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雨男ときどき晴れ  作者: いちみんればにら
六月(下旬)のこと
20/22

(2)~とある男のとある朝の出来事 その二~

できるだけ連続的に投稿したかったので、うまくいって良かったです。

誤字脱字などございましたらぜひコメントください。


いえ、むしろ感想をください!

 俺が目覚めたのは六時のことだった。デジタル電波時計がちょうど『6:00.00』を示したのを、俺はこの目で初めて見た。音のない部屋の中、密かに俺は感動していた。


 布団から起き上がると、まっすぐ立った目線の先に自分の学習机があった。学習机といっても、勉強などは基本リビングで済ませるため、現在ではショーケースのように様々なものが並べてある。

 画面がひび割れていて、針が止まっている古い腕時計。

 二つの写真立てにはそれぞれ、家族の写真と、大切な人の写真を飾っている。

 小学校にいたころ、図工の時間に作り上げた紙粘土の像。古代の日本で発見された土偶の風貌を思い浮かべるその不可思議な像は、うろ覚えの今となっては用途も分からないまま斜めにバランスよく立っている。

 中学の卒業の時期に組み立てた木製のラックの横に取り付けられているのは、オルゴールの入った丈夫そうな木箱だ。クラスの皆のサインが全体にわたって書かれている。その中には、”あの人”の名前もあった……。


 彼女は今、どうしているのだろうか……。


 つい感傷に浸ってしまった。不意に潤んだ目を押さえて、俺はしっかりと目が冴えてしまったことに気がついた。


 ――――今日は、いつもより早めに家を出よう。ふと思いついた。


 リビングに入ると、ソファでテレビのリモコンを抱えたまま熟睡している人物がいた。……見なかったことにした。

 それより、朝ごはんを食べよう。

 たしか昨日の夕食の残りがあったはずだ。開けた冷蔵庫では、ラップにかかった中皿が真ん中で場所をとっていた。これでいいだろう。同じくラップに包まれていたご飯茶碗も見つけたので、順にレンジで温めることにした。

 チン、と音がして取り出した中皿は、ラップが蒸発した水で曇っていた。はがすと、水滴が数滴こぼれた。

 ご飯を温めている間に、今朝のおかずを紹介しよう。

 豚肉とキャベツの野菜炒め。香ばしいしょうゆの香りが食欲をそそる一品だ。キャベツ以外にも、もやし、人参、えのきが入っていて、彩りも申し分ない。思わず一口つまんでしまった。

 昨晩、家族が疲労困憊の状態で立て続けに帰宅してきたものだから、否応にも俺が食事を用意しなければならない状況に陥ってしまった。

 計画も何もなかった俺は、とりあえず目に留まった食材をでたらめに切り、フライパンでごちゃ混ぜにするほか考え付かなかった。慣れない食器洗いをしたりして神経衰弱してしまった俺が調理できたのは、結局その野菜炒めのみであった。

 我ながらうまくいった方だと自負している。熱くなった茶碗をレンジからあくせくしながら出して、「いただきます」と言ってから箸を持った。


 早く学校に行くと決めた以上、のんびりしているわけにはいかない。いつの間にか、そんな使命感が俺の周りを取り巻いていた。

 朝食を食べ終えてから、昼食のことを考えていなかったことに後悔した。仕方なく、購買部で何とかしよう、と自分の財布に妥協した。

 制服に着替えて、壁にかかったカレンダーを見上げる。六月二十日、月曜日。今年最大の豪雨が訪れそうな予感が俺の体をよぎった。まあ、そのときはそのときだ。


 六時半ごろ、俺は静かに玄関の戸を開けた。

 しばらく歩いていても、外は小鳥の鳴き声しか、空には響いてこなかった。

 ……いや。そうあって欲しかった。あたかも俺を待ち受けていたかのように、誰かさんが背後から声をかける。

 この声には聞き覚えがある。むしろこの状況から彼女以外ありえない。振り返った俺は、不安でいっぱいの朝を体現していたらしかった。

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