(7)~雷は落ちませんが、曇りは続くのでした~
一方その頃的な感じです。
ライタと語り少女の、廊下という微妙な空間で繰り広げられる壮絶な戦い(!?)です。
語りの人が登場人物と話をする、ようなのを書きたかったのですが、
なにぶん、ほとんど主人公が語っているので。
語りさえも登場人物に仕立て上げる俺は、
今回も見切り発車で、行き当たりばったりで、ぶっつけ本番で書きます。
「君が何者なのか、教えてくれ」
「私は……」
その時私は迷った。自分の素性をさらすべきか否か。
日下 月音。名前にちょっとしたトラウマがある私が、果たして彼に自己紹介ができるのか……。
「語り聞こえてるぞ、つくねさーん」
「はぅっっ!!」
私は衝撃を受けた。彼は全て悟っているかのような顔をしている。
「いや、聞こえてるんで」
「はぅっっっ!!!」
私は再び衝撃を受けた。彼は何かの学問を大成しているようだ。
「いやいや大成なんてしてないから」
しかし、悟られているといっても、私のトラウマまでは分かるまい。
「何となく”つくね”っていう名前に関連してるんじゃないか、とは思うけど」
「は、ふゃああぁぁ!」
言ってから自分の驚きの言葉に驚いた。
「図星か。ごめん」
「いいえ、私は名前の漢字自体は気に入っているんです。でも、声に出せば漢字なんて分からないし、自己紹介した後の皆の反応が怖くて……」
とか言いながら私は、自分が卑怯な存在だと、内心自嘲していた。人にそんな事情を話すことで、同情を誘おうとする自分が嫌いだった。
何よりも、気づかれていたものの、今まで彼らの話を立ち聞きしていた私。人の秘密を何くわぬ顔して聞いていた自分こそが、怖ろしい存在であるのだ。
「……その語りをオレに聞かせて、何が言いたい」
「あ、声に出していたんですね、私……」
「”やっぱり自分は卑怯者だ”、と」
「!!」
「オレが言うことじゃないんだけどさ。自虐って自分で自分をけなすって言うけど、結局は自分がそれほど傷つかないぎりぎりのラインまで自分をけなして、それ以上は相手に言われないようにするっていう、いわば防御線のようなものなんだよね。……オレはな、確かに話を聞かれて気まずかったけど、オレはそうなった以上、聞かれても構わないって思ったんだ」
「……」
「だから、少なくともオレは、話を聞かれたからどうとか、言うつもりはない」
「え……?」
「ある意味偶然でもあれば、運命でもある。オレは人との関わり合いを、そういう偶然とか運命で確かめていきたい。そのために、この学校に入ったんだ」
「運命……」
「そう、運命。従うか逆らうかは、人それぞれ違ってるけどね」
私は、その言葉に惹かれていた。
運命。漢字で書いてしまえば2文字、たとえひらがなでも4文字。そんな言葉の組み合わせだけで、私の心に響くものがこの世にあったなんて。
その素晴らしい響きを与えてくれた、私の……。
「あの、金剛寺さん……」
私は一つ頼みをしてみた。
「なに?」
「”殿”と呼んでも、宜しいでしょうか?」
「と、との……?」
「はい、”殿”と呼ばせてください」
「な……何で?」
「私は殿に心を救われたのです。ぜひ、これからは殿に仕え申したいのです」
「許可とる前にもう殿って呼んでるし……」
こうして、私と殿はいつまでも一緒。未来永劫幸せに暮らしま。
「暮らしません。てか、殿に仕えるなら暮らしませんよね」
「では、呼び名を”殿方”に……」
「微妙に意味違ってない?」
”殿”って。いや”殿方”って無いだろ……。確かに自分でもすごく恥ずかしいこと言ったな、と思ったけど。
黒の背中まで伸びた髪に……前髪パッツンっていうのか? この髪型は。
背は低め、140cmくらい。その瞳には、☆マークが見えなくもない。
普通の出会いだったら、オレの好みだった……かもしれない。
「清楚可憐、文武両道が良いよなあ」
「他は分かりませんが、剣道部所属で、中学生の時は県大会優勝しました。私の唯一の自慢です」
謙虚なわりに、自分の長所は隠さない。本当に違う形で会っていたらなあ……。
あれ、今しぐれっぽくないか、オレ?
可愛い女の子につきまとわれるが、自分もまんざらでもない。
ああ、きっとこんな感じでしぐれも日々悩んでいるんだろうな……。
「殿、何かお悩みですか? 私でよければ相談に……」
「いやむしろ、喜ぶべきなんだろう!」
「はい! そうですね! 笑って悩みを飛ばすのです!」
両腕をオレの肩あたりまで必死に伸ばす。頼む、そんなに頑張らないでくれ!
