(6)~雲が近づいて~
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今日は、五月三十一日。衝撃的な初登場から、1週はさんで(まあ、その辺の理由は前頁をみてほしい)ライタとそれなりに話すようになった。
言っちゃ悪いが、ライタが生徒を投げ飛ばしてくれたせいで、クラスでの俺の立ち位置が変化した。いろいろ途中の経過を省いたけど。……結構格上?になってしまった。せっかく孤立しないように、話し相手をクラスで着実に増やしていたというのに。要するに人間関係がリセットされてしまったわけだ。俺はもう、ライタ以外に話し相手がいないというのか……
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ここで俺の頭は叩かれる。これは晴花のだな。流れで分かる。
「私は話し相手には入ってないのか!」
「うう……そうだけど」
叩かれたところがじんじんと痛む。素早い手首のスナップから繰り出される平手打ち。
そういえば、晴花って卓球やってたっけ。関係ないか。まず、こんな冷静に分析している場合じゃない。なぜなら、
「……そういうことは、はっきり言うのね……」
晴花が悲しそうな表情に変わったからだ。そういうつもりで言ったんじゃなくて。
「俺は、お前を、ただ」
話し相手だと思っていないだけだ。もっと、とくべつな。
「ただクラスに入ってくる、邪魔者ってこと?」
もう泣き出している彼女に、うまく言葉は伝わってないようだ。てか、こういう時にこそ、心を読むべきじゃないのか、晴花!?
「お前、涙もろくなったな」
こう言ってから、少し間が空いた。そして、
「……え? 私、泣いてた!? な、何で!?」
すぐに涙を拭う晴花。俺も正直よく分かりません。
「私、ちょっと前の記憶が無いんだけど。時雨、私を泣かすようなこと言った!?」
記憶が飛んでる? また厄介なことを言い出したな。
「見当がつかない。俺も戸惑ってたんだよ」
本当は若干見当ついてます。謝る機会を見失いました。すみません。こういう時は、心を読まれたくないんだが、
「何なの!? 一体私に何したの!?」
……これは、読まれましたな。仕方ない。
「どこまで、覚えてる?」
「う~、時雨の頭を叩いたら、私が泣いてた??」
つまり、その間の記憶が無いと。そういうわけか。どうも都合のいい頭をしているようだな。俺の頭を叩いたことが泣いたことで正当化されている。
ということは、こちらがものすごく一方的に恥ずかしい思いをしたってことか!
「説明するのも難しいんだが」
「いいから、言って!」
いつにも増して必死だ。自分の知らないことがあるのが許せないのか。
「俺の、話し仲間の中に、お前がいないってこと……だろうか」
「そ、それはかなり刺さるわね……」
「でも、話し相手じゃないってのは、違う意味で言ったのであって!」
俺も必死だ。何でこんなにむきになってるんだ? 俺は。
「うん、分かってる」
まただ。また、彼女は”分かってる”と言った。前に聞いたのは、俺が悩んでた時だったか。そのときも、そして今も、何かを知ってるような顔をしていた。
晴花が、時々分からない。いつもは、もっと単純なのに。
「ま、私はとてもすっきりしたから、安心して」
まるで俺が慰められたみたいだ。何で。
「さっきと立場が逆なんですけど……」
「気にしない、気にしない!」
急に機嫌がよくなったな。しかも、今回はチャイムが鳴る前に教室を去っていた。
一体何があったんだ? 俺、良いことでも言ったのか? 疑問が残ったまま、今日の日が暮れる。
明日から、六月が始まる。梅雨は明けるが、俺にとって油断はできない。六月には、俺の誕生日が待っている。俺の2番目に嫌いな時だ。ちなみに1番嫌いな時期は梅雨であることは言うまでもない、なのに言ってしまった。
何て残念な俺。