第一話
幼いころは家族四人で幸せだった。
笑顔の絶えない家庭、充実した日々を送っていた。
転機が訪れたのは俺が十二歳の時だ。
両親が事故で亡くなったと、突然の訃報が届いた。
幼かった俺と妹は悲しみに暮れ、心が癒えることはなかった。
だが、家に引きこもっている余裕はなかった。
両親が亡くなってから間もなく妹が病に伏せる。
十二歳の俺にはどうすることもできずに、ただただ慌てふためくだけだった。
それから俺は学校に通うことを諦めた。
妹の治療費を稼ぐために探索師になる道を選んだ。
だが、実績も経験も皆無な俺には残酷な世界でもあった。
探索師としてやっていくにはあまりにも過酷な道のりでもあった。
パーティを組んでくれる同業者は一人もいない。
モンスターとの戦い方、モンスターの解体の仕方など学ぶことは多岐にわたる。
俺の場合、すべてが手探りでやっていく必要があった。
講習会を受ける金もなければ、指導してくれる師もいない。
結果として俺は一人で探索するしかなく、孤独の道を歩んでいた。
妹を救いたい俺は、地べたを這いつくばってでも諦める訳にはいかなかった。
気付けば二年という時が過ぎ、あっという間に十四歳になっていた。
毎日ダンジョンに潜っては浅瀬でモンスターを狩る日々。
死と隣り合わせの日々を送っていた。
それでも貯金は一向に貯まらなかった。
妹の容態は徐々に悪化していき、ついに妹は入院せざるを得ない状況に陥る。
時間がない。それだけははっきりしていた。
普段ならリスクを回避するため、ダンジョンの浅瀬でしか狩りを行わなかった。
だが、その日の俺はどうかしていた。妹までも失うかもしれない。
その思いで一杯になり、まともな思考ができないままダンジョンの奥に進んでしまう。それが誤りだと気付いたころには全てが手遅れだった。
武器はナイフが二つ、片手で持てる木製の盾を一つ装備していた。
防具を買える余裕はなく、動きやすいジャージ姿の俺は辺りを警戒しながら進む。
洞窟のような道のりを進んでいくと、モンスターに出くわす。
「骸骨……?」
薄暗い洞窟の中で、俺は目を細める。
骸骨が動くたびにカタカタと骨が擦れる音が鳴る。
右手には両刃の剣を持ち、左手には金属製の盾を装備していた。
すでに俺のことを敵と認識しているのか、まっすぐに突き進んできた。
眼窩に収まる真っ赤な瞳が怪しく輝き、俺を捉えて離さない。
俺はすぐに警戒態勢に入る。
この二年間はスライムやゴブリンといったモンスターばかりを相手にしていた。
骸骨タイプのモンスターとは初めて出会う。敵の力量すらも把握できなかった。
それでも臆していられない。すべては妹のため。