その3
深夜3時、皆が寝静まる時間に僕はパソコンと睨めっこをしていた。
「ちくしょう……今夜のオカズが決まらない……」
鈴音から衝撃の告白を受けたため、癒されようと動画を検索していたのだが、心に響くものが見当たらない。
X○ideos、○ornhubなどのサイトには俺の股間は反応せず、DL○iteやF○NZA、D○Mなどの王道を漁るが、傷を癒してくれるようなものは無かった。
「何でヤッてもないのに賢者タイムにならなきゃいけないんだよ……マジで萎える」
検索エンジンを起動して、新しい素材を探す。動画や漫画、時には小説まで範囲を広げていると、
「や、やっちゃった……広告から変な真っ白のサイトに飛んじまった」
基本的には王道以外のサイトは、危険である可能性が高い(個人の感想)。
使用者の情報が筒抜けになるほどのセキュリティの弱さ。そこから詐欺や迷惑メールへと繋がっている。
僕のパソコンはその危険なサイトたちの間を冒険するため、様々な対策アプリを設定しているのだが、
「どうしてパソコンの操作が出来ないんだよっ! ……って、なんだこのサイト?」
画面が切り替わって、真っ黒な背景に白の歪んだ文字が浮かび上がる。
「催眠アプリ? こんなもの詐欺が、変な宗教に決まってる!」
僕も知性を持った人間だ。
催眠アプリを使ったメディア作品が、フィクションだと理解している。
僕みたいな官能的思想をもったおっさんが、妄想を膨らませて美少女にアレコレするのを知っている。だからこそ……
「ここで、やらなきゃ男じゃない! とりあえず適当にクリックしとけば次に進むかなっと……」
マウスを動かすと、画面が切り替わる。豪勢なBGMが流れて催眠アプリについての説明が映し出される。
古代文字のような崩れた文字で読みづらいが、目を細めれば読めなくはない。
下にスクロールしていくと、アンケートのようなチャック欄があり、一つずつ埋めていく。
「え~と、【問01。貴方はおっぱいが好きですか?】は、大好きですっと。次は【問02。貴方はおしりが好きですか?】は、大好きですっと。次は……」
その後も順当に質問に答えていく。ほとんどが個人情報を流出させるものではなく、性癖に対するものが多かった。
次第に結構ノリノリになってきて、最後の方は真剣に考えて答えるようになった。
「……これで、最後っと【問072。貴方は催眠アプリをインストールしますか?】は、もちろんイエスに決まってる。まあ来るわけないけど」
僕がそのボタンをクリックすると、手元に置いてあるスマホが通知音と共にブルブルと震える。
ロック画面を解除すると、見たこともないアプリがインストールされていた。
「え? なんだこの目玉がギョロギョロしている気持ち悪いアイコンは……まさか本当に⁉」
僕は勢いよくアイコンをタップして、システムを起動させる。
耳に残る独特なリズムのBGMが流れてきて、画面に3Dのリアルな目玉が映し出される。
僕はパソコンに視線を戻し、説明文を読む。
「なになに……【スマホをかざし、命令。と言った後に、催眠させたいことを叫ぶと発動します】って、これはさすがに嘘だろ?」
僕はスマホを持ってベッドに倒れこむ。
「でもこれのおかげで今夜の相棒が決まったな……」
ネット検索エンジンで、エロ動画_催眠。と検索する。個人的には漫画のほうがクオリティが高
く、動画の場合はかなりふざけている場合が多い(個人の感想)。
だが、それでいい!
視聴者が冷めるほどの女優の大袈裟な演技、ヘイトが溜まる男優の吐息。一々行為中に動きを止めて、催眠を繰り返すクソ監督etc……。
数え上げればきりがないが、だからこそ人間味が伝わってきくるため、僕はかなり好きな部類だ。
……30分後、僕はティッシュをゴミ箱に投げ入れた。
脳内が何も考えられなくなり、屋根を見つめる。この時間は世界の心理を考えながら黄昏るのが一般的なはず。
しばらく経過して、視界がハッキリしてくると僕はスマホを手に取る。
「やっぱり、催眠っていうのは男の夢だよな……って、そういえばあの変なサイトのアプリをインストールしてるんだった」
寝落ちするまでアプリゲームをやろうとスマホを操作していた所、あの目玉が特徴的なアプリの存在を思い出した。
「さっきまで催眠アプリの物を見てたから、これをなんだか信じたくなる気分……」
僕は催眠アプリを起動して、目玉を画面に映し出す。
確か、命令。と言った後に催眠させたいことを叫べばいいんだったよな?
最近に不眠症でなかなか寝付けなかったから、催眠で治してみるか。
大きく息を吸い込み、上下左右に動く目玉を睨みつける。
「命令。僕は今すぐ意識を失って眠ってしまう――」