その34
ベッドに押し倒された僕は、緑仙先輩とクレアに手足を抑えられていた。
タケルはベッドの端で、毛布に包まりながら眠っている。
先ほどの会話は、寝ぼけていたらしく、スヤスヤと心地いい寝息を立てている。
僕は元々少なかった身包みを剥がされており、裸の状態だ。
クーラーの冷気が直接伝わってきて、思わず震えてしまうほど寒い。
「それで……僕が弁明したら、二人の考えは変わったりするかな?」
「ワタシはノーよ。元々、放っておいて問題はナシと思っていたけど、緑仙に誘われてきてみればこの状況、粛清以外の選択肢はないわ」
クレアは僕の右半身を、全体重をかけて押さえつけながら告げた。
普段の僕であれば、抵抗できるのだが、左半身も緑仙先輩に拘束されているため、動けない。
催眠アプリを起動しようにも、スマホを強く握りしめるのが精一杯。
もしも隙を一瞬でも見せたら、催眠を受けるのは学習済みだ。
過去の出来事から判断し、僕は動けずにいた。
緑仙先輩は虚ろな瞳と、貼り付けたような笑顔で、
「私はハチくんの話を聞いてあげてもいいよ」
「……聞いた後は?」
「去勢かメス堕ちか選んでいいよ」
躊躇なく提示された選択肢に、僕は彼女に対する理解を捨てた。
ヤバい、この人は本気だ。
僕は頬を膨らませて、あざとい声色で緑仙先輩にせがむ。
「で、でも僕のアソコを切ってしまったら、緑仙先輩と一夜を過ごせなくなるんだけどなぁ」
反吐が出そうなほど、大袈裟な演技は、
「……まったくもう、ハチくんはしょうがないんだから」
緑仙先輩の瞳にハイライトを宿して、説得することに成功した。
クレアは「甘すぎる」などと、苦言を漏らしていたが、彼女に緑仙先輩が優しく微笑むことで、借りてきた猫のようにおとなしくなった。
僕はひとまず事情を説明する。
タケルが女子だったことは、二人はすぐに受け入れた。
クレア曰く、僕に向ける視線が、獣が獲物を狩るときと同じようなものだったらしい。
催眠アプリに関しても、タケルが電子機器やネットに詳しいことを知っていたこともあり、意外と理解に時間はかからなかった。
緑仙先輩に関しては、僕の言葉を全て心酔しているのですぐに終わった。
主に時間を費やしたのは、クレアである。
僕が要点だけをまとめて、猿でも分かるように説明したのだが、
「……というわけで、僕の冤罪は晴れたわけだ」
「でも、そこにいるタケルくんを抱いたのか変わらないよね」
「……それは、そうだけど」
クレアは有無も言わせずに、事実を提示してきた。
相変わらず口だけは達者だが、彼女に対しての対抗策は既に用意してある。
僕はスマホを使わせてくれと頼み込み了承を得た。仰向けの状態で、顔だけを横に向ける。
スマホのフォルダから、鈴音の写真をクレアに送った。
ピコンっ、とクレアの携帯から通知音が鳴り、彼女は確認して動きを止めた。
「もしも、僕に何かあれば義妹に迷惑がかかっちゃうんだよな」
仰向けの僕は、眉を顰めて、
「だから、一旦、僕の言うことを信じて欲しいんだけど……ダメ? クレアにも義妹の鈴音を紹介したかったんだけどな~」
「わ、分かったわ、とりあえず信じてあげる。だから、この写真の連絡先を教えなさい」
「私も欲しいな、家族として一緒に生活するかもしれないし」
「ワタシはアンタの愚痴のためよ、私利私欲の為じゃない」
僕が鈴音の連絡先を送ると、体を抑えていた二人は力を弱めて、和やかな女子トークを展開する。僕やタケルのことを忘れたかのようだ。
催眠アプリを使って全て解決するには、今がチャンスだ。
僕は残っている力を全部絞り出して、スマホを持っている左腕を強引に動かす。
クレアに手を抑えられていたが、するりと抜けた。
僕は脳内でコンマ数秒を処理しながら、催眠アプリを起動して二人に見せつける。
「命令、僕のことを――」
「「って、そう何度も引っかかるか!」」
緑仙先輩とクレアの圧に驚き、手からスマホが飛んでいった。
スマホは宙を舞い、ベッドから遠く離れた入り口へと飛んでいく。
僕は急いで取りに行こうとして、緑仙先輩とクレアが僕にもたれかかってきて、再び動きを止められた。
胸元にいる二人に、僕の体が絡みとられて、全身の自由は奪われる。唯一動くのは顔だけだ。
「す、すみませんでした。何でもしますので、アソコを切るのだけは止めてください」
緑仙先輩は笑みを浮かべて、
「だったら、ヤることは分かっているよね。ここはラブホテルで、男性はハチくんだけ……」
「……まだ、僕が思いついてないだけで解決方法があるは――んぐッ⁉」
僕の言葉は、緑仙先輩の唇によって塞がれた。
そして接吻が始まりの合図となったかのように、僕と緑仙先輩の色濃い接触は始まった。
いつの間にか目覚めていたタケルも参加して、彼女に襲われたクレアも交ざることになり、結局4人で一夜を共にしてしまった。
発禁をされないために生々しい表現を避けるが……一言でいうと、最高だった。




