星降る夜に
「今日は雨かな?」
「どうだろうね?」
私は彼女の顔を横目で見た。彼女は、ぼんやりと曇り模様な空を見上げている。
ふと、彼女と目が合う。彼女は、何?って顔して、にっこり笑う。
愛おしくて、でも、恥ずかしさで視線を逸らす。
彼女はクスクス笑って、私の肩に寄り掛かる。さらさらの髪が、時より私の首を撫でて、擽ったい。
「今日、晴れたらどうなの?」
「ん?」
彼女を見下ろせば、挑戦的で魅惑的な彼女の上目遣いと合う。一瞬、心臓が止まりそうになる。
愛おしい、愛おしい。
落ちてきた言葉。だけど、それだけでは物足りないほど、気持ちが溢れて跳ねる。
「...どうって...」
ドクドクと早く打ち立てる心臓が煩くて、言葉に詰まる。視線を外せばいいのに、蜘蛛の巣に絡められた様に動く事が出来ず、むしろ、そんな表現では陳腐。
虜
彼女の柔らかい微笑みが、優しげに私を見つめるその澄んだ瞳が、物言いたげな少し濡れた唇が、私の目を釘つけにするのだ。
「...晴れたら...ねぇ?」
彼女の指先が、私の指先にそっと触れた。少し冷たいその指先。温めてあげたくて、指を絡ませ、恋人繋ぎ。
「ねぇ...って、何?」
彼女の温もりが私の手に伝われば、胸の高鳴りは変わらないのに、安心感なのか、少し冷静さを取り戻し、意地悪をしたくなる。
そう、少しふざけたような笑みで、君に顔を近づける。
距離が近い
そう思った時には遅くて、彼女が少し近づいたから、
触れるか触れないかの重ね合わせ。
「...馬鹿」
そう言って、背中を向ける彼女が、
するりと離れた指先が、
愛おしくて、愛おしくて
そっと後ろから抱きしめた。
「ごめん...」
「...もう...何の、ごめん?..」
腕の中の彼女が、私の耳元で囁く。私は、吐息混じりの艶のある声に悶えて、顔を上げられない。
心臓が破裂するかってくらいに、うるさい鼓動。
でも、彼女の音も、早いんだ。
そうして、二人で抱きしめあって、時が止まった様に。
夜
辺りが暗い。
そんな事にも気づかないくらい、彼女と一緒にいる時は、
何もかも
忘れてしまう
ただ、お互いの温もりだけ感じていれば、
幸せ
だから。
トントンっと、彼女が私の腕を鳴らす。
「ん?...どうした?」
「空..」
「空?...」
彼女を抱きしめたまま、二人で見上げた夜空は、満点とまではいかないが、晴れて、星が輝いていた。
「晴れたね」
「..うん」
嬉しそうにいう彼女に対して、私の発した言葉はなんて陳腐。
もっとロマンチックな言葉で、君を虜にできるくらいの言葉が出て来ればいいのに、そんな事を考えられないほど、
君に夢中
そう、彼女で頭がいっぱいで、そんな冷静に言葉を選べない。
「あ!!ほら!!」
彼女があまりにも大きな声を出すから、驚きながら、彼女が指さす方を咄嗟に見た。
一筋の流れ星
小さい輝きだが、可愛らしく、夜空に煌めく線を引く。
その星を見つめてたら、何か唇が湿っぽくて、遮る彼女の顔で、星は見えなくなった。
何事かも分からないまま、硬直した私。
仄かな甘い残り香を残して、離れる彼女。
「星願う前に、叶っちゃったな」
彼女のその言葉が魔法で、私を動かす。
愛おしくて、愛おしくて
もう目が離せない。
彼女が欲しくて
もっと近づきたくて
彼女をぎゅっと抱きしめた。