俳優と助監督と作家の物語
俳優と助監督と作家の物語
映画業界に詳しくないので、誤りがあるかも知れません。
その日、初老の小説家は不機嫌だった。
自分の知らない所で愛すべき小説が映画化となり、それだけならまだしも、主役男優が今まで演技した事のないアイドルなのだ。
こういってはなんだが、今まで数々の小説が売れ、テレビドラマや映画にもなりヒットしたのだ。
それがシロウトが演じるのは小説への、自分への冒涜だ、と思ってしまうのも自然な事だった。
その日、中年に差し掛かろうとする助監督は不機嫌だった。
ごの業界に入って早十年、やっと役職(セカンド助監督だが)についたのだが、その記念すべき映画の主演男優が事務所ごり押しで決まったド素人なのだ。
自分の、これからの輝かしい経歴に泥を塗る事になる映画を作る事に憂鬱となるのだった。
その日、若い新城信也は不安だった。
レッスンで演技練習はしていたものの、まだまだ映画の主役に耐えうる物でない事は自覚していた。
そして、よりによって原作は好きな小説家の作品なのだ。
幼少の頃から本を買い揃え、テレビドラマや映画は欠かさず見、下手な演技や演出にそうじゃないと突っ込みを入れていたのだ。
それが今度は批判される側になるとは。
今日の台本の読み合わせは不安でしかなかった。
新城信也の演技は下手くその一言。
監督以下スタッフ一同はやる気が出ず、場は盛り上がらない。
読み合わせが終わった後、新城信也は助監督に頼み込んで、演技を見てもらう事に。
最初は嫌々だった助監督も、新城信也の熱に押されて力が入る。
その時気づく、彼の台本はボロボロで中はびっしりと書き込みが有る事に。
夜を徹して演技指導をし、翌日も台本の読み合わせをする。
そんな事を二日繰り返した後、新城信也は「どうしても主人公のこの場面の心情が判らない」と言い出す。
二人であーだこーだと言っても結論が出ないので、助監督は「作家に聞こう」と言い出す。
そして深夜、小説家の家に訪れる二人。
新城信也を不快と思っていた小説家は、非常識な行動と相まって二人を追い払う。
翌日の夜にまた再訪する二人。
やはり追い払おうとしたのだが、新城信也が玄関先で演技を始める。
まだ実写化されていない小説の、山場となる場面のセリフを、一字一句間違う事なく演じ切ってみせたのだ。
素人からみてもまだまだ下手くそ、しかし小説家は新城信也が本気である事を悟り、二人を中に招き入れた。
そして徹夜をして小説の講釈をする。
解釈を巡って時には怒鳴り合い、時には笑い、三人は同士となった。
エピローグ
今日は日本を代表する映画俳優が主役を務める映画の公開初日だ。
そして映画にはもう一つ、話題がある。
それは、日本を代表する小説家の最後の遺作を原作とする映画なのだ。
この小説家は二十数年前の映画を最後に実写化・アニメ化の話を全て断っていたので有名だ。
理由として、最後の実写化作品の出来が最悪だからと言われていた。
しかし小説家の死後、この小説が出版された事によって間違いだと人々は知ったのだ。
「約束」 ~新城信也に捧ぐ~
この小説は、無名の俳優が挫折を繰り返し、それでも俳優を続け、やがて日本を代表する俳優になる成長物語だ。
末期のすい臓ガンに侵されながらも、病床で最後の命を振り絞り、書き記したまさに最後の遺作だ。
「必ず本当の役者になるから、もう一度映画化させて欲しい」という若き俳優と小説家の約束のエピソードが綴られていた。
この若き俳優というのは、新城信也の事を指すのだろう。
そして幕が上がる。




