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第21話




「確かこのあたりだったよな――っと、あったあった」


 アベルは辺りを警戒しながらおれを先導する。

 こそこそと薄暗い裏路地を歩き、とある建屋にたどり着いた。


 古臭い建屋には、一台のトラックが停まっている。窓は中が見えなくなっており、いかにも怪しい。


「グロリアに出入りしてる闇商社が使ってる隠れ家だ。もしマーハって子が魔族なら、あそこに捕まっている可能性が高い」


「捕まっていなければそれが一番いいんだけど……」


「ま、とにかく中を確認しないとな。問題は、どうやって監視の目を掻い潜るかだが――」


 と、アベルが言いかけた瞬間――


「――また会いましたね」


「うお!?」


「っ!?」


 アベルとおれは唐突に声を掛けられ、びくっと身体を震わせた。

 足音もなく、急に背後に現れたのはさっき道案内をしてくれた褐色肌のシスターだった。


「そ、そこまで驚かれるとは思いませんでした。それにしても、こんなところで何をしているんです? ここは一般人が来るような場所じゃありませんよ」


「そ、それは――」


 説明すると長くなるのだが、どうしたものか……と、逡巡していると、アベルが、


「俺が説明するよ」


 ――べらべらと事情を話し始めた。


 元情報屋のくせに口が軽いなこいつ……。


 まあ、いいか。おれがわざわざ説明する手間は省けた。


「なるほど、あなた方もあの闇商社に用があったのですね」


「も、ということはあなたもかな、シスター?」


「はい。私の目的は彼らの駆除です。グロリアに蔓延る悪は放ってはおけませんから」


「見たところあなた1人のようだが? 相手は名は知られていないとはいえそこそこの規模の組織だ。シスター1人でどうにかできる相手ではないと思うよ」


 アベルがシスターに言うと、彼女は微笑んだ。


「ふふ、そうですね。本来シスターというのは祈りを捧げる存在。ですが、聖ウル・グレース教会は特別です。都市の防衛の意味もありますが、戦闘力を持ったシスターがここには数多くいます。公にはされていませんが戦力は相当な物なんですよ」


 シスターは腰の剣を抜いた。白刃が煌めき、宙を舞う。

 にしても聖ウル・グレース教会だって? それって確か英美里教授があの時に口にしていた名前じゃなかったか?


