第13話
異世界に来たのはいいが、捕まってしまったおかげで世界は暗く、飯はまずい。おれが自炊して造った飯の方が遥かに美味い。まあ、囚人がまともな食事を取れるはずもないか。
「昨日の検査から一日経ったけど、看守さん、何も言ってこないね」
マーハはいつも通り体育座りでおれに声をかけてきた。
「うん、なんか偉い魔術師の人を呼ぶから待っていろだって。それまではここにいなきゃいけないみたい。まあ、その前にここから出たいけど……」
「そうなんだ……。でもマーハね、嬉しいんだ。ミナトお姉ちゃんと一緒にいれて。いっぱいお話しして仲良くなれたし、私の2人目のお友達だから」
「マーハといれるのはおれも嬉しいよ。でも、もっと外の世界を見てみたいんだ。それに――」
次の言葉を言いかけたが、やめた。
AMESのこと、英美里教授のこと、それになんちゃら教会とやらも探さなきゃならない。ずっとここでくすぶっているわけにはいかないのだ。
「そっか。ミナトお姉ちゃんは違う世界から来たんだもんね。それなら、ここを出たら一緒に旅したいなぁ」
「おれでよければ全然かまわないよ。ソル・グラシアの人が一緒だと何かと捗るだろうから」
「ソル・グラシア?」
「あ、マーハみたいな現地人はそう呼ばないのかな? おれが元いた世界でのこの世界の呼び名なんだけど」
「なるほど、それがこの世界の名前なんだね。初めて知ったかも」
「世界の名前なんて違う世界の存在を知らないと呼称しないだろうしね。国とか地名とかは名前があってしかるべきだけど……世界はそういうものじゃないかも」
そもそも、おれが元いた世界にも名前があるのだろうか。そこらへんも英美里教授にきいてみればよかった。
『――ご主人』
(トワ? どうしたの?)
外に出ていたトワから念話が飛んできた。つまり、近くにいるようだ。姿は見えないが。
『そろそろそこから出るとしようかの。地下の牢獄からの抜け道を見つけた。そこから脱出するぞ』
(でも、どうやって? 鍵はないし、牢は開かないよ?)
『ふふ、任せておれ』
そう言って、トワの気配が消えた。どうやらこちらに向かっているようだ。
「またトワさん?」
「うん、どうやらここから出れるみたいだけど、どうだろ」
でも、今はトワの言葉を信じるしかない。
そして待つこと数分。
「――待たせたの」
「トワ! っと、抱えてるそれは……?」
鉄格子の向こうに現れたトワは鍵のようなものを持っていた。
「鍵じゃ。この牢屋のな」
「え、すごい……! どうやって?」
「こいつのおかげじゃ」
そう言って、トワは後ろを指さした。
「フン! 利害の一致ってやつだぜ。このチビに手を貸してやったのはな!」
「きみは、スライム……?」
トワの協力者は、魔物のスライムだった。しかも普通のスライムじゃない。触手のような足が身体の下で蠢いている。ゲームとかでヒールが得意なあのスライムのようだ。
「あ、テンちゃん! 助けに来てくれたんだね!」
声を上げたのはマーハだった。
「おうよ。友のピンチだからな。それに、捕まっちまったのはオレのせいでもあるからな……」
「もしかして、このスライムがマーハの言ってた友達?」
「うん、そうだよ。テンタクルスライムのテンちゃん」
「まさか、マーハの友達がスライムだったとは……。でも、魔族だから魔物と友達ってのは、変ではない、のかな?」
普通の人間はさすがに魔物とお友達にならないだろうしな。
「感動の再開は後じゃ。今はここを脱出するぞご主人」
「よし、脱獄だ。――マーハもいいよね?」
「うん! ここにご主人様はいないみたいだし――。テンちゃん、いこう!」
「合点承知だ!」
トワは鍵を使い牢の扉を開いた。
すぐに外に出て、辺りの様子を確認する。
どうやら見張りはいないようだが……。
「見張りがいない……? トワ、何かした?」
「まあ、妾というよりかはこやつじゃの」
「テンちゃんの?」
「ああ。おれの特技はは催眠魔術。地下の連中には少しばかり眠ってもらったぜ。といっても、オレ程度の魔術じゃすぐに起きるだろうがな」
「それで看守から鍵を入手できたのか。でもすぐ起きるなら急がないとだね」
「そのための抜け道じゃ。そこを使えば直接地上の外に出れる。恐らく監獄側の脱出用なんじゃろうが、警備がかなり薄い。こやつの催眠魔術で眠らせていけば問題なかろう」
「おいおいチビ助。オレの魔力も無限じゃないんだぜ? 過信し過ぎてもらっちゃ困る。有効射程もあるしな」
「わかっておる。その時はその時じゃ。それと妾の名はトワじゃ。さっきも説明したろう?」
「そういやそうだったな。わるかったよチビ助」
「こやつ……。まあいい。今は無駄な争いをしている場合ではないからの」
さすがのトワも、ここでぎゃーぎゃー言うつもりはないようだ。
おれ達はトワの案内に従い、地下の牢獄を走り抜けた。
隠し扉から階段を上り、狭い通路を抜けると少し開けた場所に出た。
「ここは……なんだろう?」
なんというか、薄暗く気味が悪い。微かに血のにおいがする。
「立ち止まっている場合ではないぞご主人。ここがどんな場所であれ我らは逃げねばならぬ身なのだからな」
「わかってる」
おれは深く考えないようにして先に進んだ。
しばらく走ると、階段が見えてきた。その先はどうやら地上のようだ。
「これで外に出れる……!」
地下通路を通り、監獄の外へと躍り出るおれ達。
久しぶりの日の光はとても眩しく、目が焼けるようだった。
「なんとか無事に脱出できたのぅ。ただ、お主らは眼が赤い。ばれればまた牢屋いきじゃ。じゃからこれを用意しておいた」
出口の近くの草むらに、フードが隠されていた。
「トワ、まさか君はここまで想定して準備を……?」
「そうじゃ。脱獄してすぐ捕まったら阿呆じゃからな。当然であろ」
「トワ~!」
「お、おい! 急に捕まえてほっぺすりすりすな~!」
あまりの準備の良さに相棒を愛撫せざるを得ない。
外に出ても、この眼がある限りこの街では危険だ。それを隠すために目深のフードを2つも用意してくれたなんてさすがとしかいいようがない。
「ふん、オレの催眠魔術のおかげで盗めたんだから感謝しろよな」
「テンちゃんもありがとね。すりすり~」
「お、オレにそういうのははいいんだよ! おい、ちょ、やめろ!」
テンちゃんは触手の一本をマーハに頬ずりされ照れている。
お互い相棒を労った後、すぐにフードを被った。
ひとまずはこの監獄都市という場所から逃げ出さなければならない。




