ヴァ―ナ
「おおこれはこれは、俺の魔法が消えたということはヴァ―ナが来たということか?」
俺の周りの植物と人間は跡形も無く消え去ってしまった。
血生臭い臭いと黒焦げた地面から白い煙が出ていた。
周りに残ってるのは冒険者組合と宿屋、あと壁際に残ってる民家とそこら辺の商店とかか。
「おいヴァ―ナ、お前が来るのが遅かったから何人か死んじゃったじゃないか!」
「ぜぇぜぇ、ハァハァ......まったくあんたときたら何やってくれてんじゃボケェ!!」
息を荒くたて、膝に手をつきながら疲れ果てている女が組合の屋根に突然現れた。
「あんたねぇ、何人かちょっとは別にいいけど街もろともはやめてくんないかなぁ?」
「おいおい、相変わらずひどいことを言うねぇ。これが現魔王ヴァ―ナさんだぞぉ、おまえら!」
ヴァ―ナの発言により何人かの冒険者や市民がざわついた。
「あれってヴァ―ナ様よね...?」
「あ、あぁ俺たちを助けに来てくれたんだよな?」
「でも今何人かちょっとって...。」
あんだけ大声で喋ってれば聞こえてほしくないとこも聞こえちゃうなぁ。
「おいヴァ―ナ、お前の市民に向けて何か一言いってあげろよ。」
「はぁ?こんな雑魚でガキで甘々な連中に気を使うなんて時間の無駄ね。」
見た目はいいが人として、民から信頼される人物として現魔王としていろいろ最悪だ。
「で、この街になんてことしてくれようとしたのよ。」
「俺は目的を果たしにここへ来ただけだ。」
「目的ってあれのこと?やめなさいよ、あれってめんどくさいでしょ?」
「いつかはやることなんだしいいじゃないか。」
「もうちょっと待って頂戴もっとなんというかこう崇められたいのよ私。」
「さすがに引くぞ俺でも。んで、それを破壊しようとしてる俺をどうするんだ?」
「もちろんぶちのめす。何回も何十回でも何百回でも永遠に壊してやる!」
「えーじゃぁ、俺がいうのもあれなんだけどえーとそこらへんに...お、いたいた。
おーいシエル!元魔王様からのお願いだぞぉ!さっさとできるだけ遠くに逃げろよ!」
「おま、えぇ、門で少し喋っただけだぞ、あいつ猫かぶってたのか?あんな大声だすやつじゃなかっただろう。」
「ぐだぐだ言うな!この街は今から血の海になるぞ!つべこべ言わず逃げるんだ。逃げることを強く推奨するぞ!!!」
「そうだ!そうだ!さっさと地面を這ってる民たちよどっか行けえええええ!!!」
「これはひどい魔王だな...。」
納得してない顔とどういう状況か分かってなさそうな複雑な表情で市民たちはバタバタと逃げていった。
その中には空ろな目をしたルッキーもいた。
「む。おまえあの小娘に精神操作かけているな?そんなに気に入ったのか?」
「いやぁ、町に来た時に助けてくれた恩もあることだし少しぐらいはいいじゃないか。」
「あんたもやることはやっているじゃないの。」
「でもこれでお前の駒はへったんだぞ、いいのか?」
「あんなんいつでも増やせるわ!よし邪魔なやつもいなくなったことだし戦争始めますか!!行きますゴミくず先輩!」
「ゴミくず先輩...一応手取り足取り教えてあげたんだがなぁ...。」
「行きます!」
俺と一対一の時はヴァ―ナはまじめモードに変わる。
かわいいやつといえばそうなんだが使ってくる魔法は全部禁忌レベルだ。
禁忌の中でももっとも恐れられている魔法も存在するがまさかそんなものは撃ってこないだろうと信じている。
信じていたが杞憂に終わり、とんでもないのをさっそく撃ってきた。
「死ね!!くそ野郎!【チュペ】」
「嫌だね。【ドズ】」
ヴァ―ナはチュペという魔法を撃ってきた。
チュペはかわいい名前をしているが実際は毒素をあたりにばらまきその毒素から連続的に雷撃を放ってくる二重魔法だ。
俺のドズは俺の下に広範囲に及ぶ足場を生み出しそしてその下に解呪の霧を生み出す魔法だ。
「相殺できるとでも?火球飛んでけ!」
「水壁俺を包め!」
ヴァ―ナから飛んできた赤くて黄色の線が入ったいわゆるファイヤーボールという下級魔法が俺めがけて突っ込んできた。
ジュッと蒸発するような音と共に閃光で周りが包まれた。
「よし!これは避けられないでしょ。なんたって私が作ったオリジナルだもん。」
蒸発した火は蒸気に姿を変え、その蒸気と閃光が組み合わさり、爆発を起こした。
「どうよ!死んでて聞こえないかもしれないけど、そうね、特殊条件下で起きる特殊起動魔法とでも呼ぼうかしら。」
「いい名前じゃないかヴァ―ナ。」
「まぁそうよね。これで死んでたら勝負なんてしてないし。
どんな手を使ったの?」
「オリジナルにはオリジナルだろ?」
「まーた魔法生み出したの?魔法馬鹿!」
「今この瞬間で作ったんだ。」
「うわー、ドン引きするわ。」
水壁だけだと爆発で吹き飛んでしまうと思ったから水壁の中に特殊な壁を付け足した。
「名前は付けられないな。俺しか使えないし。」
「あーはいはい。でも元から私しか使えない魔法ならあんただって分からないでしょ?」
「お、またなにか新しい魔法でも作ったのか。ぜひ見せてくれよ。」
「血の海が見えるとかほざいていたわね!そんなに見たいなら見せてやるわ!!
