わたしの心の中の彦星
この詩は、武 頼庵さま主催「恋の詩」企画、参加作品です。
あなたから さよならも
別れの言葉も なかったから
今もわたしの心は対岸に
一年に一度だけ わずかに輝る
捨てきれない 青春の星屑
あなたと知り合ったのは
大学のサークル
少し強面だけど気さくで
人と話すのが大好き
少し自信家だけどナイーブで
何事も一生懸命
そんなあなたが印象的で
あなたという存在が
いつの頃からか
わたしの日常に 心の中に
入り込んできた
そして ごく自然に
あなたはわたしの
唯一の男友だちになった
わたしたちは気がつけば
サークル活動以外でも
一緒にいたり
メッセージを送り合ったり
何時間も話し込んだりした
あなたは男女の間に
友情は成り立たないと言った
それはあたっていて
わたしは あなたに
友情ではなく
愛情を抱くようになった
あなたは?
あなたの気持ちが
わからないまま
大学を卒業した
社会人になって
遠距離になって
あまり会えなくなっても
何も変わらず
メッセージを送り合ったり
電話で何時間も話し込んだりしていた
まるで物語のように
瞬く間に年月が過ぎた
二十代後半になり
あなたの気持ちが
どうしても知りたくなって
やっと決意した
好き……
たった二文字の言葉
一緒に過ごした歳月に
今さらそんな直接的な単語は
当てはまらないと思った
だから
わたしたちって付き合ってるの?
そう聞いてみた
電話の向こうのあなたは
曖昧な返事だったけど
すぐのゴールデンウィークに
高速道路で六時間かけて
わたしに会いに来てくれた
わたしは自分でも驚くほど
嬉しくて幸せな気持ちで
胸が一杯になった
そしてお盆休み
あなたの帰省中は
ふたりで海や山にドライブして
お祭りや映画に出かけた
プラネタリウムで並んで
織姫と彦星の話をききながら
満天の星空に広がる
幻想的な天の川も眺めた
だから好きと お互い言わなくても
わたしたちは 想いあっていると
そう信じていた
手すら繋がなくても
だけど それは
わたしの勝手な思い込みで
わたしにとってはデートでも
あなたにとっては誠意だった
好きという気持ちに
舞い上がっていたのは
わたしだけで
あなたの気持ちは
最初から 地に着いたまま
あなたとの次の約束を
待つ間は 期待に心躍らせ
空想を広げて
都合よく美化して
自分の想いを
心ゆくまで膨らませた
けれど
一ヶ月 二ヶ月経っても
次の約束は未定のまま
あなたからのメッセージは
意味のない表面的なものに
変わった
不安な日々が過ぎて行き
それが三ヶ月 半年になり
悲しい終わりを予感する頃には
心に耐性ができてしまっていた
そして 突然届いた
あなたからの短い手紙
探しても探しても
さよならも
別れの言葉も無くて
書かれていたのは
察して欲しい
これがあなたの出した答え?
別れの言葉?
恋人としての
ふたりの未来は無いんだと
はっきり告げて欲しかった
何ヶ月も空虚な時間を
かけるくらいなら
このあなたへの想いの結晶を
ひとおもいに
砕いて欲しかった
わたしたちの曖昧な関係に
終止符を打つことに
時間を利用するなんてずるい
わたしの心は星屑となって
あの日あなたと一緒に見た天の川に
散らばった
つらい、悲しい、苦しい、ずるい、
そういう感情は
時間と共に風化した
それからも毎年律儀に届く
ただの知り合いでしかない
あなたからの形式的な年賀状
転勤しました
結婚しました
家を建てました
子どもが産まれました
犬を飼いました
近況報告だけの一文
わたしもただ事務的に返している
あなたとの一年に一度の
このささやかな交わりは
青春の名残
天の川の対岸にいる
彦星からは 見えない
わたしは星屑となった織姫
詩なので、もっと短くシンプルにしようと頑張ったのですが、うまくまとめられずに、結局長いまま投稿致しました。
初めて詩に取り組みましたが、自分が納得する言葉を選ぶのに、かなり悩みました。
最後までお読みくださった皆さま、本当にありがとうございます。
武 頼庵さま、素敵な企画に参加させていただきまして、ありがとうございました。大変お待たせ致しました〜!