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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

ベッドサイド

作者: 壱原 一

隣は駐車場でした。レースのカーテンを開けると、開放禁止の窓越しにコインパーキングを見下ろせました。


絨毯は濃い灰色だったと思います。壁紙は緑色とベージュのストライプです。壁添いに細長いデスクがあって、壁面に大きな鏡が据え付けられていました。


デスクの反対側の角に、清潔なベッドがありました。マットレスの下にシーツが折り込まれていて、ふかふかの枕が乗った、皺ひとつなく整えられたベッドでした。


ヘッドボード側の壁に、絵が掛けられていました。


抽象画と言うんでしょうか。何が描いてあるのか、具体的に判然としない絵です。


どうしてホテルの客室にこんな絵を飾るんだろうと訝しく感じました。


いいえ。そういう意味ではありません。絵の巧拙や価値は分かりません。


そうではなくて、部屋に入って、その絵が目に付いた時、なんだか、どうしてと感じたと言うことです。


すみません。


翌朝はやくにチェックアウトする予定でした。だから直ぐにシャワーを浴びて、寝る準備をしました。


さっぱりしたあと綺麗なベッドに飛び込むのは、とても気持ちが良かったです。シーツを引っ張り出すのが少し手間でした。でも、贅沢で素敵な手間でした。


ぐっすり眠って、明け方に気が付きました。


ベッドサイドの壁側に、俯せで寝ていました。ベッドと壁の隙間に、誰かが寝ていました。


仰向けに寝て、瞬きしていました。少し笑っているようでした。


不思議でした。その人は、ベッドと壁の隙間に挟まって寝ていました。


狭い隙間です。縦長で、細く、山折りに畳まれていました。


身体の両端が、ベッドと壁に引っ張られていました。引っ張られて、顔が伸びきっていました。


目蓋や頬が引っ張られて、内側が丸見えになるくらい伸びきっていました。


息をしていたと思います。歯磨き粉のにおいがしました。


不思議でした。こんなに狭い隙間に人が。どうやって。いつから。


とても不思議で、どうしてと思って見ていました。


見ていると、その人の口が動いて、口が動く小さい音がしました。何か言うつもりだと思って、何を言うのだろうと耳を澄ませました。


その人は、最初の文字が「い」か「え」で始まる言葉を言おうとしていたと思います。


聞き取ろうとしましたが、車のドアが閉まる音がしました。音は、開放禁止の窓から見下ろせるコインパーキングから聞こえました。


車のドアが閉まる音に続いて、大きな話し声もしました。だから、ベッドと壁の隙間に寝ている人の言うことを、聞き取れませんでした。


とても残念に思って、早朝にチェックアウトした後も、一日中、ずっと、気になっていました。


今は大丈夫です。あれをどう思いますか。


いいえ。それではなくあの絵です。どうしてあんな絵を飾るんだろうと訝しく感じませんか。良く見て下さい。どうですか。


いいえ。良いんです。やっぱりなんでもありません。そうですね。ありふれた絵です。


すみません。横になって良いですか。


大丈夫です。具合は悪くありません。


壁際が落ち着くんです。


俯せに寝るのが癖なんです。


この部屋はとても静かですね。



終.

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