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第23話





 そうして次の日。


 おれはエリーゼとの約束通り教導都市グロリアの入り口付近にやってきた。

 豪勢な門に、やたら立派な外壁。まるで侵入者を拒むかのようである。


「や、ミナト」


「エリーゼ。よかった。待ち合わせの場所はここでよかったんだね」


「うん。あの時はアルメリアに追われてたから詳しく伝えられなかったけどこうして無事会えたからよし」


 エリーゼはなんだかうんうん頷いている。


「そしてこちらが、今日の君の指導者である――」


「あっ」


 言われる前に、見覚えのある人物だった。

 昨日、一緒に戦ったり道を教えてくれたあのシスターだ。


「あれ、知り合いだった?」


「知り合いっていうか、昨日出会って色々あったっていうか……」


「そうなの、ロゼッタ?」


「そうですね。ですがなるほど合点がいきました。あれはやはり神剣だったんですね。そしてエリーゼ様は私にこの子を強くしてほしいと」


「端的に言えばそういうこと。剣術で君に勝る人はここにはそういないからさ。それに、人に教えるのは慣れているでしょ?」


「まあ、それなりには。ですが、本当によろしいのですか? 神剣の扱いならばエリーゼ様のほうがお詳しいと思いますが。それに他の聖女の方の事もありますし……」


「聖女(あの子)達のことは気にしなくていいよ。それはそうとまずは基礎からっていうじゃない? ミナトはまだ剣の振り方も知らないからね。ある程度下地が出来てから理術については教えるよ。といっても、その魂には刻まれているだろうから教えるってよりは思い出させるって方が的確かもだけど」


「セイクリッドネーム、でしたか。救世者とは、本当に不思議な存在ですね」


「まあね。まだ未知な部分も多くあるから余計にね。――っと、そろそろかな」


 エリーゼはそう言うと、遠くを見やった。


「私はちょっと野暮用があるから、ミナトの特訓は任せたよロゼッタ」


「承知しました」


「それじゃあとはよろしく!」


 と、どこかへ行ってしまいそうなエリーゼを、おれは慌てて引き留めた。


「ちょっと待って! エリーゼ、君に言いたいことがあるんだ」


「私に? なんだろう、告白とか? へへ、なんちゃって」


「ち、違うって! ――こほん、俺たちの事、助けてくれてありがとう。トワからきいたよ、先日の戦闘、エリーゼがいなかったらマーハは死んでいたかもしれないって」


「ああ、そのことか。別に気にしなくていいよ。たまたま君の力を感知できる範囲にいたってだけだからさ。まあ、不幸中の幸いってやつかな」


「それでもありがとうだよ。エリーゼはおれ達の命の恩人だ」


「……そうやって面と向かって言われると照れるなぁ。ま、悪い気はしないから素直に感謝は受け取っておこうかな! それじゃ、修行頑張ってね」


 言って、エリーゼは不思議な力でどこかに消え、シスターロゼッタだけが残った。


 どこか掴みどころのないところが、英美里教授に似ているかもしれない。エリーゼと話していて、そう思った。


「――というわけなので、よろしくお願いしますね、ミナトさん」


「こちらこそよろしくお願いします。ええと、シスターさんのことは何と呼べばいいでしょう?」


「お好きなようにいいですよ」


「それじゃあ普通にロゼッタさん、で」


「ええ。構いません。では早速ですが剣術の修行を始めましょうか。初めはこちらで用意した木刀を使って行いましょう」


 言って、ロゼッタさんは懐から木刀を取り出した。そしてそれをおれに渡してきた。


「おお、これは紛れもなく木刀……」


 良い感じのサイズで手にしっくり馴染む。片手でも軽く振り回せそうだ。


「神剣の重さは判りませんが、まずは剣とはどういうものなのかを理解してもらおうと思います。一概に剣と言っても色々な種類があり、ミナトさんの神剣は見たところ刀の形状をしていました。ならば、それに合った訓練をしなければなりません」


