その21
鈴音のパソコンが催眠アプリの目玉が映った。ギョロギョロと周囲を見渡したあと、僕の方を見て画面に文字が映る。
――あなたは催眠アプリを使いましたか? はいorいいえ
僕が驚いていると、鈴音が「どうしたの?」と振り返り、パソコンの目玉と視線が合った。
「え、えぇぇぇッッッ‼」
座っていた椅子から勢いよく落ち、僕が正座をしている上に乗ってきた。
体をブルブルと震わせて、驚いたような表情を浮かべている。
「なんでわたしのパソコンに変な目玉が映ってるの⁉」
僕は落ち着かせようとして、ふと、タケルの言葉を思い出す。
サイトの痕跡や、催眠アプリをインストールした機種から強制的にサイトへと侵入すると言っていた。
だが、催眠アプリをインストールした僕のスマホには変化がなく、先日確認した僕のパソコンにはそもそも履歴が残っていなかった。
「……鈴音、催眠アプリについて何か知っているな?」
その言葉に鈴音は肩をビクッとして、僕から視線を逸らす。これは何か確実に隠している。僕は鈴音の体を抱きかかえ、ベッドへと押し倒す。
鈴音は一瞬何をされたのか分からず、ポカンとしたようすで僕を見上げ、そして顔を朱色に染める。
「ちょ、ちょっと何をしてるの⁉」
「そうやって誤魔化す悪い子には……」
僕が下卑た笑みを浮かべながら、手を滑らかに動かす。普段であれば抵抗する鈴音だが、僕の雰囲気が普段とは違うことに気づいたのか、怯えた様子で僕を止めようとする。
「わ、わたしたちは兄妹だよ。いくらはちでもそれくらい分かってる――ひゃッ……!」
「よく話す口なのに、僕に隠しごとをするなんてお仕置きをしなきゃいけないね」
狼狽える鈴音の首筋を優しく撫でる。普段はツンケンとした態度の彼女だが、意外と初心で繊細なのだ。そして全身の感覚が敏感なのだ。
昔の人が情報を吐かせるために行っていた最も苦しい拷問。それは……くすぐりである。
「ほら、早く話さないと笑い死んじゃうぞ?」
「ひゃはははッ! も、もうやめてってば、にゃははははははッ!」
両手を触手のように動かして、鈴音の全身をくすぐる。時折甘い喘ぎ声を漏らすが、笑い声がそれをすぐにかき消す。
……三〇分後。ベッドの上で体をピクピクと痙攣しながら、隠していたことを話す鈴音。
僕が催眠アプリを使ったことで、違和感に気づき、催眠をやりかえしたようだ。
時折、記憶が曖昧になったり、変な考えを正しいと思ったのはそういうことだったのか……これである程度の納得はついた。
「それで、僕の催眠アプリをインストールしたサイトを調べようとして、僕のスマホからデータをコピーして保存していたと」
「別にわたしも催眠したかったわけじゃない、どうにかしてはちに一泡吹かせようと思って模索してただけだもん」
「……とりあえず、この目玉をどうにかしないとな」
僕は鈴音を起き上がらせて、共にパソコンの前へと移動する。
――催眠アプリを使いましたか? に対して、僕は、はい。をクリックする。
画面が切り替わる。目玉が消滅。背景が真っ黒になり、おどろおどろしいBGMが流れる。
コツコツとした足音と共に、人の形が浮き上がってくる。3Dモデルをッあっている為、Vチューバのように画面の中で動いていた。
――初メマシテ、我ガ催眠アプリノ管理人デス。
棒読みの機械音声。
西洋の騎士のような 鎧に、大剣と旗を持っている。美しい顔の造形に中性的な顔立ち。以前教科書で見たことのあるジャンヌダルクの特徴と一致していた。
「とりあえず、どうやったら催眠の命令が重複した場合を解除できるか聞いてみよう」
今の僕の状況を簡潔に箇条書きにまとめた文章をパソコンに打ち込む。ENTERを押すと、……。と読み込まれる。
「さすがに管理人だから、対応策くらいは分かってると思うんだけど」
――解決策ハアリマス。デスガソウ簡単ニ教エルノハ面倒デス。
……は? この管理人とやらは絶対に腹黒だ。お前が原因なのにお願いするのは、かなり癪だが致し方ない。
「え~と、とりあえず……どんな要望も受け付けます。っと」
ロード画面になり、しばらく時間が経過。その間に鈴音に僕の事情を説明した。
催眠アプリを入手して、緑仙先輩とクレアの件を話し終わった所でようやく返信が来た。
――ソレデハ命令ヲ三ツキイタラ教エテアゲヨウ。
今の僕はどんな命令でも身を投げ出して実行するから、よほどのことじゃなきゃ大丈夫だろう。
「はちってば、本当に女の子とホテルに行ったんだ……別になんとも思わないけど」
ボソリと呟く鈴音。画面の映像が乱れる。動いていた管理人が止まり、映像の狭間に砂嵐が流れる。
――……取リ合エズ裸ニナリ土下座シロ。




