その26
タケルと僕を接させないように壁を作るクラスメイト。
さながら実写版のロミオとジュリエット。男女問わずタケルに話しかけており、
「そういえばさ、たけるくんってどんな本が好きなの?」「いつも見ているアニメとかある?」「付き合ってください!」「お主は我の嫁にならないか……」など、僕を介入させないように話しかけた。
僕は頬杖をつきながら、この状況を分析する。
「それにしてもこの反応はさすがに過剰だよな。どう考えても僕に対するヘイトが明らかにおかしい」
性欲に脳内を支配されて、緑仙先輩とクレアを襲いかけた場合と似ている。必要以上に僕を敵対……いや、孤立させようとするのは、何か関与しているはずだ。
15分の休憩ごとに巨人の進撃を食い止めるような壁に阻まれる。
昼休憩まで続いた攻防は、タケルが神輿の如し教室から運ばれたことで終了した。
「さすがにお神輿のように担がれたら、どう考えても対抗策がねぇって……」
苦虫を潰したように僕は顔を顰める。ポケットの違和感に気づく。先ほど渡した僕のスマホが入っていた。
画面を確認すると一件の通知。差出人はクレア。僕は画面をタップしメールを確認する。
『クレア:緑仙も呼んでる。誰にもバレないように屋上に来て‼ 急いで!』
僕は彼女の方に視線を向ける。数人と雑談していたクレアは、僕がアイコンタクトをとると、周囲に何か話して教室を出ていった。
お手洗いなどの理由で場を離れたのだろう。僕は周囲を確認しながら、スンっとした無表情でクレアの後ろをついていく。
屋上までの道。確実に僕のことを追っかけてくる生徒はいるはずだ。
クレアが階段を上り、僕は階段を下りる。そして一階に降りて非常口から外に出る。
「……視線だけでも学園中のほとんど。実際に追ってきたのは5、6人ってとこか」
一部を除き、学園にいる全員が僕を見てきた。行動の一つ一つを確認するような視線。檻に入れられた珍獣の気分である。
追跡してきた人数を把握したのは、扉の向こう側から聞こえてくる会話から推測した。
僕はスマホを取り出し、催眠アプリを起動する。管理人こと目玉が胸に埋まった人が映っている。久しぶりの発動に思わず強く握った。
「命令。僕の身体能力を120%に解放。及び、痛覚を遮断する」
脳から体へアドレナリンが巡っていく。久しぶりに感じる限界を越えた人智の力。
思いきり屈んで、全身の筋肉に力を込める。そして扉が開く瞬間、僕は思い切り飛び上がる。校舎の壁を蹴り上げながら、屋上へと向かう。
だが、人減は重力に逆らえるわけもなく、徐々に速度が落ちていき――全身に激痛――筋肉が断裂するほどの収束。
配管工の赤緑兄弟顔負けの空中二段ジャンプを可能にした。
ギリギリの所で屋上の柵に手が届き必死によじ登る。満身創痍になりながら辿り着くと、屋上の扉が開く。
クレアと緑仙先輩が現れる。立ち上がろうとするが、上手く足が言う事を聞かない。僕は床に這いつくばりながら、彼女達に訊ねる。
「そ、それで、僕を呼んだのは……学園で起きてる異常事態ですよね」
二人が近寄ってきたので、肩を借りながら僕はゆっくりと立ち上がる。ベンチへと移動した。
「ある程度、根も葉もない噂が独り歩きするとは思っていたんですけど」
「ハチくんのことは必死に弁解しようとしたんだけど」
「緑仙が落ち込むことはないじゃない、普段から信用が無いこいつが原因なんだし」
緑仙先輩が申し訳なさそうな表情を浮かべ、クレアが淡々とした口調で僕を指さす。
僕だってある程度の罪悪感やら責任感はある。そもそもの原因の一端だとは理解していたのだが、
「あの対応や雰囲気はどう考えても異常だ。暴力を振るうわけでもなく、机や椅子が傷つくわけでもない。ただ、孤立させようとしてくる」
一度虐められた経験ある僕だから、感じる違和感。
「……念のため、今日以降僕と距離をとって欲しいんだけど」
「ハチくん⁉ こういう時こそ頼っていいんだよ。もう将来を誓った運命共同体だからなんだから‼」
「気づいてないだけで、ワタシもこの事態がオカしいと思っているんだし、そんな気を使わないで」
協力を申し出るクレアと緑仙先輩。関わることになってから日は浅いが、出来事は全て色濃かったし、信頼はしている。
既に僕にとっては大事な人。だからこそ、彼女達を突き放さなければならない。
左右を挟む二人。僕は目の前に転がっていた石を指さし「あれ?」と呟く。
クレアと緑仙先輩の視線が石に向いて、僕はスマホを取り出し催眠アプリを起動。
ベンチから飛び上がり、二人の正面へと立ち、
「命令。緑仙先輩はクレアとの恋人関係は継続、クレアは僕とホテルで強引に初めてを奪われた。と記憶を上書きする」
早口で捲し立てた僕。咄嗟に動き手を伸ばしてきたクレアは動きを止める。
緑仙先輩の表情が徐々に恐怖を帯び始めた。クレアは後ずさり緑仙先輩に抱きつく。二人の怯えた視線に、僕は苦笑を浮かべる。
「それじゃあ、後はごゆっくり」
僕は体を引きずりながら、屋上から立ち去った。




