第5話
高速道路も下り、気づけばクルマは山道を走っていた。
案の定速度違反等の交通ルール違反で警察から追われていたが、気づけばあんなにうるさかったパトカーのサイレンは消えてしまっていた。警察の部隊を撒いてしまう英美里教授のドラテクに驚きと辟易を感じつつも、ようやく目的地付近だということで、おれは少しばかり安堵も感じていた。
SUV車のおかげか、山道も難なく上り、順調といえる道程だ。ただ、英美里教授の備えを見る限り、もう一度くらいドンパチがありそうな気がしている。そして恐らく今度は警察ではなく、AMESだ。このまま何事もなく異世界に逃げることが出来ればそれに越したことはないのだが、そうは問屋がなんとやらだろう。
「……そろそろか」
「な、なにがですか?」
おれは恐る恐る訊いた。
「連中が私のしかけたブラフに気づき、部隊を分散させている頃合いだ」
「ブラフって、英美里教授何かしたんですか……?」
「まあな。っと、お出ましか」
頭上にヘリコプターが2基。機体にはAMESの文字がある。
「いつの間に……!」
「ま、想定通りだ。あの程度の戦力ならば問題ない」
言って、英美里教授はいばら道に突っ込んだ。
ヘリコプターから身を隠すためとはいえ、こんな道と呼べるかも怪しいトコロを走るなんて! 勘弁してくれぇ!
「ま、前! 前! 木がいっぱいでクルマが走る場所じゃないですよ!」
「安心しろ。ハンドル捌きには自信がある」
不敵に笑う英美里教授。
「そういう問題じゃ――」
と、おれが叫ぼうとした瞬間。
前方の地面が炸裂した。土砂で一瞬視界が奪われる。
しかし、英美里教授はすぐにハンドルを切り、右に避けた。
「ひ! ひぃ!」
声にならない声を上げるおれの横で、英美里教授は何をとち狂ったのか、さらにクルマを加速させた。あ、これ死んだかも。なんて一瞬思ったが、おれが涙目で必死に念仏を唱えている間に、整備された道路に飛び出た。
「へぶっ!」
着地の反動で変な声出た。
息つく暇もなく、やはりというべきかすぐに敵に見つかり、ヘリコプターがこっちに迫ってきた。
機銃を乱射しているが、当たる気配はない。
さすがに動いている敵には当てずらいのか?
英美里教授はジグザグに走行した後、今度は速度を落とし普通に真っすぐ走り始めた。
「――なるほどな。やはり、そういうことか」
敵は機銃を乱射してはいるが、当たらない。
そこでさすがのおれも気づいた。当たらないのではない。わざと当てていないのだ。そこから考えられるのは、捕獲対象であるおれを生け捕りにするため、だろう。
しかしこのまま追われては、いつかは捕まってしまう。それに、敵の増援が来たら一巻の終わりだ。それらが来る前に、一刻も早くゲートに突入しなければならない。
「そろそろのはずだが――」
と、英美里教授が呟いた。
おれが、何がですか、と尋ねる前に、それはヘリコプターから降ってきた。
「あ、あれって!」
教材とかでも見たことがある。マモノと戦うために生み出された戦闘兵器だ。
「ああ。対マモノ用無線無人戦闘機兵だな。タイプGか。厄介だな」
AMESが保有する対マモノ用兵器。そのはずが、まさかおれ達に向けて使用してくるとは。サイズは全長2メートル程で、結構でかい。各種武装も積んでおり、生身で倒すにはほぼ無理そうだ。
「足止めのつもりだろうが、さすがにこちらも応戦しなければならんか」
言って、英美里教授はクルマを止めた。
ヘリコプターからはやはりというべきか攻撃はない。機銃や炸裂弾でおれが死ぬのを避けるためか。
「ロケットランチャーでもあればよかったんだが、さすがになかったのでな。まあ、こいつでもある程度は役立つだろう」
「って、それ、手榴弾!?」
「耳を塞げ!」
「は、はい!」
英美里教授はピンを抜き、無人機兵にグレネードを投擲した。
直後、爆裂音と共に、爆炎が舞い上がる。どれくらいの火力を有しているのかは知らないが、音から察するにかなりの威力だったようだ。
「このタイミングでシールドを展開したか。ヘリに乗っているであろう操縦者はどうやら素人じゃないな」
魔導電磁シールド。魔素エネルギーと電気エネルギーを組み合わせて開発された超薄型のシールドだ。人間には展開できないが、あの機兵にはそれを可能にする機構が備わっている。
本来なら対マモノ用の装備だが、こうして対峙するとやはり恐ろしい。
「ど、どうにか突破しないと……!」
「そう焦らなくても大丈夫だぞ湊。援軍だ」
「え、援軍?」
敵じゃなくてこちら側に援軍が来るとは考えもしなかったので、おれは驚きが隠せない。
「そうだ。くるぞ」
英美里教授がそう言った瞬間、前方にいたはずの無人機兵が真っ二つに焼き切れた。何が起きたのかが咄嗟に飲み込めなかったおれは、ただあほのように声を上げる。
「な、な……!」
煙を上げ、無人機兵はガラクタと化した。
そして、あの兵器を両断したのは、なんと女の子だったのだ。
「……」
少女はまだ12歳かそこらに見える。顔には幼さが残り、体は小柄だ。しかしそれ以上に異常なのは、彼女の身体だ。見える箇所で両手と両脚が機械になっている。もしかしたら他の部位も同じように機械になっているのかもしれないが、そこまでは確認できなかった。
「あの子、身体が……」
「あの子は特別だ。そして、それはやつらも知っている。見ろ」
「あ……」
AMESのヘリコプターが去っていく。それだけあの子が脅威だということなんだろうか。
それから女の子は、メカメカしいロングライフルにブレードが施された魔導兵器を片手に、おれ達の方にやってきた。
「殲滅、完了しました」
少女が口を開いた。
生気のない声音に、おれは少しだけゾッとした。
「うむ、ご苦労」
英美里教授は気にした風もなく、少女にクルマに乗るよう指示した。
少女はこくりと頷き、乗車する。
「いったい、何者なんですか?」
なんだろう、あの子からは生気を感じない。眼も虚ろだし、動きも機械的な気がする。
「説明はあとだ。お前もクルマに乗れ。今のうちに離脱するぞ」
「……わかりました」
今日だけでどれだけの事が起きるんだろう。
おれの頭はすでにパンク間近です……。




