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その11

 

 学校に着き、教室に向かうとなぜか人だかりができていた。廊下にまで(あふ)れんばかりの生徒がいる。


「……なんだこの集団は、外国人のグラビアアイドルが水着姿(みずぎすがた)で引っ越してきたのか?」


 突然の出来事に困惑していると、教室から押し出されるようにして、タケルがヒョコっと現れる。


「あのさ! ボクたちの教室に緑仙(みせん)先輩いるんだけどさ、昨日なにかした?」


 不安と驚きが混ざったような声色で、僕に(たず)ねてきた。


 緑仙先輩の催眠は削除していた……いや、本人に直接命令はしていないな⁉

 (たしか)か僕と緑仙先輩が行ったホテルの受付には、催眠アプリで記憶を削除した。


 だが、直接に緑仙先輩の記憶を削除するようには命令していない。


「ねぇねぇ、どうしたの? 怒らせることしちゃったの、だったらボクも一緒に(あやま)るからさ⁉」


 すまんなタケル……心あたりしかないから、どうしようと思い悩んでいただけなんだ。


 喉を震わせて、乾いた(くちびる)を開く。


「な、なんでもないさ。す、すこしだけ、せ、世話になっただけで……」

「その狼狽(うろた)えようは、絶対になにかやらかしたよね⁉」


 タケルが動揺したような表情でツッコミをしてくる。僕は深呼吸をして心を落ち着かせる。

 大丈夫だ。ポケットにはスマホが入っている。


 教室に近づこうとすると、先ほどまであった人だかりが道を作るようにした、僕を避けていく。


 僕の服を(つか)んでいるタケルが、


「モーゼが海を割っているみたいに、道が出来ていくね」


 好機(こうき)畏怖(いふ)が混ざったような周囲の視線が、僕に向けられている。


 教室へと入ると、僕の席に緑仙先輩が座っていた。

 ……やっぱりあのことを怒っているのだろうか。


「あの……緑仙先輩? いったい何の用ですか?」


 ゆっくりと近づきながら、いつも通りの口調で話す。

 今の僕は上手く笑えているだろうか?


 全身が重いと感じるなか、手を振って挨拶をしたところで、


「……ハチくん。ありがとう……」


 緑仙先輩の瞳から一筋の涙が(こぼ)れて――思いきり僕に抱き着いてきた。

 周囲から阿鼻叫喚(あびきょうかん)の嵐。


「あの、な、なんですか急に⁉」


 内心では確実に催眠アプリの件だと確信しているが、面に出さずに一生懸命に驚いたような表情を浮かべる。


 僕のスーパーミラクル天才的な演技(自称)に、緑仙先輩は離れることなく、より抱く力を強めた。


 初めて抱きしめられた時はハグ程度だったため呼吸はできていた。

 だが今の状態は、感極まっているのか、顔の全てがおっぱいで包まれるくらい力強く抱擁(ほうよう)をされている。


 第三者から見れば羨ましい光景なのだろうが、受けている側からすると……


「(あの! もう少し力を緩めてください。おっぱいで窒息死(ちっそくし)とか嫌だ……いや、それはそれでアリだな)」


 しばらくすると、緑仙先輩が離れた。周囲を見渡して視線を下に向けている。

 周囲の視線が僕たちに集まっているのに気づいて、恥ずかしがっているのだろう。


 僕はスマホを手に取り、周囲にも聞こえるような声で話す。


「緑仙先輩ってば! 罰ゲームかなんかで僕に抱きしめてくるなんて!」


 周囲のざわめきが多少小さくなってくる。


「もう! こんなことされたら僕も本気になっちゃいますよ~!」


 数人ほど笑う声が聞こえて、騒ぎが段々と落ち着いてくる。

 察してくれ緑仙先輩。このままいけば、多少の騒ぎで済むんだ。


 僕の熱意の籠った視線。この場を収めて欲しいという心境。

 緑仙先輩はコクリと頷いて――僕は一安心――膝をついた。


「私はハチくんに人生を救われた。だからハチくんと添い遂げて、一生涯かけて恩を返していきたいの」


 場が静まり、先ほど以上の盛り上がりを見せた。

 ほとんどが叫び声で、祝福や野次の声は少数だったが。


 僕は急いで緑仙先輩に近づいて、こっそりと耳打ちする。


「(これ以上この場で話すと、より面倒なことになります。後で連絡するので一旦、緑仙先輩は自分のクラスに戻ってください)」


 周囲から聞こえないよう、早口の小声で話すと、緑仙先輩は体をゾクッと震わせる。そして耳まで真っ赤にした状態で立ち上がると、教室から出ていった。


 とりあえず窮地は免れたかな……って、そんなわけないよな。


「一体どういうこと!」「緑仙先輩になにしたのよ!」「……タケル殿が可哀そう」

 など、生徒達から質問攻めにあう。一つずつを誤魔化しながらなんとか答える。


 結果的には、僕が中二病であり緑仙先輩と一緒にごっこ遊びをしているヤバい奴になった。


 他の人よりも興味津々なタケルにボロが出そうになるが、HRのチャイムを理由に強引(ごういん)に話を終わらせる。


 いつも通りの授業が始まる中で、僕はこっそりとスマホを取り出す。


『蜂:今日の放課後、前と同じ場所に来てください』

『緑仙:はいは~い。分かりましたよっと。とりあえずハチくんの趣味嗜好を根掘り葉掘り聞くつもりだから、よ、ろ、し、く、ね♡』


 僕は無言でスマホの電源を切る。教師が長々と文字を書いている黒板に目を向けると……クレアと目が合った。


 いつも以上に鋭い目つきで、僕のことを(にら)みつけている。僕が首を傾げると、クレアは顔を歪ませて前を向いた。



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