表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

温泉ときたまご

作者: りん

 風が冷たい。冬の空気が乾いた頬を撫でる。

 梨沙は両手をこすり合わせながら、人影の絶えた駅前で路線バスの到着を待つ。

 後ろに二人並んだところでバスが到着した。

 がらんとした車内で、窓からの景色をぼんやりと眺める。

 少し遠くに梨沙が住む街が見え、明かりが煌々と輝いている。

 私の家はどのへんかな? 見つかるはずのないアパートを探す。


 バスを降りた梨沙が息を吐くと、その寒さを物語るかのように吐く息が真っ白になった。

 夜空を見上げると名もなき星が瞬いている。

 星の瞬きをキラキラと表現したのは誰が始まりなんだろう。よほどロマンチックな人に違いない。

 暗い道を歩きながら考えを巡らせる。

 十分ほど歩いただろうか、目的地である温泉に辿り着いた。


 フロントは週末の混み具合を呈していた。

 受付を済ませると、梨沙はのれんをくぐる。

 母親と娘、高齢の女性、若い女性グループ、そして梨沙のようにひとりで来た女性……。

 がやがやとした会話を聞きながらシャワーを流す。

 この温泉の目玉、露天温泉に滑り込んだ。

 外は屋内とは打って変わって穏やかだ。

 体の芯まで温められ、ついついほっとため息をついてしまう。

 目線の先には大きな木に張り巡らされたイルミネーションが点灯している。

 静寂の中で瞬くものを眺めていると不思議な感覚に包まれる。

 無音なのに何かメロディが流れている、そんな気がする。


 本日第二の目玉、夕食の時間だ。

 SNSでちょっと噂になっているすき焼き定食を注文した。

 間もなく、すき焼き、真っ白なご飯、温かいお味噌汁、お新香に卵が到着した。

 早速卵を割り、それを溶いてすき焼きの鍋に垂らす。

 はふはふ、すき焼きの甘辛いタレと卵の甘みが口の中でミックスする。

 箸が止まらない。勢いで白米をおかわりした。

 名残惜しいがそろそろ出ないとバスの時間に間に合わない。梨沙は重い腰を上げる。


 心とお腹を満たしたせいか、意外と体は冷えない。

 それでも指先は冷えるので、コートのポケットの中でカイロと指相撲をする。

 夜空を見上げ、梨沙は澄んだ空気を吸い込む。

 来年はどんな年になるだろうか、この空の星の数と同じくらい良いことがあるといいな。

 神様も苦笑いしてしまうほどの妄想を膨らませながら、静かな夜道をずんずん進む。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