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救世少女のアンチテーゼ  作者: 竜胆久遠
第二章 監獄都市ギルンセル 脱獄編
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第17話




 眼前には、高等魔術同士のぶつかり合いが繰り広げられていた。

 宿主であるミナトから身体を借りたは、すぐに行動を開始する。


「ご主人! 無事だったか! 急に意識を失うから心配したんじゃぞ!」


「――ええ。私は大丈夫です。今のあなたはトワ、でしたね。とにかく時間がありません。すぐに2人を止めます」


「……? お主、本当にミナトか? 雰囲気が全然違うのじゃが……」


「ミナトですよ。今はね」


 私はそう言って、すぐに【ディオリカ】を召喚した。

 そして、段階を一気に最高位までに昇り詰める。


「な……! 神剣が姿を……!?」


「神剣【ディオリカ】には階級があります。これは第二位の姿です。ミナトが扱っていたのは第十位。本来の力の1割も出せていません。といってもトワ。あなたは忘れてしまっているでしょうが」


「う、ううむ。そうなのかそうじゃないのかもわからぬ……」


「そうでしょうね。今はそれで構いません。さて――」


 マーハも相当のものだが、相手の魔術師もかなりの実力者だ。

 だが、以前の宿主の時からそこまで大きく成長はしていないようだった。


「少し、失礼しますね。【バニッシュメント・マギ】」


 青属性の理術を行使し、2人の魔術を打ち消した。

 すぐさまファティマへ肉薄し、神剣を振るう。


「ぐ……! その雰囲気、オーラ……! エミリ・ミマサカだというのですか!?」


「いいえ、違います。私はミナト。エミリとは別の救世者セイヴァーです」


 ファティマに魔術の盾で防がれたが、問題ない。このまま神剣で押し切る。

 

 次の瞬間、パリィン! という小気味よい音と共に、魔術の盾は砕け散った。


「魔術師の弱点は近接戦闘。あなたは以前、エミリと戦った時に痛い程味わったはずでしょう?」


「知ったような口を……! それにしても救世者セイヴァーですか……。エミリ・ミマサカに聖ウル・グレース教会の聖王エリーゼ、そしてAMESのあの女といい忌々しい力ですねぇ……!」


「その力の前にあなたは倒れ伏すのです。少し……調子に乗りましたね!」


 理力の波動と神剣の衝撃波でファティマを吹き飛ばした。

 さすがのファティマにも焦りの色が見え始めている。

 私に残された時間は少ない。できればこのまま退いてくれるとありがたいところですが……。


「くぅ……ッ! 仕方がありませんねぇ! あの魔族の娘との決着はまだですがここは退きます。ですがミナト。あなたの顔は覚えました。この借りは必ず……ッ」


 そう言って、ファティマは姿を消した。

 お得意の空間魔術だろう。便利なものだ。


 私はふぅ、と一息つく


「さて……残るは」


 振り向くと、マーハが我を忘れて魔術を行使しようとしている。

 血を吐きながら、涙を流しながらマーハは暗黒属性の魔術を練り上げていた。


 正直、本当に厄介なのはこちらだ。自我が消えているため、力技で抑え込むしか方法がない。つまり、時間がかかる。


『どうするんじゃ、ミナト!?』


 トワからの念話がとんできた。


(魔力を全て吸い取れば大人しくなるでしょう。少々荒々しいですが仕方がありません)


 すぐにマーハに近づき、理術を行使する。


「【ドレイン・マギ】」


 亜空間に繋がる小型のブラックホールが対象の魔力を吸収する。

 一般の魔術師程度なら一瞬で吸引できる理術だが……。


「これほどとは……。マーハ、あなたはまさか、魔王級の……――くっ!」


 魔力が膨大過ぎて逆に弾かれてしまった。

 だが、かなりの魔力を消費させたはずだ。


「うう……あぁぁぁああああ……っ」


「まだこれだけの力を……ッ!? 【バニッシュメント・マギ】!」


 理術でなんとかマーハの暗黒属性の魔術を打ち消すことに成功した。

 しかし、想定以上にマーハの力が強い。時間もあまりないというのに、このままでは彼女を救うことが出来ない。


 一度マーハから距離を取り、思考する。

 制限された身体、制限のある時間。そして相手はタカが外れたいわば獣と化した怪物。理性のない相手程やりにくいものはない。


「……いいえ、宿主との約束は守ります。マーハを救うことは今の私の使命。あの子が目覚めたときに友達を失っていては悲しすぎますからね……!」


 魔力の波動を潜り抜け、もう一度【ドレイン・マギ】を行使できれば大人しくなるはず。


 徐々に膨れ上がるマーハの魔力に、一抹の不安を覚えながらも、神剣の最終段階への昇華、その準備を始める。この子が何者であれ、宿主の友であることに変わりはないのだから。


「理術を最大限発揮するには階位を第一位にするのが一番ですが、やはりこのちぐはぐな身体では負担がかかりすぎますか……! ですが、数秒くらいならもつはず……! 無茶を許してくださいね、ミナト……!」