『地中に埋まりし 古来の者よ 我が血となり肉となり ここに顕現せよ』」
あれは記述式魔法。
使おうと思えばだれでも使えるが自分なりの記述を作り出すことはとんでもなく難しい。
既存の魔法よりも節が長く魔力も相当な量を使うとみた。
「来い!俺にお前の全力を見せろ!」
空中から突如赤い雲とやや黒ずんだ球体が現れた。
そしてその球体が割れ、中から錆のような臭いの真っ赤な液体が溢れて雲から黒い雨粒が降り注いできた。
俺は頭から浴びるように液体を受け止めた。
その瞬間心臓が止まるような妙な動悸がして俺は思わず足場に膝をついた。
何が起こったのかもわからないままさらに液体を浴び全身から血が抜かれるような感覚に陥った。
「まさに血の海!どうよ全身から血が抜かれるのは?」
「がぼぼぼぼ!うぅうううおぼぼぼぼ!!」
「なんていってるか聞こえないよ!もっとはっきり喋って!」
「うびびびびび、ぷっはぁ......溺れたかとおもったぜ、まったく。」
「おっかしいわねぇ、効果はいつ出てくるのかしら。」
「ん?さっき心臓が痛かったぞ?」
「それで...?どんな感じ?」
「どんな感じって言われてもなぁ.........ぅがぁ、っはぁ。」
「お、あんたが吐血してるの初めて見た。」
急に呼吸ができなくなって苦しくて咳き込んだら吐血してしまった。
吐血したのは初めてかもしれん。こういう感じなのか?
「この魔法はねざっくり言うと、全身の血を液体とすり替えておまけに心臓と脳に呪いを付与しながら、皮膚を溶かし、最終的に錆てぼろぼろになって崩れ落ちる、そんな感じかな?」
「相変わらず内容がえげつないなぁ...ごぼぉっ、ふうふぅ...いててて。」
「いてててですんでるあなた相当おかしいわよ。さすが化け物ねあんた。」
「んで、こっからどうするんだ?」
「そうねぇこの液体は永遠に沸き続けるからそのうち世界中に広がっちゃうのよね。」
「ちなみに止め方は?」
「対象が滅ぶか私が滅ぶかのどっちかかな?」
「うーんどっちも難しいなぁ。」
「そうね、それはちょっとやだなぁ。」
「俺を殺すっていう話は?」
「そんなこと言ったかなぁ、覚えてないしちょうどこの魔法が研究し終えたからラッキーと思ってここに来ただけだしなぁ。」
「えぇ、というか目的俺じゃなくておまえが果たしちゃってるじゃん。」
「確かに。まぁそれはいいとして、これどうしよっかなぁ。」
「俺以外のやつがこの液体に触れたらどうなるんだ?」
「え?死ぬよ。」
「だよなぁ。じゃあ、消滅させるか。」
「消滅はまだ教えてもらってないから先輩お願いね?」
「ここぞというばかりに...はぁ、逃げてる人に当たっちゃったらまずいしなぁ、やるかぁ。」
「ぷかぷか浮かんで無いでさっさと浮きなさいよ。」
「それもそうだな。」
長話を終えたところで今もなお拡大し続けているこの液体をどう止めるかを考えないとな。