”無い物ねだり”
此処は日本。東京・新宿。
「暗魂の坩堝……歌舞伎町…懐かしいな」
「クソ!クソ!クソ!なんで!!! 嘘つきぃ!!! 嘘つきーー!!!」
「ん?」
職業・闇祓い。名井南己は、人の心の歪んだ闇「暗魂」を沈静化するため、
欲望と見栄の坩堝・新宿歌舞伎町を訪れていた。
「はぁ…はぁ…」
「あれ? みゆき? どうしたのこんなところで」
「あぁ? …ッ!」
「たくや~この人こわ~い」
「ねぇ〜俺の看板の前で何してんの?」
「なにし…てる? ふざけ…んナ…」
「ごめんこの後お店行かなきゃだから……お金できたらまた来てね」
「グゥう…グゥウ……」
「なに? まだなんか」
「ブチュッ!!!」
「きゃ――!!!」
「まずいな」
南己は超力・「千里眼」を持った人類、発現者である。
「グゥウ…グゥウ……」
「なに? まだなんか」
「グゥッ!!」
「ッ!!!」
「ガキンッ!!!」
「逃げろ!!」
「ヒィ!!」
「離れて!!!」
人の心の歪んだ闇「暗魂」が暴走。ホスト狂いのみゆきは「暗魂」の暴走により、醜く悍ましいバケモノの様な姿となり、担当ホスト・たくやと同伴の女性を襲う。化したみゆきを闇祓い・南己が祓う。
「え?なにあれ?
なんかのイベント?
コスプレ最近流行ってるもんねぇ」
出来事に感心は無くも大きい音に反応する群衆。その最中、1人の男が現場に居合わせてしまった。
「よし!! 今日はどうにもならないので3人でラブホ!!」
「え~回転式のベッドじゃないとヤ~ダ~」
「ヤ~ダ~」
「しょ~がないな~もう~…お?」
男の名は庵藤紅彼。実家が太い無職。日々退屈な紅彼は、それを埋める何かを探し続けていた。
「くそっ!!」
「グウアアアア!!!」
「バシュッ!!」
「バンッ!!」
「ドカッ!!!!」
「フウウアッ!!」
「侵食が浅い! 紺縄ッ!!!」
暗魂化した人間を締め上げる特殊な縄を使いみゆきの行動を制圧。
「カチッ! ツゥー…」
の血液サンプルを採取する南己。
「よし後は警察に」
「ねぇねぇ…お兄さんたち何してるのー」
「すません今警察呼んでるんで後にしてもらえますか?」
「イイじゃん教えてくれるくらいね~」
「ね~」
「ね~」
「…おいお前」
「ドサッ!!」
南己が紅彼の胸ぐらをつ掴む。
「仕事中だ…話しかけんな」
「なに?
やるの?」
「ウーウー」
「ピーポーピーポー」
パトカーと救急車の音が歌舞伎町に鳴り響く。
「今揉めたら捕まる」
「そうね…とりあえず離しなよ」
「サッ…」
胸ぐらから手を離す南己。暗魂化してしまったみゆきの身柄を渡す。みゆきに目立った外傷は無く、1日、二日で目覚める事を伝えその場から立ち去ろうとする南己。
「それじゃ私はこれで」
「待てよ」
「……」
「何です…か?」
「俺にもやらしてよその仕事」
「お前はバカか? 誰でも出来る仕事じゃない さっきの見てたら分かるだろ」
「誰でもできないからやる価値があるんじゃないか」
「今…人足りてるんで それじゃ」
「おおいちょっと!!」
そそくさと退散する南己。群衆に紛れて紅彼を巻く。
「プルルルル…プルルル…ガチャ」
「梨久ちゃん……5分後、道玄坂方面で一件発生する
「分かりました ああそれと来週テストあるんで八時上がりでいいですか?」
「ん~いいよ その1件終わらしたら直帰で 10時にカード切っとくね」
「やった~! 南己さん太っ腹~!! ありがとございます!!」
「若人から青春は奪えない 気を付けて帰りなね」
「は~い」
「プープー…」
「よし、今日はさっきので済みそうか…」
「ねーねー俺は何時上がり?」
巻いたはずの紅彼が南己の跡を付けていた。
「……ハァ~」
「おっ溜息、お疲れですか?」
「お疲れですか?じゃない 何なんだお前は 営業妨害だぞ」
「俺か? 俺は!! 実家が太い無職だ!!!」
「……あそ」
死んだ魚の目で紅彼を見る南己。
「て反応悪ゥ!!」
「実家太くて無職ならそれでいいじゃん わざわざ仕事しなくていいじゃん」
「そうなのか!!!」
「てかさっきの頭悪そうな女二人はどうした」
「ん? あ~さっきの子たちはラブホ行って速攻寝かせた なんも面白くなかったわ」
「うん じゃあお前も早く家に帰れ」
「南己!!」
「…」
「お前の名前は俺が頂いた! 絶対忘れないぞ南己!!!」
「そりゃ良かった じゃ俺帰るんで」
「おいちょっと」
「追っても無駄だ 絶対に追いつけないから」
「え?」
「タッタッタッ!!」
「ビュンッ!!!!」
ビルとビルの間を跳躍で飛び回る。
「うそッ!!!」
「じゃあな~迷惑男~」
突然現れた滅茶苦茶な男、紅彼。この男が後に南己の人生を大きく狂わせる。
「ん…んんー……んん……10時半…」
何気ない朝。南己は朝食の用意をする。
「……ガコンッ!」
「ん? 玄関から? 来客か?」
恐る恐るドアを開ける。
「ギィー…」
「ガー…ガー…」
「っ!!! ヤベッ!!!」
「んん~…あ!! 南己じゃん!! やっぱ場所合ってた!!」
「っ!!!」
玄関にいたのは昨日南己をストーカーしていた男、紅彼。
「帰れ!!! ていうか跡つけてきたのか!! どこまでしつこいんだお前!!!」
「俺はとことんやんやんなきゃ済まないタチなの!! あそうだ求人!