 体内に眠る理力をほぼ全て開放する。右眼から理力の波動が抑えきれずに漏れ出した。


 神剣は姿を変え、完全ではないが第一位へと一応の変貌を遂げた。


「これなら……いけるはず!」


 【ドレイン・マギ】を行使し、マーハの魔力を吸い取る。

 小さなブラック・ホールが亜空間へと魔力を放出させる。


「まだ、まだ……ッ!」


 さらにもう一つ、亜空間への入り口を繋げた。

 二つの小さなブラック・ホールだ。ここまでしなければならない魔力量に驚きを隠せないところだが、今は目の前の行為に集中しなければ。


「うぅ……ぁあぁあぁぁぁぁ……っ――ぁ……あぁ……」


 急速にマーハの魔力は消費を始めた。

 ここまで理力を使わされるのは想定外だった。

 しかし、その甲斐あってマーハの動きを沈黙させることに成功した。

 よし、残る行程は……。


「な……! まずい……ッ!?」


 手に持っていた神剣が魔力の余波で吹き飛ばされてしまった。

 その拍子に神剣の姿は元の刀に戻ってしまう。


「許容限界に達してしまいましたか。これでは……」


 魔力を吸い終えたブラック・ホールは消え、消失した。

 マーハも落ち着き、気を失っている。


「どうしたんじゃ!?」


 私に近寄ってきたトワが訊いてきた。


「理力を使い果たしてしまいました。私ではこの身体のもう一つの動力原は使えませんし、こうなっては……」


 目の前で倒れているマーハの顔色はかなり悪い。

 もうあまり時間が残されていないようだ。ファティマによる攻撃で、マーハは致命傷を受けていた。その傷ついた身体を再生させるためにも、私は理力を残さなければならなかった。


「それに、そろそろタイムリミットですね……」


 魂がこの世界に存在できる時間。それが来ようとしていた。


「私の最後の力でなんとかマーハをこの世界に繋ぎ止めます。多少は時間が稼げるはずです。ミナトには申し訳ないですが、それが私のできる限界……」


 言いつつ、理力の欠片をかき集めて、マーハの治癒を行う。

 やはり、治癒理術では完全に元に戻すことは難しそうだ。高位の再生術でなければマーハを治すことは出来ないか。


「ほ、本当のミナトはその身体に戻るのか? 時間があるのならその間にミナトと医者を捜すのじゃが……いや、医者が治せるのかは判らんけども……」


「トワ。心して聞いてください。ミナトの魂はこの身体に戻ってこれない可能性があります。その時はあなたも一緒に消えてしまうでしょう。ですが、これは彼……いえ、彼女が決断したことです。あなたは信じて、ミナトが戻ってくるのを待っていてください。もしダメなときは……――」


 いいかけて、やめた。

 私も信じなければ。あの子、ミナトがこの身体に戻ってくることを。


「いえ。あの子は必ず戻ってきます。私が弱気になってはいけませんね。奇跡は起きるモノではなく起こすもの。気持ちが負けていては、どうにもなりません」


 かといって、私に出来ることはほぼない。

 祈ることくらいしかできないのは本当にもどかしいものだ。


「妾は何も出来ぬのか……。神剣の守護者たるこの妾が何の力にもなれぬのは歯痒いのぅ……」


「私も同じですよ、トワ。せめてもう少し理力が残っていればと思わずにはいられません――」


 私が次の言葉を言いかけると、天から光が舞い注いだ。


 神々しい光だ。まるで神様が地上に降臨したかのよう。そして、私はこれを見たことがある。


「はは……、まさか、これが奇跡ですか」


 ふわり、と、天から着地したのは純白の少女だった。

 ミナトではなく私が知る、この世界にいる救世者セイヴァー、その1人だ。


「――見慣れない容姿だけど、見慣れた雰囲気。エミリではないようだけど――」


 少女は口を開き、可愛らしく頭を捻った。


「その首飾りは……。なるほど、時が来たってことかな」


 純白の少女は口元を緩ませ、全てを察したかのように頷いた。


「説明は必要ですか? エリーゼ」


 私はその名を口にする。先ほどファティマも口にしていた、かつてエミリと共に戦った、かの聖王の名だ。


「ううん。必要ないよ。その首飾りをつけている。それだけで十分。でも、エミリはこっちにこれなかったみたいだね」


「そうですね。ですが、この子がいます」


「うん。わかってる。後ろの子は治した方がいい?」


「ええ、お願いします」


「わかった」


 そう軽く言って、エリーゼはマーハの近くに寄った。

 そして、手を掲げ、祈りを捧げるかのように理力を練り上げる。


「――【再生秘技レナトゥス】」


 みるみるうちにマーハの傷は再生していく。

 顔色も戻っていき、気づけばマーハは穏やかな寝息をたてていた。

 エリーゼの理術は、全盛期から力は衰えていないようだ。


「さすがですね。申し訳ないのですが、この子たちをお願いします。私はもうこの世界にいることができませんので」


「うん、任せて。教会で面倒見るよ」


「お願いします」


 そうして、私の魂は再び眠りについた。

少し展開が急すぎる気もしていますが、二章はこれにて終了です。


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