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その28


 メッセージが届いた晩。僕はリビングで腕を組みながら、頭を(うな)らせている。


 結局、午後の授業もサボり、下校時刻になるまで旧校舎の教室で、思考を巡らせた。


「怪しい人を絞ったけど、女子生徒の過半数以上に嫌われている僕って、どんだけ恨まれてるんだ……」


 客観的(きゃっかんてき)に分析した結果。学園の四分の一、200名程度は僕に恨みや嫉みを持つ人間である。


 猥談含め、覗きやセクハラをしたことが原因だ。自覚していたけど、信念や個性を捨てたくはない。


 モテたいという欲望はあるし、ハーレム(一夫多妻)の夢もある。

 しかし、同等にリスクやら周囲のリアクションなども、僕は気にしているのだ。


 可能な限り無駄なく、平穏のまま望みを叶えたい。


「男子生徒は信仰のように僕を(した)っている。こちらは容疑者から排除して、残った女子生徒で催眠アプリが開発できそうなのは……」


 脳内で女子生徒の情報を整理する。ある程度の情報は基本的に全て収集していたため、趣味(しゅみ)勉学(べんがく)の成績から更に容疑者を絞り込む。


 僕のような学年一位をキープして、どんな分野にも優秀な成績を誇る天才。それに準じるほどではないと、出来ないだろう。


 女子生徒の情報を思い出すのと、僕が起こした騒ぎを調べるのに、学校では時間を使った。


 ようやく基礎情報が(まと)まったため、脳内検索が可能になる。


 机に突っ伏しながら――鈴音の「ただいま」と声が聞こえ――僕は般若(はんにゃ)のように難しい表情をして顔を上げた。


「……どうして当てはまる生徒が一人もいないんだよ⁉」


 必死に思考を巡らせるが思い当たる人が存在しない。


 催眠アプリを運用(うんよう)し、僕を孤立させた人物。学園の中にいると推理したが、容疑者が一人もでないのは……想定外だ。


 名探偵コ◯ン風の推理で真犯人を突き止める予定が狂ってしまった。


 鈴音が疲れたようすで、


「……どうしたのそんな変な顔して」

「思ってたことよりも、別のことが起きて、パニック状態になってるだけだ。別に気にしないでくれ」

「いや、どう考えても気にしちゃうでしょ……」


 呆れた調子の鈴音。僕は頭を悩ませつつ、本題を隠して(たず)ねた。


「もしも何かの殺人事件があったとして、犯人の凶器も動機も分かっている。だが容疑者だけが一人もいない」

「全員にアリバイがあるってこと?」

「アリバイというより、その事件を起こせるほど賢くない。もしくは動機がないといったほうが正しいな」


 鈴音は顎に手を()える。眉を近づけて真剣な面持(おもも)ちでブツブツと何か呟いている。恐らく高速で思考を処理しているのだろう。


 僕は天才だ。それは揺るぎない事実。努力と才能を積み上げてた結果である。だが、鈴音は努力に関していえば、僕を遥かに凌駕(りょうが)する。


 様々なことに挑戦し経験を重ねた彼女の分析。僕とは違う視線で指摘してくれるはずだ。


「それで何か案は思いたか?」

「……え~と、もしも凶器も動機も間違っていないなら、容疑者の条件が間違ってると思うけど?」


 容疑者の条件。それは恨みを持つ女子生徒に限定したところか?


「はちが思っている以上に、人の感情は単純で複雑なんだよ」

「それは矛盾してないか?」

「だから聞く言葉が意味通りだとしても、その裏にはいろんな感情が混ざっているってこと」

「なるほど……つまり、僕が思う以上に人は賢いってことか」

「ま、まあ、そういうこと。もう少し選択肢を増やしたら、違う発見も出来るかもしれないね」


 鈴音は「それじゃあ、夜ご飯になったら呼んで」と告げ、階段を上っていった。


 僕はその姿を見送り、食事の準備を始める。普段は鼻歌交じりで上機嫌に支度を行う。今の僕は眉を(しかめ)め、口をへの字にしながら、情報を再び整理していた。


「……もしかして負の感情だけが僕を孤立させたいとは思わないんじゃないか?」


 以前、メンヘラの彼女を持つ中学時代の知り合いが、連絡先やらSNSから、異性の情報を全て削除されたと聞いた。


 知り合いはその後、浮気やらリストカットなど、振り回された挙句、その彼女に婚姻届(こんいんとどけ)を出されて夫婦になったらしい。


 結ばれたってオチを聞いた瞬間、腹を抱えて大爆笑したのだが、今の僕に限っては、冗談じゃないかもしれない。


 そう考えている内に、テキパキと食卓の準備は進んでいく。


 魚を焼き、米を炊き、味噌汁を作り、豆腐やら和え物を完成させた。


「鈴音、夜ご飯できたよー!」

「はーい」


 軽快(けいかい)な足取りで下りてくる鈴音。食卓に並べているおかずたちに、恍惚そうな笑みを浮かべている。


「「いただきます」」


 食事を口に運ぶ。脳内をフルに回転させて、条件を再び絞る。


 僕を拝む男子生徒。もしも歪んだ感情を抱いた場合、独占欲が増大したり狂信者となって暴走する可能性も十分ある。


 男子生徒の情報は基本的に知らない。名前と顔くらいは一致するが、ほとんどは趣味や部活も知らない。


 ましてや催眠アプリを作れるほどの秀才がいるなんて……ん?


 僕の脳内に一人の人物像が浮かび上がる。


 だが、アイツに限っては動機(どうき)が分からない。けどそれ以外は条件を満たしている。


 学園で唯一の親友……。


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