 これも運命のめぐり合わせだろうか。ということは、おれがここにいることは英美里教授も望んでいたことってことになる。


「それに、私のようなはぐれ者もいますからね。聖王は気まぐれなお方。戦うことしか能のない私を拾ってくれた」


「あなたはいったい……」


「大丈夫、そこで見ていてください。捕らわれている人達は私が開放します」


「あ、ちょ……!」


 1人で敵陣へ突撃するシスター。

 おれとアベルは出鼻を挫かれ、その場で立ち尽くしてしまった。


「お、おれたちも行かないと……!」


「――褐色の肌にあの顔の火傷の跡は……まさか、ユグドラ公国の剣の乙女か?」


 ぼそぼそと独り言を言うアベル。

 なにやら思案顔だが、どうしたんだろうか。


「おい、シスター1人で行っちゃったぞ! 立ち尽くしてる場合じゃないって!」


「っと、そうだな。女性一人で敵地に行かせるわけにはいかないぜ」


「その通りだよ、行こう!」


 神剣を召喚し、おれもすぐにシスターに続く。 


 一瞬、アベルが驚いたような顔をしたが、今はそれどころではない。

 急いで物陰から飛び出し、突撃しようとした矢先、見張りの男達が吹き飛ばされているのを見てしまった。


「すご……」


 言うだけあって、あのシスターかなり強い。


 それにしても、いったい何者なんだ。戦闘力があるとはいえ、屈強な男2人を一瞬でのしてしまった。それに、息一つ乱れていないじゃないか。


「こいつは驚いたな。まさか本物だったとは……」


「本物、ですか? どういうことです?」


 シスターは剣を一度鞘に戻し、アベルに問いかける。


「あんた、ユグドラ公国の人間だろう? 剣の乙女といや、大陸最強格の剣士の1人だ。だが、どうしてグロリアに――」


「それは……。――すみません、話は後のようです」


 倉庫の入り口から新手が現れた。

 見た目は傭兵風だ。この男も見張り役の2人と同じ用心棒なのだろうか。


「表が騒がしいと思ったらお客さんかい。まさかこうも簡単に倒されるとはなぁ……。傭兵の名が泣くぜ」


 大柄の男が呆れたようにため息をつく。

 得物は大型のアックス。筋骨隆々で、見るからに強いですと言っているようだ。


「雇われでも容赦はしませんよ。グロリアに巣くう悪は全て我らが滅ぼします」


「威勢のいいシスターだぜ。だが、俺1人だと思ったら大違いだ」


「な――」


 どこに隠れていたのか、武器を持った傭兵たちがたくさん現れた。

 ざっと10人はいる。これは、あまり良い状況ではないかもしれない。


「囲まれちゃったか。さて、どうするかな」


 アベルは頭をかき言うが、しかし顔は笑っているように見えた。


「シスター。そのリーダーっぽいやつは任せていいかい?」


「ええ。大丈夫ですよ」


「オーケー。ならミナト。俺たちは下っ端をやるとしよう」


「わかった」


 神剣を構え、敵と対峙する。

 少しずつ身体が思い出してきた。神剣を用いて戦うという行為を。

 だが、慣れたわけではない。身体は前に進んでも、心はまだ怯えている。


「なーに、安心しな。君は俺が守るよ。大事な逸材だからね。背中だけ守ってくれりゃ、それでいい」


「努力するよ」


「助かる。さあ、来るぞ」


「――!」


 そうして、傭兵たちとの戦闘が始まった。

 先日のあの死闘の時に、おれはおれの中にいる誰かと入れ替わった。その時に彼女が行使していた力、【理術】という代物だが、その能力が身体に染みついている。今ならばその術を使えるかもしれない。


