(2)~雷落ちますか。~
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さっき書きかけた、約16年の経験から俺が言えることについて。それは、俺の周りに降る雨が、その日の自分の気持ちの強さに比例することである。
気持ちの強さは、喜怒哀楽すべてで実証済みだ。例を挙げると、高校入試で合格した日、ひどい豪雨になった。小学生の時、友達とけんかして、学校の帰り道、台風に襲われた。可愛がっていた亀が死んだ時も、涙と雨粒で顔がくしゃくしゃになりながら、土に埋めてあげた。休みの日、無計画でサイクリングに出かけたら、暴風雨で飛んだ木の枝に引っかかって自転車がパンクし、家まで何時間もかけて帰った。
このように、(思い込みかもしれないが)俺が雨男であることは明確に分かって頂けたと思う。
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「へぇ~。確かに、合格発表の時は雨途中からひどくなったね~」
「うわ、いつの間に」
と言いながら、俺はあまり驚いていなかった。書いている途中でもう気づいていたが、反応するのが癪で。
「私がこのクラスにいることに、もう何も違和感無くなったでしょ」
”自分で言っちゃいかんだろ”この言葉は、声に出して言えていただろうか。心の内だけで呟いていただけだろうか。
「それよりさ、時雨は……クラスメイトと仲良くなった?」
「なぜ間を置いた」
「いや、なんか、馴染めてないっぽいな~と」
「さあな。それよりも、また俺の作品を覗きやがって」
「・・・覗くって、やらしい響き」
「はぁ!?」
つい声を荒げてしまった。うむ、今度から「盗み見る」に変えよう。あまり変わっていないか。
「盗み見るってのもねぇ……いやな感じしかしないもん」
「お前が変態なだけだ。俺は全くそんな気は・・・ってお前また”心”読んだな」
「今回は読んでないよ~。でも、あんなことやこんなことは読んだかも」
あんなこと、こんなことって何だ?とても気になる発言だな。まさか、あれや、これのことか!?
「三分の二くらい合ってるよ~。あ、また読んじゃった」
「や、やめてくれないか」
さすがに耐えられん。この女を嫌いな理由の一つだからな。
「もう読まないから、ね? 言いたいことは、はっきり言うべきよ」
「何を言うって?」
「私のことが嫌いなんでしょ?言っちゃいなさいよ」
「俺が言うまでもなく言ってくれたじゃないか」
このとき、少し心が痛んだのは気のせいか。晴花が嫌いというのがばれるのは、俺の良心が痛むということか。それとも本当は……
「俺はお前のことが好きなのかもしれないな」
急に、そんな言葉が俺の口から飛び出てきたのには、俺と晴花、両方が驚いた。
「えっ……はああぁあ!?」
これも気のせいか、晴花の顔が赤く見える。晴花も予想していなかったということは、無心で言葉が出ることもあるのか。
「ちょ……ちょっと待て。な、何でそうなるんだ!?」
「知らないわよ! 時雨の口から出た言葉なんだから!!」
というやりとりをしているから、夫婦漫才とか言われるんだろうな。今回は……、今回も”チャイム”に救われた。いろんな意味で。
いつの間にか、雨は止み、外は雲が引いて太陽が照っている。
こんなことが、五月上旬の時点で起きたのだ。俺が自然に晴花のことが気になり始めるのは、きっとそう遠くないはずだ。事実、次の日から三日ほど、授業を受けた記憶はない。代わりに、休み時間に何事もなくやってくる晴花のことばかりしっかり記憶に残っている。あと覚えているのは、数学の豆テストが10点満点中、0点だったことぐらいか。
ふいに飛び出した言葉から、人を好きになるってあるのか……。いやいや、俺はやはり彼女のことが嫌いであった。好きなところは一つも出ない。逆に、嫌いなところはたくさん出てくる。
1週間後には、晴花のことを気にすることは無くなった。ようやくおかしな迷宮から抜け出すことに成功したのだ。
……まあ、それはあいつのおかげでもあるんだが。
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日記に書かなければならないこと、それは、晴花の能力のことである。
ちょっと心に隙間を作ると、晴花の力によって、思っていることを読まれてしまう。人は不思議な力だと言うが、昔から被害を受けている俺にとっては、はた迷惑な話だ。
晴花に心を読まれまい、と思って過ごしていたから、雨ばかり見るようになったのかな。少しくらい、読まれてもいいだろう。そう思ってこの10年、生きてきた。でも、俺の性分は、やはり変わらずであった。
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話は戻って、1週間後のあいつの話をしよう。