第一話
この物語はフィクションです。実際の政府機関、及び団体等には、一切関連ありません
2015年 夏
BAYテレビ
しっとこ!?ニュース解説のコーナー
金色のスーツと黄色いネクタイ、とさかのような髪型をした司会者が、新聞のはられたボードを読み上げている。
「・・・・次のしっとこ!いきましょうかね!米倉新聞の一面、『アメリカ航空宇宙局、通称NASAは、
欧州宇宙開発機構と合同で進めていた、火星開発の先駆けとなる、
”苗”を乗せた無人探査機を、明日未明、
ヒューストンより打ち上げることを公式に発表。
火星に人工的に有機的活動を促すことで、
大気を形成させることを目的としたこの計画は、倫理的事項としても多くの議論がなされ、
今回、計画実行という結論となった。
一方、今回の計画に寄って宇宙開発が飛躍的に進歩する可能性は否定できず、今後も動向が注目されそうである。』とありますが、本日はご意見番として帝都大学教授、管小梅さんにいらして頂いております!」
拍手が起こる。
画面が変わり、ちょこんと席についている小柄な女性が映った。
前髪で目がよく見えないが、小柄なせいか年齢的に10代にも見える。
「先生、今日は宜しくお願い致しますね!」
「・・・・はい」
間を置いて、しかも超小声で返事をするので、一瞬スタジオが白ける
司会は気を取り直して、ゲストに意見を求めた。
「管先生は、大学で宇宙生物学について教鞭を取られているそうですが、今回のこの火星開発計画について、どちらかといえば反対の意見を取っていらしてましたが、その根拠は一体どのような事から・・?」
「・・・この計画には、大きな欠陥がある、と私は思っているからです。」
相変わらず声は小さい。
「ほう、確かにNASAやこの開発に携わった研究機関も、この”有機的活動”という部分がどういった作用で行われるのか、不透明な点も指摘されていますな。先生は、そういった点を挙げていらっしゃるので?」
「ちがうんです!!!」
突然管教授は声を荒げた。
しーんとスタジオが静まり返る
「せ、先生、一体どうし・・」
司会者の取りなしを無視し、教授は続けた
「皆、後で後悔することになる!!最も地球に似た惑星などと言って、放射線数値だって桁違いだというのに安易に有機的活動を促したら、突然変異で一体どんな化け物が生まれるかわからない!とにかく火星に大気を生成する事しか考えていないのよ!」
唖然とする司会やギャラリー
小梅は構わず続けた
「いいですか、よく聞いてください!早くても3年後、”プラント”は地球に戻ってきます。そのとき、彼女が一体どんな化け物になっているか・・。とにかく人類に対して憎悪、憎しみを持って帰ってくるのは確実なのです!」
司会者がようやく気を取り直し、博士に問いかけた
「先生、いったい何をいっているのです?『彼女』と仰いましたが、まさか"苗"には性別があるのですか?」
管博士は一呼吸置くと、ゆっくりと口を開いた
「ご説明します。私たちは・・・」
その時突然、スタッフルームの扉が開いた
「今すぐテープを止めろ!!」
グレーのスーツを着た、恰幅のいい男の図太い声が、スタジオに響き渡った
「プロデューサー・・」
司会者がつぶやく
突然のことに、会場は騒々しくなった
プロデューサーと呼ばれた男は、どかどかと大きな足音を響かせながら、管博士に近づくと、なにやら耳元でささやいた
すると博士の顔はたちまち青ざめ、うっと口元を押さえると、スタジオから出て行ってしまった。
「勝手にゲストを私に報告も無しに決めるとは一体どういうことだ!?」
プロデューサーは顔を真っ赤にしながら叫んだ
「このことは他言無用だ!収録テープもあとで私のオフィスにもってこい!」
プロデューサーは観客席を向き、パンパンと手を叩く
「お越しいただいた皆様、この体たらく、真に申し訳ありません。本日ゲストとしてお招きした管博士は、少し精神的な病に罹っておられ、主に妄想癖、精神錯乱といった症状が出ており、現在精神科にて治療中とのことでしたが、こちらの手違いで、、お客様に余計な不安を与えてしまったこと、心からお詫び申し上げます。つきましては、後日お詫びのしるしとして、つまらないものですが、謝礼金とお品物をお送りいたします。スタッフの指示に従って、お名前と住所、電話番号を記入していって頂けますか。
その後、お出口までご案内いたします。」
すると出入り口から、妙に体格の良いスタッフ10人ほどゾロゾロとスタジオに入ってきた。
よく見ると出入り口を固めているように見える
ギャラリーは20人ほどで皆、突然のことに動揺を隠せないようだった。
観客席は二段になっていて、固定式の回転椅子に座るスタンダードなものだったが、席の左右をスタッフが固め、デジカメで一人ひとりの顔写真を撮り、バインダーに必要事項を記入させていった。
「写真は必要あるのか?」
一人の男性客がスタッフに声をかけた。
「万が一他の人に謝礼品が行かないための配慮です」
どう見てもサイズが小さすぎる番組Tシャツをきたスタッフが、無愛想に答えた。
「トイレに行きたいんだけど」
今度は女性客が手を上げていった。
「全員が終わるまで待ってください」
有無を言わせぬ状況に、観客たちはざわめくばかりだ。
