その15
意識が徐々にハッキリしてくる。脳が覚醒して視界が戻ってきた所で違和感に気づく。
なぜ目の前が真っ暗なんだ?
手足は恐らく拘束されているようで、ジタバタと体を動かすが自由に動けない。
何かを被らされている感覚に、僕は声を荒げる。
「誰かそこにいないのか?」
「やっと目覚めたのね、まあ、何も見えないと思うけど」
この声は……クレア⁉ 僕を誘拐して身代金でも要求するのか、どう考えても誘拐されるのはそっちだろ――
「ゲボぉッ‼」
「全部声にだしてるから、聞こえているわよ」
首に衝撃が走り、喉仏が破裂しそうな感覚。思わず嘔吐を漏らしてしまう。
僕は体を豪快に暴れさせながら、どうにかして逃げ出そうと動かす。
視界を塞いでいた何かが、ズルズルとずれていき暗闇から解放される。
白い明かりで目を照らされた。眉をしかめながら徐々に周囲の状況を確認する。
見覚えのある天井だった。大人のムードを彷彿とさせる桃色の照明。体の底から温めるような柑橘系の香り。
僕の手足はベッドに手錠で繋がれており、上半身は裸であった。
「ここは、緑仙先輩と来たホテル……」
前よりも部屋のグレードは上がっており、ベッドのサイズは大きく部屋も広くなっていた。
基本的に同じ店のホテルでは、匂いや雰囲気は統一されている。
そして違うのは部屋だけではない。前は緑仙先輩だが――
「……なんでクレアとホテルにいるんだ?」
僕を跨ぐようにして、クレアが仁王立ちしていた。高揚した調子で、僕と視線が合う。
「アンタは緑仙と体を重ねた……つまり、私がアンタとヤれば緑仙と交わったと言っても過言ではない!」
「それは違う気がするんだが……って、とりあえず僕の話を聞いてくれってば‼」
なし崩し的に経験を済ますのは、どちらかというと大歓迎だ。だが後に緑仙先輩と致していないことがバレたら……病院送りになるのは確実だ。
ただでさえ、メンヘラ依存の中二病となった緑仙先輩からの猛アプローチを必死に耐えているんだ。
何としても阻止して、僕の将来を守らなければ。
「な、なあ。僕ってばそんなひどいことをする奴じゃないだろ?」
クレアは着ているワイシャツのボタンを外しはじめる。
「それに僕が緑仙先輩のことをオカズにしてるからといって、現実で手を出すほど勇気があると思うか?」
クレアのワイシャツがベッドに落ちる。黒色のスポーツブラが、成長途中の胸を包んでいた。ほどよく筋肉がついており、ピチピチな肉体に僕は無意識的に唾を飲み込む。
「……ぼ、僕はタケルと付き合っているんだ! だから異性にそういうことはやらないんだ」と、咄嗟に思いついた嘘を、僕は歯の奥を食いしばりながら叫ぶ。
後でタケルには謝っておこう。
クレアは動きを一瞬止めたが、僕の盛り上がっている下腹部を一瞥して、今度はスカートを脱ぎ始める。
可愛らしい少女が急に眼目の前で脱ぎだしたんだ。僕の理性は誤魔化せても、本能は嘘をつけない。
クレアのスカートが床に落ちる。下着姿になり恥ずかしそうな表情を浮かべるが、隠すことは無かった。
褐色肌に黒の下着。健康的な肉体が、僕の視線から離れない。
照明がクレアの肢体を妖艶に輝かせて、僕のズボンをゆっくりと下ろしていく。
抵抗する気力も起きず、されるままに僕は全裸になった。
僕の息子に、クレアは視線をチラチラと向ける。
徐々に近づいていき――寸前で止まり、一粒の雫を流す。
「やっぱり嫌だァァァー! 緑仙じゃないと嫌だァァァー‼」
ベッドにぺたんと尻餅をつき、号泣し始める。
僕はギリギリで粘ったことに対する安堵と、大人の卒業式が無くなった後悔が混ざりあい複雑な心境だった。
とりあえず僕がクレアに話しかけた言葉は
「この拘束している手錠、外してくれない……?」
号泣するロリ娘と、手錠で拘束された半裸男。傍から見るとカオスな状況であった……
……しばらくするとクレアが泣き止んだ。僕の拘束を解放してもらい、二人は急いで服を着る。落ち着いたところで僕が話しかける。
「ようやくまともに話を聞いてもらえるかな?」
聞く耳持たずだったクレアは、無表情のままコクリと頷く。
僕は息を吐き出して、催眠アプリを入手したところから事細かに語りだす。
疑心暗鬼だった彼女だが、徐々に瞳にハイライトが戻ってくる。
どうせ催眠アプリについては、秘密を共有する人がいたほうが安心できるしな。
一語一句真実だけを吐き続けて、
「……以上だ。他に質問はあるかい?」
「緑仙でそういった妄想するのは、普通に気持ち悪くて許せないんだけど……」
全てを話した結果、僕の性癖から趣味嗜好まで語ってしまった。緑仙先輩にも後で伝えておこう。
「でも緑仙を救ってくれたことには感謝するわ、あ、ありがとう」
クレアは髪を触りながら、優しく微笑む。普段と違うデレた姿に、心を鷲掴みされる。
こ、この思いは催眠アプリを使って消し去らねば……って、あれスマホがない。
「クレア? そういえば僕のスマホってどこにあるの」
無言でベッドの端を指さすクレア。
そこには画面に亀裂が入り、半分以上破損したスマホが置いてあった。




