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救世少女のアンチテーゼ  作者: 竜胆久遠
第二章 監獄都市ギルンセル 脱獄編
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第16話




 気づけば真っ白な空間にいた。

 辺りには何もない。虚無が広がっているだけだ。


「ここはいったい……?」


 ――どこなのか。

 明らかに現実離れした空間なのに、おれはどこか懐かしいものを感じている。


 辺りを見渡していると、目の前に靄が現れ、中から何者かが姿を見せた。


『――宿主よ、無様ですね。』


「き、きみはいったい……?」


 目の前には、美しい女性が立っていた。何故か身体が発光していて、神聖な雰囲気を出している。


 でもどこかおれに似ている。そんな気がした。


『ここは私達の精神世界です。ここでこうして会うのは2度目ですが、やはり覚えていないようですね』


「え! おれって君に会ったことあるの?」


『ええ。ですが、まだ魂が慣れていないせいか、忘れてしまったんでしょう。完全に覚醒したわけではないようですから』


「完全に覚醒したわけじゃない……? でもトワは……」


『あの子も半分目覚めていないんですよ。そのことにもまだ気づいていないようですが。しかし、私とこうしてもう一度会話出来るということは、あなたの魂が急速に私を受け入れているということ。つまり、あなたには仮初の器ではなく、救世者セイヴァーとしての資質があった、そういうことです』


救世者セイヴァー? 初めて聞く単語だ……」


 そもそもこの人は誰だ?

 そして救世者セイヴァーってなんだ?

 判らないことだらけで、混乱しかけている。


『わからなくて当然です。しかし、本当に無茶をしましたね、エミリは』


「え、エミリって、まさか!」


『ええ。あなたの想像している人物ですよ』


「そんな……英美里教授、いったい何者なんだ……?」


 おれにとっては、育ての親みたいなもので、学園の師だった。

 孤児院にいたおれを引き取ってくれて、親代わりになってくれた人だ。

 親身におれのことを考えてくれて、いつも味方になってくれた恩人だ。


『今は知らない方がいいかもしれません。時が来たら、自ずと見えてくるでしょう。それに、そう。あまり時間もないことですしね』


「――っと、そうだった! おれはこんなとこで君と話をしている場合じゃないだ!」


 おれに何が出来るか不明だが、この精神世界とやらにいる間、現実のおれがどうなっているか判らない。今すぐにでも戻らないと大変なことになるかもしれないのだ。


『いいえ、状況は変わっています。あれが見えますか?』


 そう言って、女性は空を指さした。

 すると、外の世界の状況が映し出された。


「あれは……いったい……」


『どうやらあのテンタクルスライムをやられたショックで、マーハの真の力が解き放たれてしまったようです。しかし、あれは……』


「なんて真っ黒な魔術なんだ……」


『暗黒属性の魔術ですね。マーハ本来の力があれのはずです。エミリも以前、似たような相手と戦ったことがあります。上級魔族のラー家、でしたか。あの子もその一族でしたね』


「そうか、あの子は優しい子だから、敵でも本気で戦えなかったんだ……。でも、テンちゃんを失ったショックでそのタガが外れてしまったのか」


『ええ。そして恐らく半分無意識でしょう。ただ、問題はこのままマーハがあの魔術師と戦い続ければ彼女自身も危ないということです。怒りで自身の負った傷を忘れている』


「あ――ッ!? それじゃあ、早く止めないと……!」


『その通り。しかし、今のあなたにそれだけの力はない。が、方法はあります』


「あるの!? じゃあ、お願いだ! その方法を教えてくれ!」


『簡単です。身体を私に預けてください』


「預けるって、どういうこと!?」


『そのままの意味です。私があなたの身体を借り、事態を収束させます。それだけの潜在的能力はあなたは持っているのです』


「でも、おれじゃあその能力は活かしきれない……てことか」


 悔しいが、彼女の言う通りだろう。

 神剣もまともに扱えない現状じゃ、おれが戻ってもやれることはたかが知れている。力不足を認め、可能性のある方法に賭けた方が最善のはずだ。


「わかった。おれの身体を君に貸すことで事態をどうにかできるのならお願いするよ」


『しかし、この行為にはリスクがあります。もしあなた自身の力が弱ければ、元の身体に戻ることはできないでしょう』


「それってつまり……」


『ええ。それは死を意味します。そして私の魂も長くは現世に留まることは出来ません。マーハを止めることは出来るでしょうが、私達が消え去る可能性も十分にあるのです。それでも器を移し替えますか?』


 おれは考えた。

 分の悪い賭けなのかもしれないが、マーハを救う可能性があるのならそちらを選択するべきだ。あの子は友達なんだ。見捨てるなんてことはできない。


「それでマーハが救われる可能性があるのなら、おれはその選択をする……っ!」


 おれは答えた。

 おれに力はない。そんなおれが友達を助けるためにリスクを負うのは当然のことだ。無条件でどうにかしてもらおうなんて烏滸がましい。


『後悔はありませんね?』


「もちろん。男に二言はないよ」


『今のあなたは私の影響を受けて女体化していますよ?』


「っと、そうだった。じゃあ女に二言はないだ!」


『ふふ、威勢のいい宿主です。ですが……私も賭けてみましょう、あなたの可能性に。この器の大きさに――!』


 そして、おれの意識は精神の渦の中に吸い込まれていった。


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