その6
僕はスマホで緑仙先輩に、放課後に時間を作って貰うように頼んだ。
授業を適当にやり過ごし、時間は放課後。タケルには用事があると伝えて、先に帰ってもらった。
「これで、僕の行動を知る者はいないっと。緑仙先輩も待っているし、急がないと!」
教室を後にして、向かうは旧校舎。中に入ることは禁じられているが、周囲を探索するのは止められていない。
階段を降りて靴を履く。鼻歌スキップで隣にある旧校舎へと着く。
「そろそろ、来るはずなんだけどな――」
「お~い、こっちだよこっち!」
背後から声をかけられて、振り向くと緑仙先輩がぴょんぴょんと跳ねながら笑顔を浮かべていた。可愛い。
僕は唾を飲み込み、拳を握りしめて、
「実は大事な話があって……緑仙先輩! 僕と付き合ってください」
誠心誠意に頭を下げる。催眠アプリという保険があるが、最初から頼ってしまうのはお門違いだ。
僕は美少女が大好きであり、緑仙先輩も好きだからこそ、最初は漢をみせなければ意味がない。
そんな一生一大の告白に、緑仙先輩は頬を赤らめて……
「……やっぱり、噂通りの変態だったんだね。初めて会話して数時間後に告白とか、どうせ体目当てなんでしょ?」
顔から表情が消えて、蔑むような視線で僕を睨みつけた。先ほどのほんわかとした雰囲気から一転、冷徹なオーラを感じる。
これが噂に名高い、中二病状態になった緑仙先輩か⁉
僕がたじろいでいると、緑仙先輩は一瞬曇り顔を浮かべた後に、元通りの笑顔を浮かべた。
「もう呼び出した件は終わりかな? 私はこの後用事があるからもう帰るからね」
「ち、ちょっと待ってください。もう少しだけ話を聞いてください」
「だが断る! 答えはNOに決まってるからね。それじゃあ失礼するよ……」
僕はスマホを取り出して、催眠アプリを起動する。
「命令。緑仙先輩は僕の告白を了承して、恋人だと思う!」
スマホ画面に映った目玉がギョロリと動く。一瞬の沈黙が場を支配して、
「ハチくん♡ この後は何処にいく? 私達の恋人一日目を一緒に祝いましょう!」
柔和な笑みを浮かべ、頬を桃色に染めた緑仙先輩がデレたようすで僕に近づいてくる。僕をムギュっと抱きしめて、体重をかけてきた。
体温が伝わり、甘い体臭や柔らかな感触が直接僕の体に伝わってくる。
こ、これが女子の体! なんかイケないことをしている気分になってくる。
僕の表情筋が崩壊し、口をだらしなく緩めていると、緑仙先輩が耳元で囁いてくる。
「とりあえず、二人きりになる所に行きたいなっ……このままと誰かに見られちゃうかもっ」
吐息交じりにボソボソと呟かれ、思わず息を飲む。スマホをポケットに仕舞い、緑仙先輩の手を掴む。
両手で包み込むように握り、僕は視線を合わせる。緑仙先輩の瞳が一瞬揺らぐが、すぐにトロンとした顔つきになる。
僕は手に力を込めて、確かめるように言った。
「だったらさ、行ってみたい所があるんだけど一緒に来てくれる?」
「もちろんっ! だって私の彼氏なんだから、髪の毛一本から全身の内臓まで尽くすつもりだもんっ!」
かなり重ための愛の発言だが、今の僕にとっては好都合だ。
まさか先輩が彼氏にこんな尽くす人なんて……本当の彼氏になりたかったな。
僕は心情を面に出さず勢いよく、
「だったら、この後にホテルに行こうよ」
……というわけで、無事ラブホテルにやってきました。
「わぁ~一度来てみたかったんだけど、中はこうなってるんだぁっ!」
緑仙先輩が好奇心旺盛な表情で、部屋の中を探索している。
入り口からまっすぐ通路を進むとベッドルームがあり、通路を途中で曲がれば、風呂場がある。冷蔵庫やキッチンもあってアメニティもしっかりしている。
高校生だとしても、催眠アプリがあれば大人に見せることなんて簡単だ。
値段が万札を超えるのはかなり驚いたが、緑仙先輩の手前、漢気を見せなければならない。
「それじゃあ、緑仙先輩? 先にシャワー浴びてきてください」
「う、うん……行ってくるねっ」
緑仙先輩は頬を赤らめて、恥じらいを隠しながら風呂場へと向かった。
さすがに彼氏(催眠)とラブホテルに行くのは照れるのだろう。僕はベッドへと向かい、時間が経過するのを待つ。
スマホを手に持ち、この後の催眠について妄想を膨らませる。
感度1000倍で絶頂させまくったり、自身を猫だと思い込ませて猫ちゃんプレイをしたり……
敢えて、僕の局部に催眠をかけて無限の持続力で暴走するのもいいな。
色々と脳内で楽しんでいると、緑仙先輩がお風呂場から出てきた。
「ごめんね、ちょっと待った?」
バスローブを羽織っており、下着をつけてないのが見えた。体から湯気が出ており、火照っているような表情を浮かべている。
生々しい雰囲気に、僕は緑仙先輩の返事を聞くことなく、
「そ、それじゃあ、ぼ、僕も浴びてきます……」
スマホをベッドにおき、急いで風呂場へと向かった。服を脱ぎ、急いでシャワーを浴びる。この後のことを考えると、念入りに全身を洗わなければならない。頭から爪の先まで綺麗にした僕は、五分も経たない内に風呂から出た。
緑仙先輩と同じようにバスローブを羽織り、ベッドへと向かう。
「お、お待たせ」
「う、うん」
お互いに初々しい反応。場が静寂に包まれて、僕は勇気を振り絞る。
「あのさ。脱いでくれないかな?」
僕の言葉に、緑仙先輩は一瞬だけ躊躇ったあとに部屋の電気を暗くする。
シュルリと布が擦れる音と共に、緑仙先輩のバスローブが床に落ちた。