「どうなってんだ!?」
「携帯通じない・・」
「いやだ・・こわい・・」
ようやく全員が終わり、報告受けたプロデューサーが、にいっと笑い、再び朗々と演説を始めた
「皆さん、ご協力まことに感謝いたします。そして、本日のご無礼心よりお詫び申し上げます。謝礼品ですが、必ず3日以内にはスタッフが直接、ご自宅までお届けに参ります。ご自宅にいらっしゃらない場合でも、ご本人様に直接、お届けいたします。ですので極力、ご自宅にいらっしゃっていただければ幸いです。それでは、スタッフがお出口にご案内いたします。本日は『しっとこ!?』にお越しいただき、ありがとうございました。」
その後、この出来事を世間が知る事はなかった
2018年 秋
船橋市役所からお知らせします。この地域は危険区域に認定されました。住民の皆さんは、警察官の指示に従い、速やかに避難を開始してください。繰り返します・・・」
黄金色に輝く空
漂う花粉がキラキラと、だがどこか毒々しく舞っている
もう日も傾いてきた頃
公民館の大型スピーカーから延々と避難メッセージが繰り返される
「ったくやってらんねー。俺は行かねえよ」
ガレージで金髪に染めた髪を振り乱し、
買ったばかりの原チャリを吹かしながら米沢が叫んだ
「うるさい、そんなに吹かすな!近所迷惑だろうが」
鈴井が露骨に顔をしかめる
米沢は高校1年生だ。
「どーせご近所なんかいやしねえよ。こんな花粉が飛び始めた最初の頃に逃げ出したんだからな。あー鼻が」
米沢がビーッと鼻をかむ
「あーもうダメ中入るわ」
そそくさと家のドアに向かう
もともと鼻炎持ちの彼だが、アレが出現してから一年中鼻をかむようになった
この辺りの大地主を祖父にもつ、いわゆる土地っ子という奴で
家も門もバカでかい
ちなみに親父さんは近所の商店街でパン屋を経営している
「だいたい鈴井、お前公民館の仕事はどうしたんだよ。親父さんの手伝いしてんんだろ」
玄関でドライヤーを使い、身体の花粉を落としながら、米沢は迷惑そうに言った
「花粉入るから来ないでほしいんだけど」
鈴井も高校1年だが、米沢とは別の高校に通っている。それに、政府から緊急事態の宣言が出ている中で授業をする高校はない。
「だから仕事できてんだよ。話聞いてたのか?」
「どうせバイトみたいなもんだろ。マジメだねえ鈴井クンは」
ヘーックシュンっとくしゃみを一発。
鈴井はうんざりした顔を目の前の幼なじみに向けた
親父が館長なんてやってから俺もこういうことに駆り出されるんだ・・
と愚痴を言いそうになったが、これも仕事と割り切る
「県から避難命令出てるってのにいつまでたっても家からでねえヤンキーがいるって親父に連絡があったんだよ。警察が踏み込む前に慌てて来てみりゃ、なんだ?ただのヤンキーがヤンキーしてるだけじゃねえかヤンキー」
「え?なに?もっかい言って?」米沢が目を白黒させる
「それにこの靴・・」
足下のスニーカーを見る
「清川が中にいるな?」
ゲッと米沢の顔が歪んだ
「ふふ・・鈴井、そのメガネはダテじゃないな」
「視力悪いからな。ほら、どいたどいた」
鈴井が家に上がり込む
空気清浄機のうなりが部屋中に響いている
二階の一室が米沢の自室だ。階段をのぼっていく
「両親も避難したんだろ。なんでお前だけ残ってんだよ」
「俺はこの空間じゃねえと生きていけねえの。なんではるばる北海道まで自衛隊のトラックやら、徒歩で行かされなきゃなんないんだっつの」
「おまえ・・ほんとヤンキーな格好だけであとヘタレじゃねえか」
「うるせえな、いいか、よく聞けよ。俺が思うにこの花粉は・・」
花粉について力説する米沢を無視し、部屋のドアノブに手をかける
開かない
「開かないんだけど」
「復活の呪文を言わないと開きません」
米沢がシナをつくる
「つか俺の部屋オートロックだし。鍵中に置いてきちゃった」
「はあ?ふざけてないで早く開け・・」
鍵をよく見る
うわマジでオートロックだこいつ
しかも無駄にゴツイ
「なんでオートロック?」
「花粉が入るじゃん!!」
米沢は胸をはる
もうダメなんじゃないかこいつ
鈴井はため息を一ついた
「まあいいや・・中に清川がいるだろ。おい清川」
ドアを叩く
「キヨカワサーン?ダレデスカソレー」
中から声が返ってきた
「お前しかいねえだろが。俺だよ、鈴井だ。開けてくれ」
「俺ニ地味ヅラメガネノ知合イはイネエヨ」
「ドアぶち破られたくなかったら早くしろ」
「はいはい・・」
やたら重厚な音をさせながらドアが開く。
中にはもう一人の幼なじみがいた
またも鈴井の眉間に皺が増える
「お前までなにやってんだ」
清川は何も言わず、またギターを抱え込んでテレビを見始めた
「しかもそれ俺が貸したギターじゃね?」
清川は知らんぷりでテレビを見続けている
テレビでは深刻な面持ちの女性アナウンサーがニュースを伝えていた
「世界中に突如出現した巨大な『生物』によって、首都東京は完全に占拠されています。突入した自衛隊員や警官隊の安否は未だ不明です。臨時政府によると、犠牲者の数は数百人との情報もあり・・」
世界中で『生物』が出現し始めたのは、3ヶ月前のことだった。その時までは、皆何事も無い日常を過ごしていた・・・・
つづく
連載としては初投稿です。どうぞよろしくお願い致します。