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その16

 

 クレアに一言謝罪(しゃざい)し、壊れたスマホを片手に僕は家へと帰った。催眠アプリの生存を確認しなければならない。


 自宅に帰りガミガミと言ってくる鈴音の小言(こごと)を聞き流し、自室へ飛び込む。


「前に見たときはパソコンからデータどころか、履歴(りれき)からも消えていたし……、どうにかして催眠アプリは確保しないと」


 パソコンにスマホを接続する。幸いにもスマホのデータは無事だった。予備の携帯(けいたい)にデータを移動する。機種変更(きしゅへんこう)した際に、返却せずに持っていた一つ前のスマホである。


「催眠アプリが無事でよかった。明日の学校(がっこう)も大丈夫そうだな……」




 翌日。学校に来た僕は、その言葉を撤回(てっかい)したくなった。催眠アプリがインストールされた携帯は持っている。


 だが、それもポケットから取り出せなければ意味がない。


「あの……そろそろ右手から話してもらえませんかね。緑仙先輩?」


 僕の右腕を緑仙先輩が抱きついている。下駄箱(げたばこ)で出会った際に、無言で近づいてきて……この現状である。


 緑仙先輩の方が身長は高いため、若干体が(かたむ)いているような気がする。胸の感触が心地よいのだが、周囲からの嫉妬の視線と相殺している。


 頬を(ふく)らませて、無言の抗議をする緑仙先輩。


 僕は逆の左側を見る。


「それで、なんでクレアも僕にしがみついてるの?」


 僕の左側にはクレアが腕を(から)ませていた。緑仙先輩が抱きついてる姿をみて……この状態である。


 身長は僕の方が高いため、木にしがみついているコアラのように思える。胸は当たらないが、肋骨や筋肉の弾力が伝わり中々に欲情(よくじょう)をそそる。


 顔を照れさせながら僕の方……ではなく、その奥にいる緑仙先輩に抗議(こうぎ)の視線を送っている。


「あ、あの。そろそろ教室に行かないと遅刻しそうな気が――」

「「……」」


 両側からの無言の圧力(あつりょく)。僕が歩き始めると一緒に動き始める。


 腕は離してもらえず、周囲の視線を集めながら教室へと向かう。嫉妬(しっと)欲望(よくぼう)が混ざった生徒達の反応を、見て見ぬふりする。


 教室へと着くと、一瞬の静寂(せいじゃく)が場を支配する。そして先日以上の狂乱とした叫び声が鳴り響く。


「クレアちゃんも堕とされてる⁉」「な、なんであそこでハーレムが出来てるんだ……」「タケル殿が寝取られているのは、中々に筆が進む」など、一部を除いた女子生徒からは絶望と拒絶の反応。


 僕を(ゴッド)と呼んでいた男子生徒も、現実で美少女達に挟まれている状況を見て、驚きと羨望に混じったような声を荒げている。


 タケルはにやにやと薄ら笑いをうかべて、僕の机に座っていた。


 絶対に間違っている解釈(かいしゃく)をしているんだろうな。タケルには話しておいたほうが得策だろう。


 自席へ向かいタケルの前に来ると、僕は懇願(こんがん)するように頼み込む。


「この左右にいる二人をどうにかしてくれ……タケル!」

「え~、そういっておきながら心の中では喜んでいるくせに」


 タケルは悪戯っ子のように口角(こうかく)を上げて、僕のお腹をつんつんと指先で触ってくる。

 そして僕の左右にいる二人に視線をチラチラと向けて、


「それでお隣にいる緑仙先輩とくれあちゃんとは、どんな関係になったのかな?」


 タケルが興味津々(きょうみしんしん)になる理由は分かる。


 高嶺(たかね)(はな)でいつも妄想の中の話をしていた緑仙先輩。

 他の人以上に僕のことを敵視(てきし)して、毒舌のクレア。


 そんな二人が僕の両脇。傍から見たら僕を取り合っているように見えるのだ。


 緑仙先輩は昨日のことに対して少なからず不満を持っており、それに対してクレアは緑仙先輩と昔のように元通りになりたいと思っている。


 各々の心情(しんじょう)は異なるが、三角関係には変わりがない。


 どのようにして説明しようかと悩んでいると、タケルが揺さぶるように聞いてくる。


 緑仙先輩は頬に手を添えて表情を緩めさせる。前に暴走したことが効いており、無言で照れるだけだ。


 よ、よかった。さすがに緑仙先輩も学習をするんだな。

 僕が感心した所で、クレアが疑問を浮かべたようにタケルに(たず)ねる。


「ワタシとこいつは裸で抱き合ったなかだけどさ……」


 教室中に男子生徒達の叫び声が響き渡る。それは廊下を抜けて学園中に伝染(でんせん)するように一瞬にして騒ぎになる。


「ワタシは十がタケルと付き合っていると言ってたけど、本当なの?」


 教室中の女子生徒達が狂ったように声を荒げる。甲高(かんだか)く耳をつんざくような悲鳴が窓ガラスを揺らす。


 僕は無表情になって体の力が抜ける。この後の僕の日常が、確実に色濃くドロドロしたものになるだろう。


 タケルは一瞬固まった後に、


「も、もう十ったら、そんなこと言っていたなんて……別にナシとはいっていないけどね」


 呆けるような表情を浮かべて、自分の席へと戻っていく。


 HRのチャイムがなり、僕の両脇(りょうわき)にいた二人はすんなり離れていった。担任の教師が教室へと入ってきて、僕は自席へと座る。


 午前中の授業が終わるまで、僕は周囲の人間に見られ続けた。

 こちらをチラチラと見ながら面白がるタケル。


 いや、お前のせいで事態(じたい)がややこしくなったんだろうがァっ‼


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