その1
僕が美少女達の奴隷になる前――いつも通りの日常にて。
「ここで決めようじゃないか……おっぱいか、お尻か」
授業終わりの放課後。蒼冠学園の一年六組にて僕は机に腰をかけながら、親友のタケルに話しかけていた。
「蜂。残念だけどボクは断然胸のほうが好みだね。人類は赤ちゃんの時に誰もが母乳を飲んで成長してきたんだ。異論は認めないよ」
「タケル正気か? 犬や猿とかの本能で生きるような動物はお尻で挨拶とか、オスとして優れているのかをアピールしているんだぞ!」
「……でも、そんなこと言ってもけっきょくはどっちも好きなんでしょ?」
「それは勿論!」
「先週は、赤ちゃんプレイが出来そうな胸が好きだ! って言ってたし日替わり定食みたいに変わるのは相変わらず面白いね」
タケルは少し困惑したような笑顔を浮かべた。タケルは僕の親友で、男女ともに人気の中性的なイケメンである。
年齢は16歳、高校一年生。
茶髪のウルフカットに整えられたまつ毛。シミ一つないっぷにっとした肌。165㎝と男性でいえば小柄だが、足が長く小顔なためスタイルが良く見える。
「それで、なんで今日はそんなにお尻を推すのかな? また緑仙せんぱいのえ、えっちな夢でも見たのかな?」
タケルは頬を赤らめて、揶揄うように訊ねる。
「お? 緑仙先輩に関してはもうオカズに使いすぎて殿堂入りしちゃったからね。頭の片隅にはいつもいるんだよ」
「も、もう⁉ そんなことばっかり言うから、彼女の一人も出来ないんだよ」
「それは言わないでくれ……マジで一生出来ない気がして怖いんだから」
僕はため息をつき周囲を見渡す。男子達からは称賛と尊敬の籠った熱い視線を向けられているが、女子達からは親の仇をみるような敵意を向けられている。
「マジで気持ち悪い」「変態クソ野郎は死ねばいいのに」「タケル君が可哀そう」「タケル殿が攻めで、蜂殿が受けか……」など、一部を除いて悪印象を持たれている。
僕は頭を抱えながら、ボソリと呟く。
「仕方ないだろ、僕はこれでしか友達の作り方を知らないんだから」
「……だからこそ、ハチの猥談を気に入ったボクという親友がいるんだし落ち込まないの。もしも独り身で悲しかったら、ボクが彼女になってあげるからさ」
「タケルの場合、本当に彼女でもいいかなって思っちゃうから。冗談は勘弁してください」
僕は小学校の時にいじめられていた。同級生の理不尽な暴力、見て見ぬふりする教師。陰湿ないじめは中学校まで続いた。
しかし、思春期に突入した中学二年生の春。
僕が持つ豊富な性知識。そこから生み出される架空のエッチな経験談。
何気なく話した猥談(エッチな話)から、虐めっ子の心を掴み和解した。
「まあ、僕は美少女を見ているだけでも満足だし。他の奴らも悪い奴じゃないからな」
「でも、蜂は男子から神様扱いされているせいで、友達どころか滅多に人が近寄ってこないじゃん」
「中学校の時はこんなんじゃなかったのに……」
進学校の生徒。小学校から大学までのエスカレーター校なため、幼少期から英才教育を受けてきた生徒にとって、転入してきた僕という存在は異質だ。
そんな僕が語る猥談というのは、男子達にとっては新鮮で刺激的。女子達にとっては異物で気色悪い。
転入してきた初日に話したちょっとした下ネタ話が、あっという間に学園中に拡散された。
それ以後、男子達は僕を〈神〉として崇めて猥談に対して強い憧れを持つようになる。
「でも、気になった女子達の情報を仕入れるのは簡単になったし……ほら、緑仙先輩とか、身長から下着の色まで全部知ってる」
「ち、ちょっと気持ち悪い……」
緑仙先輩は、僕がこっそり制作している学園スケベボディランキングで、不動の一位に降臨する女子生徒だ。
花畑緑仙、年齢は17歳。
サラサラとした光沢のある黒髪、薄紅色の照りのある唇。グラビアモデルのような体系で、制服の上からも分かるおっぱいは周囲の生徒の視線を釘付けにしている。
身長は170㎝と女性では高めで、黒色のランジェリーを着けている。……これは他の人からの情報だ。
最大の特徴は、右目にドクロの眼帯をしている。時折、アニメや漫画のセリフを言っているのが噂になっている。しかも、運動が嫌いらしく体育の授業を全て見学している。
「でも、あのおっぱいはこの両手で掴んでみたいな」「チッ――」
僕が揉むような動作をすると、後ろから舌打ちが聞こえた。タケルは俺の後ろを見て、気まずそうな表情を浮かべる。
「く、くれあちゃん。お、おはよう」
「話しかけないで貰える? ワタシはこの煩悩野郎と関わる人間が嫌いなの」
俺は後ろを振り返り、不機嫌なことを隠そうともしないクレアと対峙する。
千刻クレア、年齢は16歳。
お尻まである長い金髪、日焼けした健康的な肉体。低身長で童顔、貧乳でありロリ体系だ。普段からギャルの口調で話しているが、周囲からは背伸びしていると思われており――
「ぐはぁ! な、なんで急に目潰しするんだよクレア!」
「……別に。ただ、癪に障ったから潰しただけよ」
「僕が毎日書いている美少女観察日記が、止まってしまうじゃないか!」
「……そんなゴミに時間を費やすなら、もう少し真面目になったら? 一生童貞クソ野郎!」
クレアは辛辣な言葉を吐き捨てて、教室を出ていった。
僕はタケルの方に振り返り、愚痴をこぼす。
「なんなんだ、あの生意気ギャルは……どうせ、アイツも経験がないくせに。そういえば、タケルって経験はあるのか?」
タケルは一瞬キョトンとしたような表情を浮かべ、すぐに頬をイチゴのように赤らめる。こんな初心な反応をするってことは、さすがに経験はな――
「実は小学六年生の頃に近所に住んでいた外国人のお姉さんとね……」
体をモジモジとさせながら、照れた様子で告げるタケルに僕は茫然とする。
「う、嘘だろ。おい、嘘だっていってくれよ」
沈黙するタケルに、僕は目に涙を浮かべながら、
「こ、この裏切り者め……童貞を卒業したことを隠して、僕を騙した借りは必ず返すからな。お、覚えとけ~!」
鞄を持って教室を飛び出した。