「なるほど……」


 確かに言われてみれば剣と言っても様々な種類があるよな。形状で扱い方が変わるというのはごもっともだ。


「そもそも刀と剣は別物で扱われることの方が多いですが……、まあ、今は些細なことは気にしないでおきましょうか。さっそくですが、その木刀を適当に振ってみてください」


「こうかな? よっと――」


 ロゼッタに言われたように木刀を適当に振り回す。

 刀身が反っていて片刃なので、ゲームとかマンガの知識を活かして振ってみた。


「なるほど、その得物の戦い方は知っているようですね。素晴らしいです」


「あ、ありがとう……?」


 何故だか褒められてしまった。英美里教授から褒められたことはあまりなかったのでちょっと照れる。


「それでは、今から私が言うように木刀を振ってみてください」


「わかった」


 それから、おれはロゼッタさんの指導に従い、修行を続けた。

 振り下ろしの動作から流れるような型まで、様々な知識を教えられた。

 落ち行く木の葉を斬ってみたり、時にはロゼッタさんと打ち合ったりもした。少しずつだけど、刀の扱い方というものが判ってきたような気がする。


 そして気づけばすっかりと日も暮れ、肌寒い風が吹いてきた。

 無我夢中で木刀を振っていたせいか、とても手が痛い。


「今日はこのくらいにしておきましょうか」


「はい。ありがとうございました」


 おれはロゼッタさんに礼をした。

 なんというか、彼女は本当に教えるのが上手だ。ただやり方を言うのではなく、こうすることによってこうなる、と理屈から教えてくれたからすんなりと頭に入ってきた。


 エリーゼがロゼッタさんを選ぶのも頷けるってもんだ。


 ……って、待てよ。エリーゼは自身を救世者セイヴァーだと言っていたが、どうしてロゼッタさんに命令できる立場にあるんだ? どう見ても歳はロゼッタさんの方が上……。いったいエリーゼは何者なんだろうか。


「そういえば訊きたいんですけど、エリーゼって何者なんですか?」


 おれが訊くと、ロゼッタさんは少しだけ驚いたような顔をした。


「あの方は自身が何者か、何も言っていなかったのですか?」


救世者セイヴァーとだけは聞いていたけど、それ以外は何も」


 おれがそう口にすると、ロゼッタさんは嘆息した。


「与える情報の順序がちぐはぐですね。ですが、なにか考えがあるのかもしれませんし、私からは何も教えない方がいいかもしれません。いずれ判る時が来ます、とだけ言っておきましょう。それに――」


 ロゼッタさんは、おれの背後を見る。

 何だろうと思い、おれも後ろを見ると――


「あ……、ごめんなさい。邪魔をするつもりはなくて、ただ心配で……」


 木の後ろにいたマーハが、こっそりと隠れながらこちらを見ていた。

 おれは全然気づかなかったが、ロゼッタさんは最初から勘づいていたようだ。


「いえ、もう今日の修行は終わったので大丈夫ですよ。ゆっくり休んで、明日に備えてください」


「わかりました。明日も同じ場所と時間で大丈夫ですか?」


「ええ。あと3日は基礎訓練です。それが終われば実戦形式で行う予定です。普通の方でしたら基礎訓練に半年はかかるのですがミナトさんは呑み込みが早いので、短期間で十分だと判断しました」


「そ、そうなんだ? おれって才能あるのかな?」


 自分でも知らない間にそんな才能が……。

 マンガやゲームで知識を仕入れておいてよかった。関係あるかは、わかんないけど。


『阿呆。そんなくだらぬもので戦闘力が増すはずなかろう』


(おおう!? トワ、近くに来てたんだ?)


 急に念を送られてびっくりしてしまった。


『主がマーハを頼むと言っておったろう』


(そうだったね。ごめんごめん)


 そのことをすっかり忘れていた。

 何かあったら心配だからトワはマーハにつけていたんだった。

 まあ、本気になったらおれよりもマーハの方が強いだろうけど。あの子は優しすぎるからなぁ。


「エリーゼ様が目を付けたのですから、才能はあるのでしょう。しかし、実際に戦うことの厳しさというものは才能だけではどうしようもありません。場数を踏んで、慣れるしかない。そのための修行でもあります。驕らず、謙虚に成長することを私は望みます」


「は、はい……!」


 なんだか本当の先生みたいだ。

 なんだろう、師匠と呼びたい。


「では、長くなりましたがお疲れさまでした」


「ありがとうございました!」


 ロゼッタさんに一礼して、マーハとトワと共にその場を後にした。



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