その31
僕が目を覚ますとそこは記憶にある天井だった。独特な匂いと照明、以前に二度もいったことのある場所。
「……どうしてホテルに?」
前回と同様に手足は拘束されているが、多少身動きは取れるし、視界は塞がれていない。だが、全裸である。
肺が圧迫されており呼吸がしづらい。理由は明白、タケルが馬乗りになっているからだ。
「ようやくお目覚めかな?」と、淫靡な笑みを浮かべるタケル。
彼の……いや、彼女の姿は、透けたTシャツに女性らしい純白のショーツ。
普段とは違うのは、微かに膨らんでいる胸部だ。
「も、もしかして……女なのか?」
僕が漏らした言葉に、タケルは僕の頬を撫でながら、
「やっと気付いたんだねっ⁉ ……長かった、ようやくボクの念願を果たせる」
「好奇心だけじゃなかったのか?」
「それも嘘じゃない。だけど、その理由もハチが原因なんだよ」
一瞬だけ視線を逸らし、頬を赤く染めて首を微かに傾ける。
「恋する乙女って、どんな手段を使っても好きな子を堕としたくなるもん」
タケルはスマホを僕に見せつけてきた。画面には見覚えのあるギョロリとした目玉。
「命令。ハチの感度を三千倍に」
「……な、なに! まさか実際にそんなことが出来るわけ――」直後、僕の体が熱くなってくる。脳内からドーパミンが溢れ出てきて、全身が羽毛で愛撫されているかのようにもどかしい。
言葉が絶えるほどの快楽。僕が体を悶えさせていると、
「ハチってば、こんなシチュエーションに憧れてたんでしょ?」
タケルは指で僕の体をすぅーとなぞり、そこから波紋が広がるように電気が走って体をビクビクと揺らす。
腰を浮かして、手足を乱暴に動かすが、拘束が外れることはない。
より縛り付けるようになり、その痛みが快楽となって全身を襲う。
確かにこの催眠アプリの能力や、使い方に関しては、僕が想像していたものだ。
漫画やアニメなど、フィクションだけだと思っていた存在が、こうして現実に反映されているだけでも、奇跡と称さなければならない。しかし、
「どう考えても、僕とタケルの立ち位置は逆だろ!」
「こういったシチュエーションは嫌い?」
「大好きです」
「なら、いいじゃない」
即座に論破された。
「でも、男装美少女と催眠アプリだったら、僕がメス堕ちさせる方が定番だろ」
「も、もうボクが絶世の美少女なんて……」
タケルの都合が良い耳によって、僕の反論は打ち消された。
「ハチの理性は否定していても、本能は喜んでるみたいだけどね」
タケルの吐息が僕の首元を撫でる。
僕は快楽と共に絶頂を迎えて、
「――ッ」
視界が白黒に反転し、脳内の活動が一時的に止まる。すぐに意識がハッキリするが、頭の奥がズキリと響く。
何も自慰的行為はしていない、ただ、体を撫でられて息を吹きかけられただけなのに……これが催眠アプリの本来の力か。
体をビクビクと揺らしながら、僕は目を見開く。
「これ以上イッたら、確実に死ぬ気がする……」
「大丈夫だって、腹上死したらボクも一緒の墓に入るからさ」
腹上死というのは、性行為で心停止や脳出血によって死亡すること。
「僕の死因がテクノブレイクとか、末代までの恥なんだけと」
テクノブレイクというのは、過剰な自慰行為による身体異常で死ぬこと。
どちらにしても、エッチなことで死ぬことには変わらない。
タケルの笑みは、徐々に口角を吊り上げて、狂気じみた表情へと変貌する。
「催眠アプリはそれだけじゃないよ。二人きりの時だけ使える特別な使い方
命令。ボクが解除というまで、ハチは思考を停止して、感覚を遅延させる」
……タケルの「解除」という声により、僕は度々意識を覚醒する。積み重ねた究極の快楽が、全身を駆け巡り、僕の思考能力を奪っていった。
体は思うように動かなくなり、頭は考えることを放棄する。
こ、これが催眠アプリの真骨頂ってわけか……もう、何十回も絶頂の限界を越えている。
「みょ、うひゃめてふださい(もうやめてください)」
全身から液体という液体を漏らし、ぐちゃぐちゃになった僕は呂律の回らない口で必死に懇願する。
タケルは僕のそそりたつ逸物には一切触れずに、ただ、妖艶な雰囲気のまま体を悪戯するだけ、さすがに我慢の限界だ。
「ハチもそろそろ限界みたいだし、しょうがないよね」
タケルの表情が崩れて優しそうな声色になり――
「命令。ホテルで絶頂を迎えた時の記憶を削除」
「へゃ?」と思わず間抜けな合いの手を挟む僕。刹那、先ほどまでの記憶が断続的に消えていき、脳が処理をするのを拒み、思考するのも困難になる。
ダメだ、もう考えるのがつらい、動きたくない。反抗する気力もない。
タケルは嗜虐的な瞳を輝かせて、己の唇をペロリと舐める。その姿はとても妖美で目が離せない。
以前のような友達関係とは思えないほど、僕の心はタケルに蝕まれている。
「ハチの体は覚えてるみたいだね。それじゃあ第二ラウンドといきましょう」




