その24
教師への暴力行為で、僕は二週間の停学となった。
本来であれば退学だったが、海苔を脅したことと、学園中の男子生徒から反対運動があり、ギリギリのところで在学することが出来た。
「意外と何とかなるもんだな……ついカッとなって手を出したけど、まあ、アイツだったら別にいいか」
僕は自室のベッドに寝転びながら、謹慎一日目の早朝を迎えていた。鈴音は学校に行っており、家には僕一人。
僕のせいで鈴音に迷惑をかけたのが申し訳なく、帰宅後すぐに謝罪した。
喧嘩は勿論、最悪絶交も覚悟していたのだが、鈴音から返ってきたのは一言。
「大丈夫」
柔和な笑みを浮かべて、僕の体を優しく抱きしめてきた。耳元で「信じてる」「理由は何となく察したから」「後始末は任せて」など、慰めるような言葉で励ましてくれた。
後半の発言に若干の違和感を覚えるが、それを覆う母性溢れる優しさで包み込まれた。ありがとう鈴音。
僕は部屋のベッドから起きあがり、朝食を作りにキッチンへと向かう。普段より時間に追われないため、落ち着いた心境で料理を作る。
ベーコンレタスバーガー、コーンスープ、チキンの照り焼き、プリン。朝からかなり手の凝った重い朝食セットが完成した。
煮詰めすぎて苦くなったコーヒーを飲みながら、頭を刺激して意識を覚醒させる。
席に着きしばらくスマホでメールを打っていると、上からドタドタと急ぐような足音が聞こえた。階段を下りてきた鈴音。猫耳がついたもこもこのパジャマを着ている。
「おはよう鈴音」
「はちってば今日は早いんだね……おはよ~」
鈴音は欠伸をし、目を擦りながら食卓へと着いた。
「「いただきます」」
もぐもぐと食べ進めながら、僕は出来る限り学園以外の話題で、鈴音と雑談する。
会話を紡ぐなかで、家族としての絆が深まった気がする。
僕への対応が柔らかくなったというか、鈴音が笑う回数が増えたというか……とりあえず、関係が変わらなくて良かった。
食べ終わった鈴音は学校の準備をするために自室へと戻っていった。空になった食器をキッチンへと運んで洗う。
「昨日の今日で考えが変わってなくて良かった。でも、学校ではそうはいかないだろうし……」
洗い終わったところで、制服に着替えた鈴音が階段から下りてきた。急いで玄関に向かう彼女に、僕はついていく。
鈴音に「いってらっしゃい」と新妻のようにお見送りをすると、彼女は恥ずかしがったような表情で、力強く扉を閉めた。手を振りながら、僕は無表情になり、急いでスマホを取りだす。
『蜂:すみませんが、鈴音のことよろしくお願いします』
先ほどから緑仙先輩とクレアにメールを送っていた。事情を知る二人に連絡をしたところ、
『緑仙:はいは~い、承知しました♡』
『クレア:わかったわ。あと、ありがとう』
と、返ってきて僕は一安心し、スマホをポケットに仕舞った。
事情を知る数少ない二人。タケルには連絡したのだが、既読がつかず恐らく携帯の機種でも変更したのだろう。
タケルはよく電子機器を変えており、僕が使っているパソコンもタケルのおさがりだったりする。
以前も携帯を機種変更した際に、情報を削除してしまったと慌てていたし、今回もそんな感じだろう。
午前中は動画を視聴したり、全身の筋トレをして時間を潰した。
午後になり、多少罪悪感が湧いてきたため、家中の掃除を行った。
トイレからお風呂まで、排水溝からクーラーの中など、年末年始でしか掃除しない場所も掃除する。
家の年齢を一回りほど若返らせたと感じるほど綺麗になった。窓から夕焼けが見え、僕は夜ご飯の仕込みを開始した。
ローストビーフにチャーシュー、漬物などの時間と手間がかかる料理を作り、鈴音が帰宅するのを待つ。
時刻が18時を越えたところで、ポケットの中の携帯が通知音と共に震えた。
何度か緑仙先輩とクレア、そしてタケルから鈴音の近況報告のメールが届いていた。
僕の影響で鈴音が学園で虐められることはなく、逆に注目の的となり尊敬されているらしい。
僕のような変態が日常の一部にいることに、女子生徒が同情と興味が湧いたようで、暴言や陰口を吐く人は極少数らしい。
男子生徒からは、神の血筋ということで遠くから見守られているだけらしいから、特に危害を加えることはなさそうだ。
「そろそろ帰ってくる時間だな……」
玄関の扉が開く音が聞こえ、僕は急いで出迎えに行く。
普段通りのようすの鈴音が「ただいま」と、言い、僕は「おかえり」と、笑顔で返す。
お互いに内心を理解した上での心地よい雰囲気に、僕と鈴音は互いに視線を合わせて、くしゃりと笑う。
破天荒で騒がしい日々を送ってきた僕だけど、こんな感じの心温まる緩い一日も悪くない。