「……えっと、君はどこまでついてくる?」
階段を下りて進んで、もう目の前に下駄箱がある所まで来た。
「君ではなく、つくねです。語りとして、一生殿の物語を語っていく所存であります」
「つまり、家までついてくると」
「はい」
そうですけど何か、みたいな顔をされた。
「き……、つくねさんは自分の家に帰らないのか?」
「はぅっっ!!」
そう、やっぱり家の人に言わないと。そして断ってもらわないと。
「安心してください、1人暮らしなので。下宿先を変えるだけのことですから」
不安だあああああぁぁぁぁぁ!!!
どうなっているんだ、これは!?
神様のいたずらにも、ほどってもんがあるぞ!!
決めたぞ、もう今度から仏しか信じねぇ。もう西洋の行き過ぎたジョークにはついていけねえ。
「あ、殿にはお家問題があるんでしたよね……」
おう、その通りだぜ!
「そう。オレ、家の問題があるし、どうなるか……」
そうして、オレは携帯電話を取り出し、家に電話をかける。
「……今、電話したら、何部屋でも空いてるから、好きに使っていいって……」
半分混沌を交じらせながら、オレは真っ白になって言った。
「いいんですか!? 私のような卑屈で寂しがりで、面倒な人間が行っても!?」
「最初の印象とは、ずいぶんと変わったね、雰囲気」
ああ……、何で出ちゃうんだよ兄さん。このタイミングで何でオレの最大の理解者が電話に出るんだよ……。両親とかだったら、「だめ」で電話がぷつん、なのに。
「これも、運命ってやつか……!」
「はい、運命って素晴らしいですね!!」
そんなに目を輝かせて、オレをこれ以上眩しくさせないでくれ。
真っ白になったついでに、オレは引っかかることを思い出した。
「そういえば、やくもはもうあいつらの所に着いたかな」
「やくも……? ああ、さっきのイケメンさんですね」
「そう、さっきの気障なやつ」
同じ人物をさしていても、表現一つで、ほめ言葉にも、皮肉にも変わる。
「あいつらって、そのやくもさんと話していた、二人のことですか?」
「ああ」
「どんな人たちだか、想像がつきません」
「き……つくねさんは何組?」
「四組です。今日、しかも人の少ない放課後に偶然二組を通ったので、他の人たちは全く分からないんですが」
じゃあ、なぜオレ達の名前とか知っていたんだ? という疑問はさておく。
「まあ、その……殿と呼ぶつくねさんが俺を語るにあたって、二人の存在は外せないよ」
「家臣として、知るべき情報ですね!」
何だかんだでオレも殿と呼ばれてノリノリだ。
会ったばっかでこんなに懐かれては、慣れざるを得まい。こういうの、嫌いじゃないし。
昇降口を出て、俺は話し始めた。
「まずは、オレがクラスメイトを吹っ飛ばした話から……」
「いきなりアクションですか!?」
突っ込まれたその拍子に横を見ると、”合唱部 東北大会出場”と書かれた大きな看板が損壊して倒れている。2階の方から掛けてあって、強く固定されていたはずだが。
「あの時壁壊して弁償したな~」
「大丈夫ですか、その生徒は!?」
「オレからも謝りに行ったし、向こうからも謝られた。向こうの両親がしっかりした人で助かったよ」
「ほんとですね」
話し始めると、なかなか止まらない。つくねさんは、殿、殿と、変な呼び方をするけれど、オレの話をちゃんと聞いてくれた。
2人並んで話していると、感情的なオレでも、落ち着いて話せた。首は下を向きっぱなしで疲れたけど。
ずっと歩いて行ったら、いつも遠いと感じていた家までは、あっという間のことだった。
「もう着いたか。……ここが、オレの住んでる家」
「本当に、ありがとうございます、殿。おかげで殿のことも、他の方々のことも分かりましたし、こうして家に入れてもらうことになって」
頭をぶんぶん下げる。顔を上げると、つくねさんの髪が乱れていた。その様子がおかしくて、俺はつい笑ってしまった。
「今日初めて会ったけど、初めてじゃないくらい、話したな」
オレは何となく以前どこかで会っている気がした。学校の廊下とかではなく、違う場所で。
「あ!!」
突然、何かを思い出したかのようにつくねさんが叫んだ。
「どうした!?」
彼女は、涙を浮かべながらこちらをゆっくり向いて、
「着替えと教科書類……全部向こうにあるんでした」
そう。今日は月曜日、そして時間帯は夜。
今更帰って取りに行くなんて危ないこと、できません。
しかし、それでも明日の学校はやってきます。
授業の道具が無ければ、大変なことになります。
さあ、オレはこの後どうしたのでしょうか?
答えは、翌日の話をするときにでも。
番外編にしては、あっさりしてて、というか次の話に続くんじゃん!的な醸しをいれてしまいました。
翌日になるのは、次の次の次の次の・・・・