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聖女失格  作者: 永瀬さらさ
本編
38/45

待ち構える天才聖女

「プリメラ様。本当に、本当にこれでよろしいのですか?」


 汗をかきながら食堂に入ってきた領主に、プリメラは瞬いた。

 寝坊して、遅めの朝食をひとりで取っているところだった。口の中をもぐもぐしながら、尋ね返す。


「これでって?」

「瘴気の浄化です! どんどん、濃い瘴気が街中に出てくるように……っこれは、妖魔皇をそのままにしているからでは!? 聖爵様や夫人にお話しても、プリメラ様の言うことを聞いておけばいいと言うばかりで」


 両親では話にならないから、プリメラに直談判しにきたようだ。


(役に立たないなーお父様もお母様も)


 こんなうるさい中年がいたら、せっかくの朝食がまずくなるではないか。


「このままでは街が……聖女の仕事を放置していると、プリメラ様のことを批難する輩も出てきます! 既に住民も逃げ出す者が多数」

「あーそのほうがいいだろうね」

「は……?」


 ガレットの生地がなかなか切れない。悪戦苦闘しながらも、プリメラは説明した。


「だってこの街、このまま瘴気に覆い尽くされるし。いたらほぼみんな死ぬでしょ。逃げたほうが賢明」

「は……!?」

「あ、でも心配しないで! 被害としてはないも同然だから」


 領主が口をあけて惚けている。やっと生地が切れて、プリメラはにっこりした。


「だって妖魔皇相手だよ? 街ひとつですめば、被害はない判定でしょ」

「ごっ……ご冗談を。まさか、そんな」

「あのさあ、ちょっとは考えようよ。これだけ瘴気が漂ってるのに、他の聖爵家がちっとも手を出してこない、その意味。手に負えないからだよ」


 揉み手をしていた領主の愛想笑いが、ついに引きつった。


「……て、手に負えない、とは」

「あぁ、ボクは別だよ。ちょっと本気だせば、浄化できるから」

「な、なら今すぐに浄化をして、街を救ってください!」

「は? なんでボクがお前の言うこと聞かなきゃいけないの」


 領主が目を白黒させて、震える拳を握った。顔色も青くなったり赤くなったりと、忙しそうだ。


「……ま、街が、どうなっても、いいと……っう、訴えてやる! 聖殿に! お前なんか聖女の資格はないと……!」

「やればいいじゃん。無駄だと思うけど。だって誰も助けてくれないよ? こんな瘴気まみれの街」


 ははっと笑うと、領主が叫んだ。


「わ、私は、ベルニア聖爵家を、支持しているのですよ! それを、この仕打ち」

「だから何」


 今度こそ領主は言葉を失ったようだった。鼻で笑ったプリメラは、デザートの林檎にざっくりフォークを刺す。


「逃げるなら早いほうがいいよ?」


 警告するなんて、我ながら親切だ。

 一目散に食堂から駆け出した領主は、街からひそかに逃げ出すに違いない。切り替えが早くなければ政治家など務まらない。それを知った領民がさらに逃げ出すだろう。


「プリメラ……何か、あった?」


 領主と入れ替わりに、ジャスワントが食堂に入ってきた。


「怒鳴り声が聞こえたけれど……」

「うん大丈夫だよー。ジャスワントは逃げないの?」

「い、一応、君がいる以上、ここにいないと。皇帝候補だし、怒られるし……」


 ふうん、とプリメラは相づちを返した。どうでもいい。気弱な笑みを浮かべるジャスワントなど、もともと眼中にない。


「で、でもプリメラ。どうして、あの妖魔を殺さないのかな」

「だってお姉様が助けにくるから」

「シルヴィアが……? どうして妖魔を助けになんて」

「今までずっと一緒にいたみたい」


 切るのが面倒になったので、残りのガレットを皿からつまんで食べた。行儀が悪いなどと、プリメラが叱られることはない。プリメラのやることはなんでも正しいからだ。


「……そうか、シルヴィアが……君が捕まえた妖魔は、地下牢にいるんだっけ。あの、行ってもいいかな」

「いいけど、あんまり近寄らないほうがいいんじゃない? 殺されてもボク助けないよ」

「君にはそういう未来が視えるの?」


 ジャスワントをじっと見て、フォークが突き刺さったままの林檎を食べる。


「どうぞ、ごじゆーに」


 適当に返事をすると、ジャスワントは礼を言って食堂を出て行った。

 たとえ、ジャスワントが死んでも、次の皇帝候補を両親が勝手に選んでくる。

 プリメラにとって今、大事なのは、あの妖魔を手元に置いておくことだけだ。彼がいれば姉はやってくる。それは確定された未来だ。

 このガレットのようにおいしくあの妖魔を食べてしまったら、姉はいったいどんな顔をするだろう。そのときが楽しみで、プリメラは待っている。決して寄り道などではない。

 これはプリメラが聖女になる道なのだと、聖眼がきらめいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] お姉ちゃんは腹にグーパンの雨を降らせて良い。
2021/08/23 14:25 退会済み
管理
[良い点] ゾクゾクする!! プリメラの姉への執着最高。 先が楽しみです。
[良い点] 何という自意識過剰な女の子! 天才って祭り上げられて周りの皆が馬鹿に見えちゃうのかな。悪役として君臨するのか、実はシスコンのストーカーと墜ちるのか。楽しみです。 [気になる点] 妖魔って食…
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