募集してたよね!?」
「は…? なんでそれを」
「にひひひ…これな~んだ」
南己は紅彼を巻く際、名刺入れを落としてしまい、それを紅彼に拾われ住所を特定されていた。
「先に言っておく 雇わな」
「昨日の凄かったな!! 如意棒見たなモノ使って化け物になったおねぇちゃんバンバン叩いてよう!! いやぁ~あれは圧巻だったな~」
「あのな…」
「あの棒どこにあんだ? 俺にも触らして」
「いい加減にしろ!!!」
「……」
その場に緊張が走る。
「これは遊びじゃないんだッ!!!」
「……」
「お前は! ……お前は面白半分でやろうとしてる時点で、手段と目的が逆転している
……もう一回考え直せ」
「……」
「シャシャシャ…バン!!」
メモに住所を殴り書きする南己。
「明日、ここのふ頭に来い お前が意地でもやりたがってる事を見せてやる」
紅彼「お…おう」
南己「わかったらもう帰れ」
「キィー…バタン」
「バンッ!!!」
椅子を蹴り飛ばす南己。紅彼の存在苛立ちを誘う。
「……クソッ!!!」
南己は何も紅彼が声を掛けてきたことではなく、〝闇祓う〟という仕事の重さを知らない事に対して心底腹が立っていた。
翌日――
「……」
海を眺める南己。
「おっいたいた」
昨日の苛立ちは落ち着き、どうせコイツなら来るよなという目でじっと紅彼を見つめた。
「…ま来るよな」
「えへへ、ども」
「褒めてない」
南己が紅彼を呼んだ場所は、黄泉ヶ丘ふ頭。自殺の名所である。
「なぁなぁ、人いっぱいいるけど同業者?」
「そうだ 俺たちは基本大きな案件の時は人数が集まる」
「大きな…案件?」
ふ頭の倉庫へ向かう南己。それについていく紅彼。
「俺たちの職業は『闇祓い』
人の心の歪んだ闇『暗魂』を沈静化するのが仕事だ
沈静化にも大なり小なりあるが今日のは…」
「ウ…ウウウ……」
「特大だ」
「南己さ~ん! こっちは準備OKです!!」
「わかった! 外してくれ!!!」
「ガキンッ!!!」
巨大化した人間を拘束していた手錠が外れる。
「ちょっとそこで見てろ」
「おおう分かった」
巨大化した人間に向かう南己。
「待っててな 今…楽になるから」
黄泉ヶ丘ふ頭・零番倉庫にいたのは、心の闇が増えに増え、人の原型を留められなくなった暗魂人間だった。
「暗魂武器・混合如意」
「ウウウ…ヴァアアアアア!!!」
「ドンドンドンドン!!!」
「うわぁ!!」
南己、巨大化した人間と交戦。
「フッ!!!」
南己が巨大化した人間に飛び乗る。
「伸びろッ!!!」
伸縮自在の棒・混合如意で脳天から一撃をいれる。巨大化した人間は怯み、一撃いれた後、一旦降りて行動を見る。
「タッタッタッタッタッ!!!」
「……ッ!! あそこか!!」
「ヴァアアッ!!」
「ガキンッ!!!」
足枷を繋がれている暗魂人間は行動が制限される。全力を出せない。
「ハァ――ッ!!!!」
「ドカッ!! バコ!! ボコ!!!」
南己、暗魂人間の両手と左足の骨を折る。
「アアア…アアァ……」
「はぁ…はぁ…おーい! 誰か降伏不要の武器持ってないか! 刃があるやつで頼む!!」
「はい!! 今刀をそちらに」
補助員から日本刀を受け取る南己。
「……?」
「ここからがお前の仕事だ」
「へ?」
「どうした殺らなのか? やらないなら雇用の話は」
「ちょちょちょ……って…なにを」
「このの首を切る」
「おい! 元々は人だったんじゃ」
「人だったから殺るんだ これ以上…生かしておけない」
「お前頭おかしいぞ!! 人が人を殺していいわけ!!」
「俺たちは!! どうにもならなくなった人達の命を握っている!!!
……これが『闇祓い』の仕事だ 分かったらとっとと消えろ」
「……なぁ」
「?」
「ボコッ!!!」
紅彼が南己を殴る。
「……てんめぇ何すん」
「お前がそういうならよう南己
俺は……〝人を苦しみから解放する それが『闇祓い』の仕事だ!!〟」
「ッ!!!」
南己はかつて恩師に言われた言葉を紅彼が発言し驚く。
「カチャッ!!!」
「おい!!」
「タッタッタッタッタッ!!!」
紅彼が走る。
「ダッ!! バシュッ!!!」
軽い身のこなしで頭しか動かなくなった人間の二回攻撃を避ける。
「こいつ!! 発現者か!?」
「待っててな…今楽に……ハァ――ッ!!!」
「よせーッ!!!」
「バシュンッ!!!!!」
紅彼が放つ一閃は、巨大化した暗魂人間の首を跳ねるのであった。