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雨男ときどき晴れ  作者: いちみんればにら
六月(上旬)のこと
9/22

(1)~曇り、微妙な天気が何を呼ぶ~

~~

 六月三日。今度は曇りの日が続いている。この2か月の傾向から、この区域の天気は、俺と晴花の気持ちの強さによって左右されるらしい。科学的実証はないものの、晴花には心を読む、という超人的能力が確認されているため、彼女の方はほかの力があってもおかしくはない。

 その上、俺の雨運が重なれば、天気が俺たちの気分で変えられるのは、当然のことではないだろうか。

俺の思い違い、自分の能力に期待しすぎというのもあるが。

 とにかく、そういった前提を置いて話を進めると、曇りの日が続いているのは、俺と晴花の気持ちの均衡が保たれているに違いない。

 俺の場合、いわゆる”気持ち”の概念は、感情的になるようなことが起こると強まる。前に色々な誤解・困惑があったが、そのときは、俺の気が不安定だったから、晴花に負けて、晴れの日が続いていたのだろう。

 ”気持ち”という抽象的なものを説明しようとすると、やはり一例を挙げないと理解に乏しいだろう。

 ……説明したところで、分かってもらえたかどうかは謎だが。

 一つ、気になることがある。これまで長年一緒にいた晴花が、高校に入ってからいつもと少し違う時がある。俺の心を読まなくとも、俺の言いたいことは直感している、みたいな。どや!みたいな顔とは違う、悟りを開いた感じの顔で。もともと、彼女には心を読む能力なんて無く、俺の思うことは雰囲気で分かる、という考えも有り得る。そういえば、小学生の頃まで、いつも一緒にいたからな……

  

 あ、前髪伸びたな、俺。

~~


 書いていることを急に変えたのには、ちょっとした訳がある。というか晴花本人がいれば、そりゃあ書きたくなくなるよ。

「あっ。何てことしてくれてるのよ、時雨。もう少しだったのに」

 惜しい、といった表情で、俺の頭を手で叩きそうになるのを、瞬時に掴む。晴花は急に手を引っ込める。ちょっと掴みが強すぎたか。

「人に見られる前提で書いているんじゃないんだ。俺の勝手だろ」

「そうだそうだ、しぐれの言うとおりだぜ」

 1人、ギャラリーが増えた!? ライタ、お前までもが。

「……しぐれ。オレは決して日記なんか見ていないからな。決してお前がこの子に気があるんじゃないかとか、はたから見れば恋人同士にしか見えないとか、そういう疑念は持ってないからな」

 思ったことを言ってくれるのは、こういう時あまり良いとは言えないな。

「正直に話してくれてありがとう、ライタ」

 少し皮肉めいた言い方で言ってみても、気づかないんだろうな。

「ああ! 信じてくれるのか!」

 晴花も俺の皮肉には気づいたんだろうか。ライタをただじっと睨みつけている。が、当の本人は全く視線に気づいていない。どれだけお前は……

 しかし晴花の睨みが半端なく鋭いな。様子もちょっとおかしい。

「わ、私は……恋人とか……思ってなんか……いないし」

 途切れ途切れの言葉をつなげると、俺の心に少しだけ変な気持ちが混じってきた。

 それは、もやもやした、雲のような感じがした。

「私は、時雨のこと、ただ……!!」

 始業の鐘は、彼女の言葉に重なる、いや彼女の言葉を覆う。

 実際は、そこまで音量は高くないはずだが。

 それでも、彼女は言いたいことを言ったようで、その場をすぐに走り去る。ライタも自分の席、俺の右前に戻る。あいつには、聞こえたのだろうか。気になる。

 

 次の授業・5時限目は、数学。数学と言えば、晴花のクラス担任、あの堅苦しい杉田先生か。

 毎回、2,3人が眠りにつくこの授業。それでもって杉田先生が教えているとなれば、説教は避けられんだろう。あの怒号はクラス皆が静まりかえってしまうため、その後のチョークの音が妙に響き、恐ろしい思いでこっちの心臓がもたない。

 それでも、眠る生徒がいるのだから、俺の怒りは当然その人たちに向く。でも、怒ったりはしない。できない。小心者の俺には。


 杉田先生には珍しく、5分遅れで入ってきた。それで、急いで授業を進めたいのに、早速、昼休みから寝ている者が1人。彼の怒りが飛ぶ。そう思った瞬間。


「……おはようございます」


 前の戸から鞄を背負って入ってきたその男は(おそらく同い年なんだけど)、今まで空席だった俺の隣の席に、鞄を下ろして座る。予備の机椅子だと思っていた俺は、驚きを隠せなかった。

 そういえば、いつも”鴻上こうがみ 八雲やくも”は出席簿において休みだったか。

「……おお、鴻上。今日から登校できるようになったのか」

 そう言う杉田先生は、彼が入学式の日から今まで休んでいた事情を知っているらしい言い方だ。

 どうやら、彼のおかげで杉田先生の怒りは冷めたらしい。いつの間にか、寝ていた生徒も起きて鴻上らしき人物をちらっと見て驚いていた。

「よろしくね、幹くん」

 少しかすれた低い声。灰色がかった黒髪は、後ろはちょっと長めで、前髪は眉のあたりまできている。

 やっぱり、名字で呼ばれるのは新鮮味があるなあ。


 この鴻上 八雲には、何か不思議な雰囲気を感じた。あながち間違いじゃないのかもしれない。

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