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その22

 

 命令通り、裸で土下座した僕は鈴音に()り転がされて、自室へと運ばれた。


 腰が曲がり頭に血が上る体勢。寝れるわけもなく、体の痛みに(もだ)(くる)しみながら、朝を迎えた。


「よ、ようやく、朝か……そろそろ鈴音も、起きてくれるだろう……」


 あの後、僕を移動させた彼女は「ちょっとあの管理人さんと話してみるね」と言い、部屋へと戻っていった。


 さすがに全裸の僕が自分の部屋にいるのが嫌なのは分かる。だが、そんな状態の僕を放っておいて、豪快(ごうかい)ないびきを聞こえ始めたのは、さすがに絶望した。


 僕の思いが届いたのか、廊下を歩く足音が聞こえ、扉が開く音が聞こえる。


「す、鈴音? そこにいるんだったら、僕のことをどうにかしてほしいんだけど」


「そういえば、はちのこと忘れてた……え~と、確かこれを見せればよかったんだっけ?」


 鈴音が何やらゴソゴソを物音とたてて、僕の頭を掴んできた。首の関節(かんせつ)がボキボキと鳴りながら、頭を上げられ視線もそれにつられる。


 先ほどまで床を見ていたため、久しぶりにみる光と鈴音に僕は目を細めて――強引(ごういん)に鈴音に目を見開かされる。


 彼女が僕のスマホを見せつけてくる。昨日見た管理人が映っており、催眠アプリで見覚えのある目玉が、胸に植え付けられていた。


 ――一つ目の命令を解除。及び催眠の対象者を異性へと変更。


 肉体が解放されるのを感じる。強張(こわば)った体を僕はゆっくりと動かす。

 僕のスマホを鈴音から貰うと、疲弊(ひへい)しながらも声を振り絞った。


「命令。僕の感じる痛覚を遮断して」


 だが、画面は一切変わらない。


 な、なぜだこれは催眠アプリじゃないのか? 満身創痍(まんしんそうい)な状態で、必死に脳を働かせる。……確か、催眠の設定が異性に変更したとか言っていたよな。


「鈴音……さっき僕は言った言葉を反復してくれ」


 スマホを鈴音に渡し、干乾びたゾンビのような声で頼み込む。

 鈴音は戸惑いながらも、「め、命令。はちの感じる痛覚を遮断する」と言った。


 刹那(せつな)。脳内がドーパミンで溢れる。全身が軽くなり、先ほどまで感じていた痛みが一切感じなくなる。


「これでとりあえず一日は過ごせそうだな……そういえば鈴音は、これから何か聞いたのか?」

「それがあんまり覚えてないのよね。記憶が曖昧だけど、はちにこのスマホを見せるようには言われたの。とりあえず私は部屋に戻るから」


 鈴音が部屋と戻る。それは管理人から催眠されて、記憶を色々と変えられているな。


 その後、服を着替えて朝食を作り、鈴音と共に学校に向かった。いつも通りの日常に僕は安心していたのだけれど……。




 学園に到着。何の気もなしに教室へと向かっていると、頭部に柔らかく弾力のあるものがあたり、背中に強い衝撃が走る。


 僕が視線を上に向けると、不貞腐(ふてくされ)れた表情をした緑仙先輩がいた。


「緑仙先輩ってば、どうしたんですか?」

「……昨日は何にも関われなかったから、成分を補充中」

「そ、そうですか」


 僕はそれ以上何も言わず、緑仙先輩に抱きしめられたまま、教室へと移動した。


 会話をなるべく省略して余計なことを話さないことで、催眠アプリでの命令をなるべく聞かないようにする。


 教室の扉を開けるのと同時に、感じたことのある衝撃が鳩尾(みぞおち)へと走る。クレアが頭突きをしてきた。


「ク、クレアってばどうしたの?」

「……昨日はある程度分別をわきまえていたのに、また、戻ったことに対する腹いせ!」

「僕だって色々あるんだって――痛ぁッ⁉」


 クレアは姿勢を正し、僕の鳩尾に拳を連打(れんだ)してくる。僕は必死に体をうねらせて、クレアからの猛攻を避ける。


 緑仙先輩が背に張り付いているため、激しく動くことが出来ず、僕とクレアが小さな乱闘を繰り広げる。


 拮抗した勝負は、いつの間にか登校してきたタケルによって止められた。


「ちょ、ちょっとやめなって二人とも。そんな傍から見たら猫とネズミがじゃれあってるしか見えないってば⁉」


 いつの間にか周囲にギャラリーが集まっており、数人がスマホをかざしている。クレアは周囲を見渡し、ピタッと動きを止める。


 普段であれば僕の愚痴(ぐち)や悪口を女子生徒が話している。だが、昨日の行動もあってか、クレアを()めるような会話がヒソヒソと呟かれていた。


 僕は屈強(くっきょう)な精神力に、ダイヤモンドのような心だから、傷つくこともなく、笑い飛ばすことが出来る。


 でも、クレアは僕とは違う。必死にギャル風の口調で話し、大人ぶっている少女にとって、急に手のひら返しされて、陰口を吐かれるのは(こく)だ。


 案の定、彼女はひどく悲しそうな表情を浮かべる。


 ……こうなったのは、そもそも僕が原因だ。催眠による尻拭いを美少女に任せるのは、僕の信念に関わる。


 僕はスマホを取り出し、瞬時(しゅんじ)にメモを打ち込む。クレアにスマホを渡し、僕は告げる。


「今からその文面を読み上げてくれるかな?」

「え、これって……」


 クレアは泣きそうだった表情から、驚愕(きょうがく)したような反応。

 スマホと僕の顔を何度も見比べた後、彼女は催眠アプリが映ったスマホを僕に見せてきた。


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