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救世少女のアンチテーゼ  作者: 竜胆久遠
第一章 異世界逃亡編
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第7話




「――あれ。いつの間に寝ちゃってたんだ、おれ」


 目を覚ますと、見慣れぬ部屋だった。

 記憶が徐々に蘇ってくる。1つずつ思い出していくと、おれは確か異世界に行くために英美里教授とAMESの施設に来ていたはずだ。そしてベルベッドと真希さんに出会い、案内された地下施設の一室で休憩していた。で、いつの間にか眠っていた、ということか。


「疲れてたんだろうなぁ~――……えっ」


 身体が何故か動かない。

 縛られているわけでも、何かに繋がれているわけでもないのにピクリともしない。


「ど、どうなってるんだ?」


 口は動くし呼吸もできる。なのに、起き上がることが出来ないとはどういうことか。どうやら動くのは首から上だけのようだ。


「金縛りってやつか――?」


 と、おれが言った直後、


「ピンポーン! その表現は間違ってないよ~」


「ま、真希さん!」


 真っ白な部屋に入ってきたのはおれ達をここに迎え入れてくれた英美里教授の親友らしい支倉ハセクラ真希マキさんだ。さっき休憩している時に少しだけ話したが、真希さんはAMESの最高幹部の1人だとかなんとか。で、研究開発部門、医療部門の顧問らしい。簡単に言うと、AMESの偉い人ということだ。


「おれ、どうしてこんな場所にいるんでしょう? 部屋で休憩していたはずなんですが」


 見ると、辺りにトワもいない。部屋にテレビがあったから、それに夢中なのだろうか。


「ちょっと調べたいことがあってね~。でも安心して! あなたの情報は私だけのものだから!」


「えっと、情報というのはいったい……」


「それはもう色々よ! 色々! 体内の組織から脳の中身、神経の1つに至るまで調べつくすわ! だって、男の子だった人間がいきなり女の子になっただなんて、普通じゃ考えられないもの! ホルモンバランスの急激な変化にどう身体が反応したのかなぁ。性器の変化も気になるし~。う~ん、小ぶりだけど胸も膨らんでいるわねぇ。中はどうなってるのかしら!」


「あの、よ、よだれ、垂れてますよ……」


 い、いけない。これは危険だ。この人、多分ガチ目の変人だ。このままではおれの身体はいいように弄ばれてしまう恐れがある。


「っと、いけないいけない。つい興奮してしまったわ。でも、研究者としてあなたは本当に興味深い存在なのよ。だから私としてもAMESの兵器開発班の変態共にあなたを渡したくないの!」


「それって、一人占めしたいだけじゃ……」


「そうとも言うわね!」

 

 ダメだこの人。なんとかしないと。

 おもちゃを与えた子供のように眼が輝いている。


 そして、状況がある程度飲み込めてきた。

 英美里教授の言っていたことは、多分、真希さんの協力でゲートを使うことが出来るが、その代償におれは身体を差し出さなければならない、ということだろう。ベルベッドの援護もあって無事にここまでたどり着けたし、協力を得られなかったらと考えると恐ろしいが、これはこれでわが身の危機なのではないだろうか。


 そういえば英美里教授は言ってたっけ。諦めろ、って。

 でも、英美里教授がここまで把握していて行動していたのなら、命に危険はないだろう。ただ、それ以外の問題がありそうだけども。

 

