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第20話





 市場を捜しまわること数十分。マーハは市場のどこにもいない。かといって角の生えた魔族の子を知りませんか、なんて訊けるはずもないし、困った。


「市場の表通りは全部見て回ったよな。となると、裏通りにいるのか? でも、裏手には怪しい店しかないみたいだし……」


 来たからには、そっちも回っておくか。

 そう決めて、おれは裏通りの方へと向かった。

 露骨に人の気配が薄れ、店も怪しいモノばかりだ。

 こんなところにマーハがいるのかと思ったが、おれは黙って歩みを進める。


「――おーいそこのお嬢ちゃん。君可愛いね。どうだい、ウチで働いてみないかい?」


「え、あの、おれ……っ?」


 急に声を掛けられ、キョドるおれ。

 若い男だ。背が高く体格がいい。顔も整っており、いわゆるイケメンであった。おれの嫌いな種族だ。


「そうだよ。それだけ可愛いと、よく男に声をかけられるだろ?」


「あっ、そ、そうでもないというか……」


 そもそも女になって間もないから、そう言ったイベントはまだ起きてない。というかこれかも起きなくていい。


「給料は弾むよ! まあ、君くらいのレベルの子なら客はいくらでも貢だろうからね。俺の目に狂いはない!」


「あの、そもそもどういった仕事で……」


「お、気になるかい? 気になるよねぇ? ふふふ、仕事内容は簡単さ。ただこいつを着て接客してくれるだけでいい!」


 言って、イケメンはおもむろにバッグから何かを取り出した。

 そして、それはとても見覚えのなる代物だった。


「メイド服!? そそっ、それをおれに着ろっていうのか!?」


「ああ! 絶対に似合う! びびっと感じたね、君は最高のメイドになれる! 俺と一緒に極めようじゃないか、メイド道を!!」


「メイド道だって!? い、嫌だ! おれはそんなの絶対に着ないぞ!」


「おお! その容姿でおれっ娘とは、属性も申し分ない! 素晴らしい逸材だ!」


 飄々としたイケメンは、勢いよくおれの手を握ってきた。

 反射的に突っぱねたが、なんだか胸がドキドキする。


「き、急に触るなよ! びっくりするだろ!」


「わるいわるい。しかしすべすべな手だ。握手するだけで金が取れる程だな。ここまで完璧だと何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまうが……」


 言いつつ、イケメンはおれのことをまじまじと見てきた。

 とても逃げ出したいが、せっかくならこの男にマーハの居場所を尋ねておきたい。周りはガラの悪そうなやつばかりだから、まだこの人の方がマシかもしれないし。


「っと、興奮して自己紹介がまだだったね。俺はこういう者なんだ」


 言って、男は名刺を渡してきた。


「……ロイザース社? これは社名ってこと?」


「その通り。俺はロイザースって会社の代表をやってるアベル・ロイザースだ。その名の通り社長なんだぜ。どうだ、すごいだろ?」


「いや、すごいだろって自分で言うか普通……。にしても、何の会社かさっぱり分からないぞ」


 名刺を見る限りでは、具体的な事業内容が伝わってこない。

 それにしても、こんな男が社長でロイザースって会社は大丈夫なのだろうか。不安しかない。おれなら絶対こんな会社就職しないぞ。


「もとは情報屋をやってたんだが、最近そういう気分じゃなくなってきてな。ネハレニア帝国で見たメイド喫茶ってやつに惚れて、ウチでもやってみようと考えたのさ」


「えぇ……。ちなみに、他に社員はいるの?」


「いるぜ。まあ、大半の面子はメイド喫茶に反対しているがな。はっはっは!」


「笑い事じゃない気がするけど……」


 このアベルという男、馬鹿なのだろうか。にしてもこんな人間がトップの会社で働く人がとても可哀そうだ。


「っと、こんなところで喋ってる場合じゃなかった。マーハを捜さないと……!」


 一応名刺を懐に収め、おれは歩き出そうとする。

 が、アベルに引き留められてしまった。


「な、なんだよっ。おれには時間がないんだってば」


「どうやら誰かを捜しているみたいだね。マーハと言ったかな。その子、もしかして頭に角が生えてたりしないかい?」


「ど、どうしてそれを……! まさか、マーハも勧誘して……っ」


「違う違う。さっきここいらで自分のことをマーハって呼ぶ子が話しているのを聞いてね。ガラの悪い連中といたから、気になってはいたんだが」


「ほんと!? ど、どこに行ったかわかる!? おれ、その子の友達なんだ!」


「おおっと、まあ落ち着け。角で察するに、そのマーハって子は魔族なんだろう? となると、ちとやばいかもしれないな」


「というと?」


「ここはグロリアでも治安の悪い場所だからな。シスターたちの目の届かないところで悪事を働いているやつもいる。魔族といやあ、色々と使い道もあるからな。ここいらにも人身売買専門の業者ってのが蔓延ってる。まあ、他の都市と比べたらかなり小規模だろうが……」


「そんな……」


 危ないことに巻き込まれてるのかもしれないってことなのか?

 ギルンセルでも投獄された身のあの子が、また危険な目に合うのは耐えられない。


「まあ、可能性の話だがな」


「可能性があるのなら教えてよ。マーハが心配なんだ。おれはあの子の友達だからなんとかしてあげたくて……!」


 おれは真剣な面持ちでアベルに詰め寄る。

 なんとなくだけど、この人は知っている気がする。


「……いい表情だ。惚れちまいそうだぜ」


「そ、そういうのいいから! マーハの居場所、知ってるなら教えてよ!」


「ギブアンドテイクって知ってるか? 情報をやる代わりに、メイド喫茶のメイドに――」


「それは嫌だ」


「即答かい! まあ、無理強いさせるものでもないが……。それじゃあ、一度だけメイド服を着てくれないか? 写真も撮りたい。ウチの宣伝用として使いたいんだが」


「えぇ……おれを広告に使うってこと……?」


「それだけの逸材だと俺は思うね。どうだ、悪い条件じゃないだろう?」


「む……。わかった。無事マーハと合流出来たら考えてみる」


 考えるだけだ。絶対やるとは言ってないぞ。


「ようし、交渉成立だな! ついてきな!」


「か、考えるだけだからな!」


「わかってるって。ちなみにおれは諦めが悪い男だからな。覚悟しろよ?」


 良い笑顔でそんなことを言うアベル。

 なんだかその後が心配だったが背に腹は代えられない。

 

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