「こんな感じか……っ」


 体の中にあるらしい理力を、外に撃ち放つ。

 それは衝撃波となって、敵を吹き飛ばした。


「できた……!」


 一度この身体で行っていることだから、それとなく感覚が残っていたがどうやら正解だったようだ。こうして術を使うことが出来た。


「ふぅん? やはり、そういうことか」


「アベル?」


「なんでもない。今は目の前に集中だ」


 言いつつ、アベルは華麗な銃捌きで敵を翻弄している。

 彼は魔術も使えるようで、敵を近づけさせないように炎をまき散らしている。


「こんなこともできるんだぜ」


 アベルの持っていた装飾銃の銃口から魔法陣のようなものが現れた。

 そして、そのまま引き金を引くと、緑色の弾丸が敵を追尾し襲い掛かった。  


「な、なんだこの銃弾は!?」


「避けるな、打ち落とすんだ!」


「うわああああああ!? こっちにくるなぁぁぁ!」


 敵陣営は阿鼻叫喚だった。

 アベルの魔術に不可思議な銃弾。そしておれの理力を練りこんだ衝撃波で右往左往している。


「こっちは問題ないみたいだ。でも、さっきのボスっぽいやつは――」


 シスターの方を見てみると、まだ戦っている最中だった。

 やはり、あの大男が一番強いらしい。門番2人を一瞬で締め上げたあのシスターが苦戦している。


 が、やけにこっちの様子を気にしているようだ。なんというか、目の前の敵に集中していないような――。


「シスターにしてはやるようだな。向こうの心配をしている場合か? そろそろ本気でいくぜ!」


「本気ですか? ああ、そうでした、今私はあなたと戦っているのでしたね」


「てめぇ……ふざけているのか!」


 激高した傭兵団のボスが、巨大なアックスを振り回しシスターに襲い掛かる。しかし、シスターはあろうことか細身の体と細い剣で敵のアックスを受け止めてしまった。


「んな……! 受け止めただと!?」


「見た目で人を判断しないことです。それと、受け止めただけではありませんよ」


 シスターは軽やかに剣を動かし、身を敵の懐に入れた。

 そして、その結果傭兵の大男はバランスを崩す。


「終わりです」


 シスターは傭兵団のボスの首裏に手刀を叩きこんだ。


「――!?」


 大した威力はなさそうだったが、傭兵団のボスは呻き声を上げ、その場に倒れこんだ。ピクリとも動かないが、恐らく死んではいないだろう。


「すごい……」


 どうやら、シスターは苦戦はしていなかったらしい。理由があって、戦いを長引かせていたように見える。


「ぼ、ボスがやられた!」


「ど、どうする? まずいんじゃないか?」


「俺は逃げるぞ! このままじゃ全員やられる!」


 傭兵団たちは完全に統率を失い、散り散りになって逃げていった。

 残ったのは気を失っているボスだけだ。


「見事な手際だな、シスター。いや、剣の乙女・ロゼッタと呼んだ方がいいか」


「……さすがは情報屋なだけはありますね。ですが、今はシスターロゼッタです。その名はとうに捨てました。それに、名乗る権利も持ち合わせていませんから」


「こっちも元、情報屋だ。今後はメイド喫茶でも開こうかと思っていてね。どうだい、名を捨てたんなら貴女もウチのメイドになってみないか?」


「メイド? 私がですか?」


「ああ。結構いい線いってると思うんだが」


「丁重にお断りします。そんな柄ではありませんし、今は聖王に仕える身ですので」


「だよなぁ。今日はふられっぱなしだ」


 アベルは頭をかいて、大仰に両手を広げた。


「っと、そんなことよりマーハを助けに行かないと!」


 おれは慌てて倉庫の中に突入しようとした。

 が、アベルの手がおれの腕をつかむ。


「な、なにするんだ!」


「まあ落ち着けって。さっき裏手でクルマのエンジン音がした。恐らく奴さんは逃げおおせたようだ。初めからこの傭兵団は捨てゴマだったってことだろう」


「な!? じゃあマーハは……!」


「ああ、それな。実はそのマーハって子はおれの部下が宿まで送り届けてるんだわ」


「は……? それってつまり――」


「つまり、そういうことだな。ここにマーハ嬢はいないってことさ。はっはっは!」


「笑い事じゃないって! なんで嘘つくんだよ! 信じてここまで来たのに!」


「すまんすまん。少し確認したいことがあってな。それに、予想外の収穫もあった。この礼は必ずするぜ」


「振り回されただけじゃん……おれ……」


 いったい何のために傭兵たちと戦ったんだろう。

 まあ、経験は積めたけども。


「――で、その話、本当なんだろうな?」


「マーハ嬢の事か? ああ。真実だ。今頃宿でお前の帰りを待ってるだろうよ。おれの名に誓ってもいい」


 そう言うアベルの顔は真剣だった。

 なんだか真面目な顔が似合わないやつだなと思いつつも、嘘ではないのだと何となく感じた。


「……そっか。まあ、マーハが無事ならそれでいいよ」


 騙されたようでいい気分ではないけども。

 しかし、アベルの確認したいことって何だったんだろう。まあ、もう関わることもないだろうから別にいいか。


「ああそうだ、ロゼッタ嬢、こいつを宿まで送ってやってくれないか。どうもここら辺の地理がないみたいでな」


「構いませんよ。迷い人を導くのもシスターの務めですから」


「戦闘に人助けとは、シスターも大変だ。そんじゃま、俺はここらでお暇しますかね。では、また会おう、可憐な少女たちよ!」


 そう言って、アベルは去っていった。

 

 なんだか、嵐のような男だったな。気さくで話しやすかったけど、仲良くなりたいタイプじゃない。


「それでは私達も帰りましょうか。宿までお送りしますね」


「あ、ありがとうございます……」


 なんだか少し申し訳ない気もするが、また迷子になっても笑えないのでここは素直にお願いしよう。




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