「さて、時間もないことだし、始めるとしますか!」


「やっぱり身体が動かない……」


 最後のあがきを試みるが、結果は同じだった。


「くふふ。特製の薬であなたの身体は短い間だけだけれど金縛り状態になっているのよ。動かそうとしてもピクリともしないでしょう?」


「……う、動きません。はぁ、わかりました。でも、痛くしないでくださいね」


 ま、命に関わらないのならいいか。ここでおれが我慢すればAMESから逃げてソル・グラシアに行けるわけだし。真希さんの協力を得るためには仕方がない。


 おれは抵抗するのをやめ、自然体で待つ。

 調べると言っても、非人道的なことはしないだろう。英美里教授の親友ってことだし、そこらへんは信頼してもいいかもしれない。


「安心しなさい。後遺症は残らないやつだから。私は凄腕の医者でもあるし、ここには最新の医療設備も整っているわ。ということでまず採血するわね」


 言って、真希さんは採血用の機器を取り出した。

 針をおれの腕に刺し、採血が始まる。


「痛くない? 大丈夫?」


「ちょっとチクっとしただけなんで大丈夫です」


「えらいえらい! さすがは元男の子!」


「中身は男ですから――って別にそれは関係ないような……」


「ふふ、女の子の身体になって痛みの感じ方とかも違うかもって思ったけどそういうのはなさそうねぇ」


 嬉々と喋りながらも、真希さんはテキパキと採血を進めていった。


「そういえば、真希さんって英美里教授とどういう関係なんですか? なんというか、親友ってだけの間柄ではなさそうな感じですけど……」


「英美里との関係、ねぇ。親友っていうのは間違いないんだけど、確かにそれだけじゃ語りつくせないかもなぁ。というか湊くん、そんなに私と英美里のことが知りたいのかな? それとも英美里のことが知りたいのかな?」


 ニヤニヤと笑いながら、真希さんはおれの頬をつんつんしてきた。残念ながら動けないので、抵抗もできない。


「英美里教授はなんというか、あまり裏を見せない人なので……。そんな人の親友なんて、気になるじゃないですか。もちろん、英美里教授のことももっと知りたいですけど……」


「ふ~ん、なるほどねぇ。ま、あの子の性格だからあなたには何も話してないんでしょう。知らない方が幸せってこともある、か。いかにも英美里らしいなぁ」


「あの、知らない方が幸せって、それは、どういう意味ですか?」


「言葉通りの意味よ。それと、私と英美里の関係はただの親友。それ以上でも以下でもないわ。経緯が知りたければ、英美里に訊きなさいな」


 採血を終えた真希さんは、次にチューブのようなものを取り出した。

 透明で細いチューブだ。いったい何に使うつもりなんだろうか。


「それはそれとして、検査の続きしましょっか」

 

「あの、それは何に使うのでしょうか……?」


 なんだろう。急に悪寒が走るんだけど。


「これ? 尿採取用のチューブ」


「にょ……っ」


 まさか、あのチューブをああしてこうしてああするつもりなのか!


「さ、脱ぎ脱ぎしましょうね~」


「い、嫌だ! 尿なら自分で採ってくるので、それだけは許してください!」


 男としての尊厳が!

 人としての大事な何かが失われてしまう!


「どうして? これなら簡単に採れるんだよ? ほら、この機械にチューブを差し込めば、勝手に吸引してくれる優れものなんだから!」


「吸引……ッ!? まだこの身体になっておしっこしたことないのに初めてが吸引なんて嫌だぁ!」


 おれが喚き散らすと、何故か真希さんの表情が輝き始めた。


「初めて! ああ、なんていい響なの!」


 恍惚としていた。

 ああ、と。命の危機はないのかもしれないが、やっぱりこれは恥ずかしすぎる。今の気持ちを一言で表現するなら、逃げたい。


「あ、あの! 実はですね、恥ずかしくて自分でもまだ自分のモノをよく見てなくて……だから初めは普通にがいいっていうかちょっと怖いっていうかほんとお願いします……っ」


「え~、別にいいじゃない尿を取るくらい。こんなの病院でも普通にやってることよ? 変な機械じゃないし、直接デリケートな部分にぶっさすわけでもないし、変な気分にもならないから安心して? いやまあ変な気分になってくれて全然かまわないっていうかなってくれるとお姉さん的にはすっごく楽しいんだけどね?」


 ニッコリ笑顔で言う真希さん。

 いけない。これはいけない。抵抗しようにも身体が動かないのでどうしようもないのだが、どうにかしようともがかずにはいられない。


「や、やめ……!」


「そーれ御開帳~」


「ああ――!」


 無慈悲にも下半身を剥かれてしまう。

 動けないが感覚は残っているのでとてもスースーする。どこがとは言わないがスースーする。


「くすん……」


「大丈夫よ安心して湊くん! 何がとは言わないけどすっごく奇麗だから!」


「そうですかありがとうございます……」

 

 ――それから。


 おれは、この世の地獄のような辱めを受け続けた。

 死ぬよりかはマシだと自分に言い聞かせて、なんとか耐え抜いた。

 でも、何か大切なものを失った。そんな気がした。





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