俺の『液質変換』は、俺の性質に合わせて歪んじまってる。
俺は液体を可燃液にしか変えられない。
ったく、これだからでき損ないの自分が嫌になる。
っと、見えてきやがったな。
森の中心部、ちっとだけ丘になっている所に辿り着く。
その丘の上にあるデカイ岩の前に立つ。
「ハァッ、レェ……『rest in piece』」
あーダメだ、技名言うのもしんどいぜ。
いや、ぶっちゃけ技名言わなくても発動するんだがね。
アイツがその方が格好いいってんで努力してんだ。
っと、そうこうするうちに岩が消えた。
この岩は俺があらかじめ創って置いといた、質量のある幻だ。
……こっちも俺のせいで弱くなってやがる。
『兄貴が作ったことがある物』しか再現することが出来ねえ。
元々は何でも創れたのに。
じゃ、さっさと『へえ……こんなところにウサギの巣があったとはね』!!!?
咄嗟に上に跳ぶ。
跳び上がりながら周囲を確認し、ソイツから離れるために能力で暴風を自分に当てて移動、着地。
ソイツの居た所を睨めば、そこには犬がいた。
『ハハハ、一蹴りでどんだけ高く跳んでんだ? まさにウサギだな』
口をききやがった。
「マジ火よ……最近の犬は随分と進んでやがるなぁ」
『いやいや、違うから。首輪だ首輪』
首輪?
よく見りゃ確かに首輪になんか付いてる。
『超小型カメラとマイクだ』
……嘘だな。
あんな小さなカメラがあってたまるか。
大方どっかから見てやがんだろ。
しっかしまさか追跡されてたぁな。
ヤキが回ったもんだぜ俺も。
「テメェ何モンだ?」
騎士団、じゃねえだろう。
だったら俺は問答無用で取り囲まれて殺されてる。
しかし騎士団じゃねえなら何だ?
俺が燃やした連中の遺族が雇った殺し屋?
なら真っ向から出てくる意味は無え。
『俺が何かだと? そう、だな。いわゆるところの――――――』
まぁ、裏の人間だろうな。
それにコイツの目的が何にせよ、帝国の人間は最終的には焼き殺すから、細かく考えても意味はないか。
そう思っていた俺の予想は、
『アンタの同業者だ』
斜め上に外れた。
俺が驚愕しているうちにわんころは誇らしげに続けた。
『俺たちの名は「ユグドラシル」――――――帝国をぶっ潰す、連邦と共和国のテロ集団だ』
……俺の祖国の名を混ぜながら。
次話でプロローグ終了予定。