決戦!ドラキュラ伯爵!!
「ぬしゃ、よーもやってくれたの! 地方から選りすぐりの女たちを連れて来たんじゃぞ!」
額に青筋浮かべたドラキュラ伯爵が、ルナに怒鳴りつける。予定していなかった展開に、驚いているようだった。
「じゃったら、儂を花嫁にしたらどないかの?」
「誰がおんしのごた女を花嫁に迎入れっか!」
ドラキュラ伯爵は、ルナのボケに犬歯を剥いて突っ込みを入れる。
「伯爵殿、とっとと終わらせましょうかいの。夜明けも近いですけ」
「ぐぐ…っ。憎たらしい小娘じゃ…」
拳を力一杯握り締め歯軋りするドラキュラ伯爵。らしくない事に、伯爵は雄叫びをあげてマントを広げて突進してきた。ルナを目掛けて一直線に。猛スピードで迫り来るドラキュラ伯爵から逃げようともせずに、シスター・ルナが腕を背に回して構える。伯爵は牙と爪を剥いて飛翔を加速した。目標は、ルナの肉を抉り首を跳ねる事。
そして、お互いの間隔が三〇センチと狭まった時。ルナは脚を縦に広げて身を落とし、背中から三日月の煌めきと共にサーベルを引き抜いた! その瞬間、ドラキュラ伯爵の首から足先にかけて、赤い筋が斜めに走る。勢い余って、そのまま暖炉へと墜落した。黒ずんだ煉瓦は砕けて飛び散り、白い壁には太くて黒い亀裂が縦に走り、それは天井までも達した。
ルナは床に広げた長い両脚を折り畳んで立ち上がると、サーベルを鞘に収めて暖炉に振り返る。「お間抜けじゃのう」
実に冷たいひと言。
口を広げられた暖炉には、ドラキュラ伯爵の尻が顔を見せていたが、ここでようやくというか亀裂に引っかかっていたマントの端が外れて、フワリと彼の尻を恥ずかしげに隠した。そんな光景を見ていたルナが、更に追い討ちをかける。
「ぷぷ…っ! 頭隠して尻隠さず、じゃな…。伯爵殿…ぷぷっ」
ルナは、口元を指先で品良く隠したものの、目元は弓なりに歪んで露骨に侮蔑な笑顔を見せていた。窓に目をやり景色を見たら、暗闇にほんのりと色味と光りとが差し込んで、ダークグレーの雲の群れに白い稜線を描き出して始めていたのだ。
何やら感慨に浸り始めたルナ。
ーほんに《本当に》夜明けが近いのう…。このまま灰になるのも、悪くないかもしれんね。伯爵殿……。ー―
「こんまま灰になってたまるかいっ!」
ドラキュラ伯爵、暖炉の瓦礫を押し退けて復活!
「おおっ、立ちおった! まだまだ元気やのっ、伯爵殿!」
「小娘にケツ晒したまんま灰になってたまるかいっ! 阿呆っ!」
ドラキュラ伯爵が青筋浮かべて、驚くルナに怒鳴りつける。肩を大きく動かして息を切らしている伯爵。
「な…なんなら、この屈辱感は…? ぬしゃ、ほんにヘルシング卿の弟子かいの…?」
「おお。間違いなく儂はヘルシング卿の愛弟子じゃけぇ」
ルナが自信たっぷりに胸を張って断言した。ドラキュラ伯爵は、無言でマントの埃を叩き落として構え直した。微笑を見せたルナは絨毯床を力一杯蹴飛ばして、ドラキュラ伯爵へと真っ直ぐ突っ込んでゆく。懐に入った直後に、サーベルを引き抜いて袈裟を狙って振り下ろす。瞬間、ルナの目の前で無数の蝙蝠が飛び散って背後に集まっていった。それはもう、蜘蛛の子を散らす勢いだったらしく、直視していたルナの体中にゾワゾワと鳥肌が立ち駆け巡る。生理的な嫌悪感も同時に覚えて、何だか躰が痒い。
無数の蝙蝠が集まってゆき、やがて黒い影は人型を形成してブロンドのドラキュラ伯爵を再生させたのだ。黒いベルベットのマントを翻して、ルナを目掛けて襲いかかってゆく。
ーふはは! 隙ありじゃな、小娘っ!ー―
迫り来る背後の殺気に感づいて、ルナが踵を返す。
ドラキュラ伯爵の爪が走る。
ルナ、脚を絡ませて転けた。
そして、伯爵の爪は虚しく空気を抉り取った。着地して振り返り、ルナの頭を狙って爪を振り上げたその時だった。
「いっ…痛あぁ~~い…」
スカートを太股まで露わになるほど捲り上げて、横座りのルナが色っぽく声を出したのだ。よく見ると、白い膝小僧からは鮮やかな鮮血を流していた。血の香りが、ドラキュラ伯爵の高い鼻を刺激して通過する。
伯爵は誘惑と葛藤し始めた。
同時に、動きが止まる。
これは、不味い事態。
「隙ありじゃ、伯爵殿っ」
ルナが語尾にハートを付けて、オマケに可愛い笑顔でドラキュラ伯爵の心臓に杭を打ち込んだ。伯爵の躰は忽ち大理石の色へと変わってゆき、そして、呆気なく灰となって崩れ落ちた。
やがて、窓の隙間からキラキラと朝陽が差し込んでくる。そして、ルナは腕を組んで窓を見詰めながら、復讐を終えた味を噛み締めたいたのだ。
『シスター・ドラゴン!』完結
このような拙作を読んでいただきまして、ありがとうございました。やりたい放題もいいとこですね。でも、お姉さんキャラは大好きなんです。




