愛とかどうでもいいので初夜済ませてくださいと言った結果
「すまないが…私が君を愛する事はない」
夫婦の寝室として用意された立派な部屋に入って来るなりそう宣ったのは、先程神前にて私の夫となった美貌の王太子様だった。
艶やかな黒髪は夜仕様なのか緩く編まれているようだ。申し訳なさそうに俯いた顔、碧の目はこちらを見ようともしていない。
しかしまあそんな事はどうでも良い、私の返事は決まっているので。
「愛とか別にいらないんで、さっさと初夜を済ませてもらえます?」
私がここにいるのは、後継者を産み育てる『仕事』の為である。
様々なタイプの非凡を産み出してきた我が伯爵家の血を継いだ子が欲しい王家と、結婚で一生縛られるのめんどくさいお金と自由が欲しい私の契約で決まったのがこの結婚。
私は最低限後継者とスペアを産んで育て、後継者見込みの子供が15歳になり問題なければその時点でお役御免、産み育てた子供一人につき規定の金額を貰って離婚、後は好きにしていい事になっている。
両親にも許可を取った…と言うか、両親は私の好きにしていいよとずっと言っていたので、逆に王家と縁付くのは大丈夫なの?となっている訳だが。
まあ早い話が、早く子供が欲しいのである。早くお役御免になりたいのである。
「え、でも、きみは」
「私は子供を産み育てる為にここにいるんです、あなたの愛は求めてないですし、あなたの妻として公の場に出るつもりもないです」
王家と契約は子供に関する事だけ、社交は別の人を立てて、そちらを正妃だろうが側妃だろうが好きにしてもらっていい。
そのためにも、この結婚が決まった時から『病弱な令嬢』設定で貴族間の社交を最低限以下に抑えていたのだから。
今まで通り、公の場では好きな相手を侍らせれば良い。一人か二人に絞った方が対外的には良いだろうけど、そこまでは私の知った事ではないし。
「両陛下から私の事をどのように伺っているかは存じませんが、子供を産める体である事と純潔である事は検査を受けたので大丈夫です」
「君は、病弱だから…この結婚は命短い娘の願いを叶えるため、だって」
「あー……殿下は隠し事苦手って話でしたもんね……じゃあその流れで初夜もお願いします」
「そんな事、言われても…うわっ!」
嘘偽りが顔に出るとは聞いた気がするが、そこまでかあ。となるものの、私のする事に変わりはない。
いい加減めんどくさくなってきたので、魔法で強引に寝台に引っ張り込む。
「命短い妻が泣いてせがんで初夜を済ませる、そういう事でひとつお願いします」
「まって、随分と力強くない?!」
「はあ、別に命短いとかそういう事もないもので」
一応ちゃんと初夜仕様の寝衣を着ていたらしい夫(仮)を仰向けに転がし、その腹に跨る。
こちらも初夜仕様のスケスケ布で、面倒だからと下着もつけていないからまあほぼ丸見えだけど、どうせ最終的には全部脱ぐし…いや脱がなくてもいいのかこっちは。
どうしようかな…とちょっと迷っていたら、夫(仮)が両掌で顔を覆っていた。どういう感情だそれ。
「あ……あかりを、消してほしい」
「はぁ、いいですけど」
か細い声で言われたので、明かりを消す。
初夜ってこういうもんなの? と困惑するが、初婚同士で聞いてもわかるわけはない。
とりあえず、跨ったままの体はプルプル震えてはいるものの、逃げ出すそぶりを見せていないのでそのまま進める事にする。
逃げようとしても拘束して進めるつもりだったけど。
とにかく夫(仮)の寝衣は剥かないとダメだなとなったので、寝衣に手をかけた所、指の隙間から目を覗かせた夫(仮)がこちらを見ながらやや熱っぽい声を出した。
「はじめて、だから……やさしくしてね」
「閨教育してねえのかよ王家!!!!!」
うっかり叫んだ私は悪くないと思う。
***
なんだかんだ初夜は済ませた。
妊娠しやすい日程に合わせていたし、教わって仕込んであった魔法も発動はしているようだから、多分第一子と会うのは遠くない日になるだろうと思っているけれど。
「王妃陛下、王太子殿下って遊び人だと伺っていたのですが」
「女の子をとっかえひっかえしてるんじゃなくて、女の子から逃げきれないのよねえあの子」
「大丈夫なんですかそれで、次期王なんですよね?」
「大丈夫じゃないから、貴女の血筋が欲しかったのよ」
初夜が精神的にめちゃくちゃ疲れましたけどの文句を言いに行った先での王妃陛下の本音がこちら。
子供の事だけ考えればいいやと、王太子に関する情報をおざなりにしか確認していなかったのは私の落ち度だが、そうですか…。
「血筋については遠からずめでたい報告ができると思いますが、公の場はどうするんです、私は出ませんよ」
「えぇ…出てくれていいのに」
「契約できっちりお断りしてますよね」
残念、と肚の読めない顔で笑う王妃と、この場には居ないが人の良さそうな顔をしているだけの王を思いながら、なんでこの二人からあんなのが育つんだよと毒を吐きそうになる。
あれか? 閨ではあんなんだったけど他はスゴイのか王太子? いやでも大丈夫じゃないっつってたもんなさっき。
「まあ、そちらも一応手配はしてあるから、そのうちね」
***
その後、引き合わされた公の場担当とは親友になった。彼女は私がいる間は側妃、後正妃になる予定だ。
夫(仮)は閨ではずっと同じような状態だったけど、長子とその後の双子が無事産まれた後は早々に閨のお役目は引き上げたので後は知らん。
側妃は子を望んでないし、夫(仮)も彼女と子作りするつもりがないようなので、遠慮なく子供達にお母様はこちら、と言う刷り込み教育をしていく。とはいえ、伯爵家の血がそれなりに出たらしい子供達は事情の大半を理解しているようだが。
良い方の非凡さが出ているように思う、残りの期間でやばい方の非凡さが垣間見えた場合は適切に処理していくつもりだけど、そうでないのであれば私は契約通りお役御免だ。
残る年数を指折り数えつつ、まだ暫くは子育てに励む日々を過ごす事になるだろう。
側妃との初顔合わせにて。
「初夜が騎乗位だったと伺ったのですが本当ですか?」
「初手でその会話はどうかと思いますが、本当です、但し正確ではありません」
「騎乗位以外もこなされたと?」
「いえ、初夜以外も毎回騎乗位です」
嫌そうな顔をした正妃に、思わず笑ってしまう側妃。
「私が動いてる最中ずっと喘ぎ声を上げるので、気が削がれるんですよねえ」
「面白そうなんで一回見学させてもらっても?」
「見学じゃなくて実地で体験してくださいませ」
「いえいえ、私そちらは免除の契約なので」
「では見学も免除で」
「残念」
正妃は華奢かわいい系、側妃はスレンダー美人系。




